真実の中の事実
今のように、カーナビなどがあるわけでもない。下手をすれば、まだ中古車であれば、ドアミラーではなく、フェンダーミラーだった時代だ。自分が買った車はドアミラーだったが、今の人は、車のボンネットの最先端の左右にあったバックミラーを知っている人は少ないのではないか。
一部のタクシーについているくらいなのが今の時代。今は、キャッシュレスでお金を払えたり、さらには、予約もスマホでできる時代だ。昭和に比べれば、本当に未来の乗り物というべきだろう。
ただ、車が劇的に変わったというわけではない。車本体はそろそろ時代的に、電気自動車が出てきたくらいだ。昔、未来予想図にあったような、空間に透明な筒のようなところを、タイヤのない車が走っているシーンや、空中を走っている車などは見ることができない。
「同じ未来の、パラレルワールドというところか?」
と、未来が無限に存在するということを考えさせられそうな感じだった。
子供の頃に見た未来の想像図には、ロボットやタイムマシンのようなものがあり、地球人は、宇宙旅行が自在にできるものだった。
まったくそっちの文明は開化していないが、コンピュータ関係においては、劇的な発展をしている。
むしろ、いろいろパラレルに万遍なく発展しているわけではなく、一つのことに特化したような発展の仕方であった。
それを思うと、世の中というのがどういうものなのか、考えさせられる。
政治経済に関しては、まったく進んでいない。むしろ、劣化していっているといってもいいだろう。ひょっとすると、
「ピークを通り越した」
ということなのかも知れない。
政治家や専門家は、その意識がないので、まだ理想を追い求めているだけではないかと思うと、納得がいく部分は多いだろう。だから、今の政治家が、本当にポンコツだと言われるのだろう。
和代の過去
デートに誘うまでには、そんなに考えすぎることはなかった。誘ってみれば、あっという間に計画は具体的になった。実際にデートの日もまったく違和感がなく、博物館で芸術を見た痕、そのままレストランで食事をした。
そもそも、芸術的なことには疎かった佐伯だったが、歴史好きということが幸いしたのか、歴史の話題が芸術の話を超越し、芸術の歴史の話で、何とかなった。
ただ気になったのは、芸術そのものよりも、歴史に特化した話になると、どこか自慢げに見えるのではないかというところが気にはなったが、何も知らないよりもマシかと思えば、それでよかった。
それに話をしていると、
「彼女には、あざとい雰囲気はない」
という印象になり、歴史の話でも興味深く見てくれるのが嬉しかった。
そしてこの時に気づいたのだが、
「和代さんという人は、普段は癒し系の雰囲気があるが、急に目力の強さを感じるんだよな」
と思うと、思い出したのは、最初に出会った時だった。
かわいらしさの中にある、凛々しさというものを感じたのを思い出した。それは、彼女の目力の強さを感じたからだと思うと、妙に納得がいくのだった。
確かに凛々しさがある中で、どこか滑稽な動きを示していたのが不思議だったのだが、それが、目力によるものだと思えば、納得がいくものである。
デートというのは、大学時代に何度かしたことがあったが、実は鬼門であった。
今までデートした後にほとんどの場合、それから数日の間に、
「あなたとはもうお付き合いできません」
と言って、皆去っていくのだ。
最初の頃は、
「なんでなんだよ」
とばかりに、まるでストーカーのようになってしまったくらいだった。
だが、そのうちに、
「俺はデートすれば、すぐに失恋する運命にあるんだ」
と思うようになり、ある意味開き直りにもなってきた。
ダメならダメで仕方がないというよりも、
「そのうちに何かの間違いでまだ付き合うことになるかも知れないが、そうなると、その相手が運命の人なのかも知れないな」
という、ポジティブな考え方を持つようにもなっていた。
そんなことを思い出していると、今回のデートは、少し臆病になってきた。
「今回ほど、間違いが起こってほしい」
と思ったことはなかった。
ウソでもいいから、このハードルを越えたいのだった。そのためには何でもできると思うのだが、実際に何をどうしていいのか分かるはずもない。そもそも、まともなデートなどどうすればいいというのか?
せめてできることというと、自分の正直なところを見せるくらいしかないだろうか。つまり、
「今まで自分はデートなどほとんどしたことのない。彼女ともほとんど続かなかった」
ということを、いざとなったら正直に話して、玉砕すればいいとまで思っていたのだ。
もちろん、玉砕などしたくはない。それでも、何かの覚悟をしないと、この難局は乗り切れないというのであれば、開き直りという玉砕しかないではないか。
そう思って、デートに望んだのだった。
確かにその日のデートは楽しかった。今までに感じたことのない楽しい思い出ができたのは間違いないが、それだけに、余計に、
「別れたくはない」
という思いが次第に募ってくるのを感じたのだ。
翌日はさすがにビビっていた。彼女の顔をまともに見ることができない。彼女の方は、本当に何事もなかったかのように毎日を過ごしていた。
それだけに怖かったのである。何か一言くらい声がかかってもいいではないか。
仕事が終わって、駐車場にいくと、そこに彼女が待っていたのは、デートから三日が経った、水曜日のことだった。彼女は笑顔を振りまいてはいない。その表情は真剣そのものだった。
「どうしたんですか?」
と聞いても、すぐには答えようとしない。
「とりあえず、どこか話ができるところに行こうか?」
と言って、車を走らせたが、彼女は一言も話をしようとしない。
時々一緒に言っていた喫茶店に行こうかとも思ったが、込み入った話だったりすれば、人に聞かれたくない話もあったりして、
「さすがに、それはまずいだろう」
ということで、会社から少し離れたところの、浜辺に行くことにした。
その場所は、ちなみに、この間、この街に引っ越してきた場所とも違うところであった。
ちなみに、この間初めてきた時に行った防波堤なのだが、あそこには、やはり曰くがああり、この話は、転勤してから2週間くらいしてから、これまた、おせっかいなパートのおばさんから教えてもらった話だった。ただ、その時教えてくれたのは、松本さんではなく、別の人からの情報だった。
松本さんは、おせっかいではあるが、それほど口が軽い人ではない。年齢的にも松本さんはパートさんの中でも中心にいるべき人で、落ち着いている人だった。
その情報を教えてくれた人は、一番口の軽そうな人で、
「この人なら、最初に何でも話してくれるんだろうな」
とは思ったが、それだけに、どこまで信用していいものか分からないというところがあるのも事実だった。
だから、最初は半信半疑で聞いたのだが、あの時の感覚を思い出すと、
「なるほど」