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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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紫に暮れる空 探偵奇談25 前編

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「あ、はーい。じゃあね、岡崎さん、また明日。ばいばい」
「うん、ばいばい」

後ろ髪をひかれる思いで、郁は立ち上がった。この後彼女が一人で教室に残り、一人で下校するのかと思うと、寂しい気持ちになる。

「須丸の兄ちゃん、昼休みに食堂で松前のお悩み相談聞いてたぞ」

美波が言うのを、瑞が顔を歪めて聞いている。「うわあ」と心底嫌そうに言う。

「…ぜってー説教されてる。女のことで悩んで授業料をドブに捨てるなとか言ってそう。てか間違いなく言ってる…」
「こえ~」

美波と瑞がそんな話をしている。教室から出かけたとき、郁の背後で短い悲鳴が聞こえた。

「!」

ガタガタという音に振り返ると、恵麻が床に両手をついてへたりこんでいた。椅子が倒れた音だったようだ。郁は慌てて駆け寄った。

「だ、大丈夫?落っこちたの?」

恵麻はまっすぐに前を見つめている。その顔は恐怖に歪み、唇がわなわなと震えている。郁は彼女の視線を追う。雨で薄暗い教室の黒板があるだけだ。

「来ないで…もう許して…」

震える声で、そんなふうに呟いてるのが聞こえる。郁はその肩をゆすって名前を呼んだ。弾かれたように郁を見た恵麻は、はっと我に返ったように俯いた。恥じ入るように。

「なに、どうしたの」

瑞がそばで見下ろしている。恵麻はかばんをひったくるように取ると、なんでもないと言い残して足早に教室を去って行った。

「どうしたのかな。椅子から落ちて驚いたとか?」

美波の言葉に、そんなふうじゃなかったと郁は思う。何かに驚き、そして怯えていた。