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真実の中の事実

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 だとすると持ったとすれば、死にたいと思った時ではなく、死というものとかかわりのない時に感じたということか?
 死というものをそんなに簡単に、意識できるものなのかと思うと、潜在意識というものは恐ろしくなってきた。
 ただ、もし感じたかも知れないと思うのであれば、それは、夢で見たことだったのかも知れないといえるのではないだろうか?
 そんなことを考えていると、次第にそれまで穏やかだった風が次第に強くなり、風の強さで、自分の意識が我に返ってくるのを感じた。
「いつまでもいるところではない」
 と、最初はあれだけ癒しを感じていたのに、最期には、死の覚悟まで考えさせられるとは思わなかった。
 もちろん、死の覚悟などを思い出さなければ、こんな思いを感じることもなかったのだろうが、やはり、この場から早く離れることが一番だと思わざるをえなかったのだった。
 急いで車に戻り、その場から立ち去った。
 大通りまで出ると、結構車が走っているので。
「俺はどれくらいいたんだ?」
 と思い時計を見ると、1時間もいなかったではないか。
 本人の感覚としては。まるで今が真夜中の感覚だ。それだけ、あの場所が暗かったということであろう。
 部屋に帰ると、最初に感じた部屋の雰囲気よりも、少し狭く感じられた。理由はいくつか考えられる。
 一つは荷物が入ったことだ。まったくと言っていいほど何もなかった部屋に、まだほどいていない荷はたくさんあるが、とりあえず、机や箪笥、水屋のようなものは入った。テレビ、ラジカセのような、音が出るものも入っている。当時は、テレビもやっとリモコンが出てきたくらいの頃だ。今のように、地デジところか、普通に衛星放送などというのも、普及されていなかった。
 ラジカセはというと、ダブルカセットが流行った時期で、ダビングが可能だったので、学生時代には、友達から借りてきたカセットを自分ように、好きな曲だけをシャッフルさせる形で録音したものだった。
 もっとも、表で聞くときは、ヘッドホンステレオのようなものはあった。
(通称で言われているものは商品名なので、一般的には言葉としてはつかえないと思われる)
 もう一つの部屋が狭く感じられる理由は、
「表が暗くなった」
 ということであろう。
 光が差し込んでくる時間帯は、その光が影を作っていた。今も蛍光灯の明かりがあり、影は作っているが、どうしても、人工的な影であるということは否めない。そう思うと、夜の蛍光灯の影は、くっきりとしすぎて、その範囲を決めてしまうのだ。
 そのことが、部屋を狭くさせる要因なのではないかと思うのだった
 さらにもう一ついえば、満腹状態になったことで、一気に睡魔が襲い掛かっていることが考えられる。何しろ、何時間も掛けて、前の勤務地のある街から、車をはるばる走らせてきたのではないか。それを思うと、眠気が襲ってくるのも当然というものだ。
「布団だけには入って寝ないと風邪をひく」
 とよく、親から言われてきた。
 親に対しては、結構逆らう方だったが、こういう忠告だけは忠実に守る方で、まわりからは、
「お前は変なところで律義なんだから」
 と言われていたものだった。
 明らかに眠りに落ちていくのは感じていたが、気がつけば、朝だった。
 いつ、寝間着に着替えたのか、ちゃんと着替えてはいたし、いつかけたのか自分でも覚えていないが、確かに目が覚めたのは、目覚ましのおかげだった。
「朝の、7時5分」
 想像していた通りの時間である。
 こんなに早く起きる必要はないのだが、別に目覚めが悪いわけでもないのに、こんなに早く目が覚めたのは、
「この時間に起きた時が、一番仕事中に眠くなることはない」
 という、佐伯独自の勝手な思い込みだったのだ。
 会社の始業時間は、9時である。新人なので、遅くとも、8時20分までにはいかなければいけないと思っていた。
 本当はもっと早く行けばいいのだろうが、
「開いていなかったらどうしよう?」
 という思いがあったのだが、正直それはないのは分かっていた。
 前の支店であれば、一番早く出社してくる人は、7時半には来ていた。
 もちろん、一番ノリは営業の人で、8時過ぎくらいまでには、営業は皆集まっていた。管理の人は、8時を過ぎた頃には来ていたであろうか? 佐伯はまだ研修中ということもあって、しかも、車での通勤ではなかったので、バスを使っての出勤だったということで、8時20分くらいの出社となった。
 始発だと、一番ノリの人も出社していないということであり、何しろ、バスに乗っても、途中で乗り換えなければいけないという手間まであったので、それも仕方のないことだった。
 今度の支店がどのような感じなのか分からないので、とりあえず、8時10くらいまでには来るようにした。それでも、研修中の支店の時よりも、かなり楽であることには違いない。
 支店は、海の近くにあった。夜に見た、あの製鉄所と平行して走っている浜沿いの国道の向こうには、その製鉄所の敷地があった。
 ちょうど支店から、製鉄所の煙突が見えていて、その煙突から煙こそ上がっていなかったが、その存在感は、ハンパではなかった。
 会社に行くと、昨日の支店長と、営業の先輩が数名来ていて、挨拶をすると、皆表情は明るく、
「おはよう」
 とあいさつをしてくれたが、かまってくれたのは支店長だけで、他の営業の先輩は、すぐに顔を下に向けて、仕事に戻っていた。
「こんなにも、シビアなんだ」
 と感じた。
 研修の時にも、そういう雰囲気はあったが、あの頃と違って見えるのは、単に支店が違うからであろうか?
 それだけではないような気がする。
 正直、誰も顔を上げることはしなかった。
「それだけ、朝の仕事は皆、早く出社しなければ間に合わないということか?」
 と感じた。
 確かに、営業は営業手当がつくが、それだけではない何か自分なりの努力が必要なのだろう。何しろ、営業は競争ではないか。同じ支店の中であっても、その評価はあくまでも、成績でしかない。
 どんなに毎日早く出てきて、努力をしていても、それが実らなければ、
「無駄が多いのではないか?」
 というマイナス面しか評価されない。
 それだけ、営業は目に見えない仕事をしていることであり、数字だけでしか評価されないという、ある意味理不尽な仕事なのだ。
 元々、大学で、最初は教員を目指していたので、それも、生徒に教えている合間に、自分の研究をコツコツ重ねることで、自分の地位を高めようと思っていた。
 それが、いつの間にか、会社勤めをするようになったことが、一種の人生の間違いだったのかも知れない。
 そんなことを考えていると、研修をしていた支店との違いが、次第に身に染みて分かってくるのではないかと思うようになってきた。
 そんなまわりの冷たさに、自分の身の置き所を一瞬にして失ったその時の心境は、まるで、
「俎板の鯉」
 の状態だった。
 支店長がそれを見かねて、
「あと少ししたら、会議を始めるので、そこの会議室で待っていてくれればいいよ」
 と言われたので、待合室で待つことになった。
 その時、ちょうど会議室の掃除に入ってきた女子社員がいたのだが、彼女を見た時、
作品名:真実の中の事実 作家名:森本晃次