小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

真実の中の事実

INDEX|5ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

 彼女は、サークルの仲間で、同じサークルの中に付き合っている人がいるという話を聞いたことがあったので、実は諦めていた。
 佐伯は誰かを好きになっても、その人に誰か好きな人や、付き合っている人がいれば。すぐに諦めてしまうタイプであった。
「俺なんか、どうせダメなんだ」
 と、諦めることが自分にとっての立ち位置だったのだ。
 だが、今回は、彼女の方から来てくれた。しかし、彼についての相談かも知れないので、もし、そうだったら、彼女の応援団に徹して、アドバイスをしてあげることができるだろうか?
 実際に彼女のは足は彼のことで、
「別れた方がいいと思う?」
 という、一番辛い相談だった。
 だが、それでも、
「いや、もう少し頑張った方がいいんじゃない? ダメなら俺がいるさ」
 と言ってのけた。
 相手の背中を押す形にはなったが、最後にチクりと自分の気持ちを皮肉っぽく言えただけでもよかったのかも知れない。
 逆に彼女に、これを皮肉だと思ってくれた方がいいだろう。男としての意地が通るからである。
 だが、そんな意地を通すための皮肉だとすれば、これは、自分が望むことなのだろうか?
 最初から言い訳ありきで言っているように見えて、情けないだけではないか?
 そんな風に思うと、
「結局、最期は、俺の落ち着くところに落ち着くしかないんだ」
 と思うと、またしても、失恋という堂々巡りの中に入ってしまうのだった。
「一体、俺の落ち着くところって何なんだ?」
 と思うと、結局、この堂々巡りしかないと思うほかはなかったのだ。
 彼女は、一体、佐伯に何を求めていたのだろう? 本当は喫茶店にでも言って話を聞くべきだったのだろうが、気が付けば、河原に来ていた。しいて言い訳をさせてもらうとすれば、
「人に聞かれたくないような話だったら、喫茶店というのはまずいのではないだろうか?」
 と考えたからだった。
 実際に、河原に行くまで、彼女は決して、佐伯の横に並ぶことはなかった。そして何も言わずに、佐伯のそばに座ったのだ。
 佐伯が先に座ったことで、彼女が座ったというところだけが、
「彼女を誘導した」
 ということになるのだろう。
 彼女が佐伯の前に出なかったのは、自分の後ろに男を置きたくなかったということだったのだろう。
 その時の心境はすべて、後から彼女が手紙を認めてくれたことで分かったのだったが、その時の彼女は何もしゃべらなかった。喋らないのはその人の意思なのでそれは仕方がないのだろうが、彼女は、手紙に、そのことも書いていた。
「あなたが、一言も話してくれなかったのは、私にはショックだった」
 と書かれていた。
 少しでも、自分に自信がある人間であれば、
「何を上から目線で言ってやがるんだ。俺はお前のために、時間を割いてやったんだぞ。ありがたく思え」
 というくらいになって当然のことであろう。
 だが、佐伯には、その手紙の内容が分かっていたような気がした。最初からすべてが分かっていたわけではないと思うが、上から目線で言われた内容を見て、
「どうせ、こんなことなんだろうよ」
 と感じることだろう。
 女というのは、男に何かを求めて、それが思い通りの形で返ってこなかったら、自分勝手な解釈をするものである。
 そのことを、初めて、彼女の手紙で知ったのだった。
「俺って、こんなにも情けなかったんだ」
 と感じた。
 だが、女の子が話を聞いてほしいといって、ノコノコそのわけも考えずに出て行った自分も自分である。彼女の言う通り、もう少し考えがあってもいいのではなかったか?
 何しろ、彼女は、
「俺のことを信頼して、勇気を出して、相談してくれようとしたのではないか?」
 と感じた。
「彼女に対しては、ちゃんとできなかったけど、他の女の子に対しては、ちゃんと話ができる、相手をがっかりさせないような男にならないといけない」
 という意識に目覚めていたのだ。
 それまでは、女の子と話をしても、何も言えなかったとすれば、
「それは、自分がまだウブだということで、相手を好きなのかどうか、考える資格もないのかも知れない」
 と感じていた。
 だから、彼女に対して、
「申し訳ない」
 とも思えた。
 これは、彼女の上から目線に対しての、佐伯にとっての、せめてもの抵抗のようだと言ってもいいだろう。
 彼女の手紙の中には。確かに彼との別れについて書かれていた。
「あなたに背中を押してほしかった」
 と書いていることから、確かに、男らしいところを期待してくれたのかも知れない。
 その期待に応えられなかったのは、自分が悪いからで、だが、それを認めてしまうと、その先が見えてこない気がしたので、手紙を読んで、一喜一憂しないように心がけたのだった。
 彼女は最後に。
「彼がダメなら、あなたでも……」
 というようなことを書いていた。
 これは完全に、彼女の間違いである。これは上から目線でも何でもなく、男心というものを舐めているといってもいいだろう。
「誰もいいといっているだけにしか聞こえない。こんなことを言って、男が喜ぶとでも思っているのか?」
 と、怒りがこみあげてきたのだった。
「彼がダメなら、俺でもいい」
 という解釈を相手に与える内容だ。
 本人の意識がそこにあったのかどうかは不明だが、これを読んで人間はそう感じるだろう。そう思うと、
「下手に口に出すのも、怖いな」
 という発想も生まれてくる。
 だが、果たしてそうなのだろうか? 話をしなければいけない時というのは、必ずあるもので、すべてを怖がっていては、何もできないというものである。
「俺は何を怖がっているというのだろうか?」
 女の子が、男性に助言を求めている。何についての助言なのか、彼女の方から話をしてくれるわけではない。
「こっちから、話を切り出せるようにするべきなのか? それが男の役目だというのだろうか?」
 と、そんなことを考えていると、変な汗が滲み出てくるのを感じた。
 それが変なプレッシャーであることは分かっている。相手から聞き出さなければいけないことであれば、相手が言いたくないことも理解しておかなければ、触れられたくないことと、聞いてほしいことが紙一重ではないかと思うからだ。
 なぜなら、相手が聞いてほしいことを自分から言えないということは、こちらに対しての警戒からではなく、むしろ自分が変なことを言ってしまって、自分が触れられたくない紙一重のことに触れられるのではないかという危惧があるからではないだろうか? 
「きっと、彼女は自分のそういう性格を知ってのことなのだろう」
 と考えた。
 プレッシャーというものは、相手に簡単に伝わるものだ。だから、彼女にもこちらのプレッシャーが伝わっていることだろう。
 だから、何も言えないのだ。
 まるで、二匹のサソリがにらみ合っているかのようだ。
「自分は相手を殺すことができるが、逆に相手も自分を殺すことができる。つまり、こちらが動く場合は、相手から殺されるという意識を持っていなければいけないという意味で、もろ刃の剣だ」
 といえるだろう。
 そうやって、永遠に動けなくなるのは、金縛りとは違うが、
「同じようなものだ」
作品名:真実の中の事実 作家名:森本晃次