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後悔の意味

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「別れるというウワサはデマで、そのデマを俺が信じたとでも、えれなが思い、俺が、えれなを狙っていると思ったので、釘を刺す意味で、清水という男を差し向けたのではないだろうか? この男が本当に付き合っている男なのかどうかは分からないが、彼女としては、俺に諦めてもらうのが目的だとすれば、誰であってもいいと思ったのかも知れない」
 と感じた。
 だとすると、やはり、この男はただ利用されただけなのか? えれなだったら、それくらいのことは平気でしそうだ。
「まさか、金で雇われたりなんかしていないだろうな?」
 とまで思った。
 いろいろ考えていくうちに、えれなに対しての憤りは激しくなっていった。
 この男も、まるで縁切り屋でもあるかのような、あざといセリフを吐く男で、えれなの方も、もしこの男が、噛ませ犬だったとすれば、好きになるに値しない女だといってもいいのではないだろうか。
 少なくとも、えれなという女は、まずは基本として、
「自分はモテるんだ」
 という思いが根底にあるのだろう。
 そうでなければ、ここまであざといことをするわけもない。あざといことをしようとするのは、自分に自信がなければできないし、最初のきっかけにあざとさを使うのではなく、最後に勝負に行く時に使うものだという発想を持っているということは、それだけ、
「自分のことを分かっている」
 と思い込んでいるからに違いない。
 自分に対して思い込みのある人は、それだけ、武器を使うタイミングも分かっているのであろうと思われる。
「では、えれなの武器というと何だろうか?」
 と考えたが、武器と言えるようなものは冷静に考えるとないかも知れない。
 それでも、誰かがいつも彼女を助けようとする。そこに何か秘密があるような気がする。
 しかし、おかしなもので、その助けようとする人間の中に自分もいるのだ。
 今から思えば、えればは、受付で目立っていて、営業の人間からは、たくさん告白されるタイプだった。
 だが、実際に、会社につき合っている人がいるという話は聞いたことがなかった。
「では、この男はやはり、噛ませ犬だということだろうか?」
 と、思うと、そこまで怒りを覚えないはずなのに、なぜかイライラしてくる。
 バカにされた気がするからなのだろうが、何をバカにされているというのか、
「そうだ、分かり切っていること、冷静に考えれば分かるようなことを、この女は、相手が分からないと思うんだろうな? なぜって? それは、相手がバカだと思っているからなんだろうか?」
 と感じるからだった。
 好きな相手や、近しい人間ほど、ちょっと考えれば分かるようなことを、自分が分からないと思われると、これほどイラっとくることはない。
「そこまで言わなくてもいいのに」
 と思うようなことを、露骨に顔に出して言ってしまったり、後で後悔することでも、その時は抑えが利かなかったりするのだ。
 特に、
「今からやろうと思っていることを、先に言われると、腹が立つ」
 という感覚である。
 子供の頃に、この思いを誰もが一度は感じたことがあるはずだ。
「今からやろうと思っているのにな」
 と、感じると、もう自分を抑えることができなくなる。
 人によっては、この思いがトラウマとなって、怒りがこみあげてくるということも少なくはないはずだ。
 湧川の場合は特にそうであった。
 子供の頃というのは、人に気を遣うということはあまりない。むしろ、気を遣ってもらって当然だと思っているからこそ、
「子供だ」
 と言われるのだ。
 それだけに、自分の中で何が理不尽なことなのかも整理がついていないのに、自分がしようとすることを先に言われてしまい、それを大人の側のストレス解消に使われているということを、遠回しに感じるようになると、子供はそれをトラウマとして捉えるのではないかと思うのだった。
 そのことを感じると、自分が考えていることを先に言われるのを、極端に嫌う人がいる。
えれなの場合が特にそのようだった。
 湧川も自分にあることだと思っていたので、それだけを見ただけで、
「二人は合わない」
 と言えることは明白だった。
 それでも、こんな噛ませ犬のような刺客にならない男を送り込んでくるというのは、湧川も、
「いい加減、舐められたものだ」
 と、感じたのだ。
 だからと言って、自分がそんなに頼りになる男だというわけではない。だが、こんな露骨なことをされて、それに気づかない、あるいは、分かったとしても、怒らない人間だとでも思ったのか、それを思うと悔しいというか、情けないというか、好きになりかかっていただけに、こんな女だったのかと思うと、辛いというべきか、これでよかったとでもいうべきか、複雑な気持ちにさせられるのであった。
 清水という噛ませ犬は、えれなといかにも親しそうにしているのだが、えれなが次第に鬱陶しそうにしているのが見え隠れしてきた。
「噛ませ犬のつもりだったのが、まるで、ミイラ取りがミイラにでもなったかのようなことなのか?」
 と感じさせられた。
 会話も実にぎこちなさそうで、噛み合っていない。
 清水の方は、懐かし話をしているつもりなのだろうが、えれなの反応が鈍そうだった。
 それはきっと、
「私だったら、そんなことはしない」
 あるいは、
「そんなところにはいかない」
 というようなことを、あからさまに清水が言ったからだ。
 少々際どい場所を、
「こんな時に口にするなんて」
 と思うようなことを露骨にいうからだった。
 しかし、もしそれが、えれなから、
「少し、大げさに言ってもいいわよ」
 と、事前に言われていたとすれば、納得できないこともない。
 だが、それだって、本人がひいてしまうほどの話をしているのだとすれば、それは、えれなの人選ミスであり、自業自得と言ってもいいだろう。
 もちろん、あくまでも、清水という男が、
「噛ませ犬だ」
 ということであればの話であるが、果たして真相はどうなのだろう。
 それでも、ここまでお互いがうまく行っていないのに、いまさらただの友達なとと言っても通用しない。たたの友達が行くようなところではないところを、生々しく言ってのけるのだから、下手をすれば、この男、今までにも噛ませ犬の経験があるのかも知れない。
 ただ、それにしては、あまりにもへたくそではあるが……。
 そんな状況において、まだこの男は、何かを言おうとしている。
「空気が読めない」
 という意味では、この二人はお似合いではないか。
 と思えてくると、
「まさか、この男、噛ませ犬なんかじゃなく、本当に付き合っているんじゃないか?」
 と思えてきた。
 だとすれば、えれなの方が別れたいと思っているとすれば、湧川を新しい彼氏と見立てて、清水という男に諦めさせようとしているのかも知れない。
「だとすれば、この俺こそ噛ませ犬なんじゃないか?」
 と思えてきた。
 もし、そうだったら、こっちとしてはたまったものではない。まったく打ち合わせがないどころか、話すら聞いているわけではない。一体、どういうつもりなのだろうか?
作品名:後悔の意味 作家名:森本晃次