紫に暮れる空 探偵奇談25 前編
「紫暮さんが言ってた。あの子が事情を話してくれたら助けてあげられるって」
「はい。あたし、少しずつでも信頼してもらって、先生に事情を話してもらえるように頑張ってみますね。無理強いはしないように、気を付けます」
朝練を終え、郁と並んで教室に向かう。今日も雨模様だ。梅雨入りはもう間もないだろう。途中で美波が合流する。
「雨やだね~髪ふくらむし」
「わかる。すぐうねってなるよね」
「そういや郁、前髪つくんないの?」
美波の言葉に、二人の後ろを歩いていた瑞はどきっとする。
「顔大きく見えるから前髪作ってるんだって、言ってたのに」
「うん、でも、もうしばらくは…これでいいかなあって…」
郁が前髪を切らないのは、瑞との約束があるからなのだ。誰にも切らせないで、と、瑞の身勝手な思いの押しつけを、郁が笑顔で受け入れてくれた。いつかちゃんと彼女の思いに答えられる日が来たら。
(情けない…)
まだ、郁の思いに答えられるだけの自信がないのだ。
(顔大きく見えるの気にしてんのか…別に大きくないし、かわいいけど。でも俺が待たせてるし…)
結局のところ、自分は意気地がないのだ。胸を張ってあの子に思いを伝えられたらいいのに。
「おはー。てか何、めっちゃ静か」
教室に入ると、いつもは賑やかな教室が静かで、美波が不審がった。ひそやかな声がさざなみのように広がり、不穏な空気が流れている。
「なに、どうしたの」
そばにいた級友に尋ねると、「いや、なんかこれが…」と手にしたスマホを見せて来た。ネットニュースのサイトだ。
『女子高生飛び降り。いじめを苦に自殺か』
「これが何」
「岡崎のいた学校らしくて」
作品名:紫に暮れる空 探偵奇談25 前編 作家名:ひなた眞白