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真実の中の事実

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 本来であれば、金儲けのために、強引に伝染病の流行に目を瞑ってでも、自分たちだけの都合で開催しようとしている世界オリンピック協会の連中に、唯一意見が言えそうな人間を世間は、
「女性蔑視だ」
 というだけの理由でクビに追い込んだのである。
「伝染病のために、オリンピックを開催するべきではない」
 と言っている連中がいる中でも、委員長辞任には賛成だったというのは解せない気がする。
「どうして、こんな矛盾したことができるんだ?」
 と思ったのは、作者だけであろうか?
 要するに、
「いくら、世相がそういう方向に動いているとはいえ、やりすぎてしまうと、他の秩序や方向性を見失ってしまう」
 ということになるというわけである。
 確かに令和の今と、昭和の時代であれば、世の中はまったく変わっているのだが、秩序やモラル、そんなものまで変わってしまえば、世の中はうまくいくはずもなく、
「亡国の一途を辿る」
 と言っていいだろう。
 だが、彼女とその時、出会ったのは、違って言うが、最初から狙っていたわけではない。それよりも、彼女への思いが、
「偶然を演出してくれた」
 と言ってもいいのかも知れない。
 いや、彼女の方も、佐伯のことを気にしていたのだとすれば、偶然も必然に見えて、自然なのかも知れないだろう。
 そう思うと、まわりが薄暗くなっているのも、天が味方をしてくれたのかも知れないと思うのだった。すでに、足元から伸びているであろう影も、街灯の明かりでは、ハッキリしなくなっているくらいだった。
 最初に気づいたのは、和代の方だった。
「あれ? 佐伯さんじゃないですか?」
 と声を掛けられて、少しビックリしたように、
「ああ、高山さん。今お帰りですか?」
 と、当たり障りのない挨拶をしてしまった。
 考えてみれば、声を掛けられたことも、二人きりで話をしたのも初めてだった。
「こうでもしないと、話ができないのか?」
 と思ったほどだったが、これがきっかけになれば、それに越したことはない。そう思うと、大学時代に、
「相談がある」
 と言ってくれた女の子を相手に、何も話をしてあげられなかった自分がシンクロしていたのは間違いないことで、その時の思いがトラウマとなって、自分から人に話しかけることはおろか、話しかけられても、答えられる気がしていなかったことから、その時は、自分から話しかけるよりも、話しかけられることに抵抗があった。
 だから、何とか話しかけられるようにしたいと思っていた矢先だったのだ。
「話しかけられる前に話しかけないと」
 と思っていたはずなのに、意表を突かれたことで、
「どうしよう」
 と思った、
 もし、和代が、
「女の子から話しかけられたのだから、男性は嬉しくないはずはない」
 と思っていたとすれば、それは大きな間違いだと言いたい。
「まあ、ほとんどの女の子はそう思うわな。だから、俺がトラウマになって、さらに、そのトラウマが、PTSDになりかかっていると考えたとしても、無理もないことだ」
 とさえ、大げさであるが思っていたのだ。
 当たり障りのない挨拶をした佐伯を見て、和代は可愛らしい笑顔を見せて、
「ええ、そうですよ」
 と言った。
 彼女の笑顔は、まるで、愛玩犬を見ているような笑顔に見えた。目の前にいる佐伯が、まるで柴犬を見ているような雰囲気に見えた。
 そして、そうやって近づいてくる相手に、怯えを見せて、後ずさりをするのだが、尻尾は激しく揺れている。そんな犬のことをすべて分かっているかのように、遠慮することなく近づいてくる和代に対して、佐伯の怯えは次第に消えていく。
 その時はまだ知らなかったが、さすがに、以前、付き合っていた人がいただけのことはあるというものだった。
「何かね? パートの松本さんがね。佐伯さんが何かお話があるようなことを言っていたので、待っていたのよ」
 というではないか。
 この、
「待っていた」
 というのは、佐伯が声を掛けてくれるのを待っていたということなのか、それとも、松本さんの言葉を信じて、佐伯をこの場所で待っていたというのか、どっちにしても、和代の言葉は、一つの告白に匹敵する。
 それに対して、ハッキリとした返答をしないというのは、これ以上の失礼はないだろう。ちなみに、松本さんというのは、チケットをくれたおばちゃんのことである。
 松本さんも、チケットをあげたはいいが、進展が見られないのを見て、
「どうしたんだい」
 とばかりに、業を煮やしたのかも知れない。
 そういう意味では、まずは、松本さんに対して失礼ではないか。このまま誘わないくらいだったら、あの時、
「いりません」
 と言って答えた方が、よほどいいではないか。
 これ以上の失礼はないという状況よりも、今の方がずっと失礼だといえるのではないだろうか?
 ここでハッキリしなければ、二人ともに失礼にあたり、下手をすると、支店にいられなくなってしまうかも知れない。
「今まで何とかこの会社でうまくやってきた努力が台無しだ」
 と、それが仕事以外のことであることに、ビックリしていた。
 しかし、会社を辞めるきっかけになることというと、案外仕事以外のことが多いというのも事実で、今まで会社を辞めたという人の理由が、意外と仕事以外のことが多かったのが印象的だったのを思い出した。
 社内恋愛というものが、いかに危険であるかということは、今に始まったことではなく、以前から聞いていた話だった。
 そういう意味では、学生時代に彼女を作っておけばよかったのかも知れないが、できなかったのだから仕方がない。
 ただ、学生時代に彼女ができていたとしても、就職してしまうと、疎遠になったり、お互いに仕事が忙しくて、そういうことは言っていられなくなったりするであろう。そう思うと、大学生から付き合っている女の子がいたとしても、それはまるで遠距離恋愛のようで、成就するのは、ほぼ難しいのではないだろうか。下手をすると、遠距離恋愛の方がまだマシかも知れない。それを思うと、学生時代に付き合っていなくてよかったともいえるだろう。
 ただ、学生時代まで、付き合ったことが一度もないわけではなかった。だが、付き合ってみると、あっという間に終わっていた。
「一度デートしただけで、終わってしまった」
 という、まるで、
「成田離婚」
 のようではないか。
 逆にいえば、
「デートまで行ってしまったことが間違いだったともいえる。友達以上恋人未満という言葉があるが、まさにその通りで、恋人になろうとすると、そこで無理が出てくるというのか、それとも、自分には、恋人を作るということ自体、土台無理なことなのか、それを考えてしまう」
 のだった。
 だが、もう一つ考えているのは、前述のように、佐伯には、今まで一目ぼれは一度もなかったということである。
 相手の顔を見て、そこから性格を判断する。人の顔を覚えるのが苦手な佐伯なので、顔から性格を判断するなどというのは、無謀と言ってもいいくらいなのではないか。
 そう思うと、一目ぼれというのが一度もなかったというのも、無理もないことだったのだろう。
作品名:真実の中の事実 作家名:森本晃次