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真実の中の事実

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 佐伯にとっての初めての一目ぼれの相手が和代だというのは、自分では運命だと思っている。
 どこに運命を感じたのかというのは、もちろん、まだここでは分かっていない。この時には、
「彼女とは、きっと運命的なものがあるはずだ」
 と感じたことくらいだ。
 それだけでも、すごいことだと思うのは、
「彼女は、俺をここで待っていてくれたんだ」
 ということを信じて疑わないことだった。
 なぜなら、彼女の口から、
「松本さんに声を掛けられたから」
 という言葉を聞いたからだ。
 普通だったら、相手をその気にさせるのではないかということで、そういうことはなるべく言わないものだと思ったからだ。
 そもそも、こういう男女の付き合い始める前の会話など考えることなどなかったはずの佐伯が、まるで悟ったように感じたことだった。
 どちらかというと、自分が恋愛に疎いということを隠そうとせずに、虚勢を張ることはしないタイプだった。だから、なるべく、大人の恋愛のようなことは似合わないはずなのだから、考えないようにしていたのだ。
 それが自然と出てきたのだから、相手は大人の女性ということもあって、
「自分は今までと違う」
 と考えていた。
 和代は、その時、必要以上なことは言わなかった。
 それは、大学時代の彼女のように、
「黙っているのは、相手に何かを期待しているからだ」
 と言わんばかりだった、あざといとも思える女の子とは違う、あくまでも、
「大人の女性」
 を醸し出す雰囲気に、完全にやられたといってもいいだろう。
「だから、逆にあの時と違って、今日、主導権を握るのはこの俺なんだ。いや、俺でなければいけないんだ」
 という思いを抱いたのだった。
「実はですね。その松本さんから、博物館のチケットを貰ったんだけど、よかったら、ご一緒しませんか?」
 と切り出した。
「えっ? 私とでいいの?」
 と、あざとさにも見えるその表情を、どう解釈していいのか分からない気持ちになっていたが、
「ええ、高山さんがいいんです」
 と、調子に乗って言ってみた。
 すると、和代は明らかに嬉しそうに微笑んだ。あれは、少なくとも嫌がっているようには見えなかった。
「こんな私で」
 と言われて、二つ返事で、
「もちろんです」
 と言ったが、ゆっくり考えてみると、
「こんな私で?」
 というのは、何か、彼女ではまずいという確固たる理由があっての言葉でもなければ、普通は、あんな言い方はしないだろう。
 そのことに、冷静になってみれば感じたが、かといって、いまさら否定するのもおかしい。
「じゃあ、ご一緒しようかしら?」
 というのを聞いて、完全に有頂天になってしまった。
 自分が一目ぼれした相手を、サポートがあったとはいえ、デートに誘うことができたのだ。
 それは、今までの自分からすれば、それだけでも進歩なのであり、和代という人をさらに惚れるきっかけにさせてくれたのだった。「もちろん、気になることがないわけでもないが、これだけ見れば見るほど魅力にあふれた女性なのだから、何か曰くがあっても、それは当たり前のことだ。逆にそれくらいの人の方が好きになるのに当然だと思える人だということの証明なのだろう。
「ありがとうございます。嬉しいです」
 と、思いっきりの笑顔を見せると、彼女はそれを見て、クスクス笑っているのが分かった。
 その表情は、前から想像していた通りだった。
 和代さんの顔をいつも思い浮かべては、
「彼女だったら、こういう時には、こういう態度を取るんだろうな」
 という発想をいつも抱いていたものだ。
 いろいろなパターンを思い浮かべるので、時間がいくらあっても足りないというものだ。仕事が終わって、することがないので、部屋にいても、ただ退屈なだけだった、研修期間中とはまったく違う毎日がまっていた。
 それだけ、世の中が変わったといってもいいだろう。今まで見ていた人生は、確かにリアルさという意味ではあったかも知れない。だが、それは最初に考えていた、ある意味最悪に近い形での演出で、
「ああ、やっぱりこういう人生を歩んでいくんだな」
 という諦めに近い形を抱いていたのだが、こちらの支店に転勤になってから、徐々に変わりつつあった。
 パートのおばさんたちを始めとして、事務員の女の子も、佐伯に対してかなり興味を持ってくれて話しかけてくれるのが、純粋に嬉しかったのだ。
 あくまでも、
「都会からきた新入社員」
 という意味での、
「田舎者としての興味」
 というだけのものなのかも知れない。
 それならそれでもよかった。中には本当に興味を持ってくれる人も出てくるかも知れない。
 研修の時の支店のように、
「忙しいのに、何新人研修要因なんか入れるんだよ。役に立つわけでもない。本社にあれだけ人の補充を頼んだのに、まったく叶えてくれないじゃないか?」
 という態度が露骨に見えたのに比べればマシな気がした。
 ただ、営業だけは違っているようで、佐伯のことを、完全に、
「お荷物」
 としてしか思っていないのだった。
 だから、今も毎日出社するのが、一番の苦痛だった。
 朝目を覚ますだけでも億劫なのに、会社に行くと、営業社員の顔が明らかに引きつっている。
 それは別に佐伯に対してというだけではなく、要するに、目が血走っている、修羅場のようなところである。
 しかも、それは、
「静かに燃える」
 というような場所で、一生懸命に仕事をしているがゆえのことなのだろうが、まわりを見ていないくせに、実は、バリバリにまわりを意識している。
 競争心が漲っているというわけだ。
「誰かが脱落すれば、その場所に食い込んでみせる」
 とでも言いたげで、その勢いは、誰にも負けないと、自負しているようだ。
 そのくせ、その気持ちを表に出さないつもりでいるのだから、たちが悪い。
 表に出たとしても、今度はそれを使って、今度は上司にでも媚びようというのか、それが作戦であれば、本当はあざといのだろうが、それがあざとくないと思えるほどに、その場の雰囲気は歪んでいるのだ。
 だから、そんな場所にいるだけで息苦しくなっていって。吐き気を催すくらいのはずである。
「朝が一番嫌いだ」
 というのはそういうことだ。
 そういう意味でいけば、帰りも嫌だ。
 当時は今のような、どこかの腑抜けのようなソーリが打ち出した
「働き方改革」
 なのかどうか知らないが、いわゆる、
「サービス残業」
 ということで、上司が帰るまで、帰ることは許されないという、年功序列の縦割りが常識だった時代である。
 今でも縦割りに違いはないが、少なくとも、年功序列という、枷はなくなったといってもいいだろう。
 そういう意味で、帰れないのは苦痛であったが、終わってしまえば自分の世界、腹が減れば、好きなものが食べれるのだ。
 あの日のことが忘れられず、仕事が終わると、例の焼肉食い放題にほぼ毎日通っている。給料のほとんどを焼肉に費やしているといってもいいだろうが。別に他に使うこともない。
 しいていえば、ドライブする時のガソリン代と、音楽を聴くために録音テープを少しでもたくさん作ることだった。
作品名:真実の中の事実 作家名:森本晃次