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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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紫に暮れる空 探偵奇談25 前編

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何にせよ、と紫暮がため息をついた。

「あの子が何を隠して怖がっているか知ってやらなくちゃ、何もできん」
「そうですよね。親も頼れないって、けっこう深刻だと思います」
「うん…事情が分かれば学校から家庭に介入できるかもしれない」
「それに…彼女、さっきの弓道場で言ってました」

伊吹は思い出す。わたしにも弓が引けますか、と聞いた時の恵麻の様子を。

「自分に向き合いたいと、そんなふうに思ってるんじゃないかな…あるいは抱えている問題に向き合いたいって」

でも、それが困難な状況にあるということなのだろう。同感だと紫暮が頷いた。

「自分自身が否定する自分を、誰かに肯定してもらいたいって…俺はそんなふうに思いました」

そのとき瑞のスマホが鳴った。

「一之瀬?ありがとう。メール見た。変わりないか…うん、わかった」

貸して、と紫暮が手を伸ばす。瑞からスマホを受け取った紫暮は郁に向けて話し出す。

「一之瀬さん、無茶なお願いをきいてくれてありがとう。ご迷惑をおかけして申し訳ない。うん、うん、ありがとう。岡崎さんに替わってくれるかな?」

しばしの沈黙のあとで、恵麻が出たようで、紫がは静かに切り出した。

「言いたくなかったら言わなくていい、とは、俺は言わん」

少し厳しさをにじませた口調に、伊吹はどきっとする。隣の瑞も同様な様子で、ぐっと黙り込んで成り行きを見守っている。

「そのままじゃ苦しいだけなのが、わかるから」

だから、とそこで紫暮の声が優しくなった。

「言いたくなったら、いつでもかけておいで」

柔らかな口調が、その場の張りつめた空気をほどいていくのがわかる。

「それで救われることが、きっとあるから」

回線の向こう側で、彼女はどんな顔をしてこの言葉を聞いているのだろう。しばらくの沈黙のあと

「わかったら返事」

突然授業中の紫暮に戻り、隣の瑞がぴんっと背筋を伸ばす。紫暮はしばらく黙ってスマホに耳を傾けていたが。

「大変よくできました」

そう言ってふわっと笑ったのだった。通話ボタンを切って、はい、と瑞にスマホを返す。

「大丈夫そうですか…?」

尋ねた伊吹に、わからないと紫暮は答えた。

「でも、助けたいな」

真摯な声色に胸を打たれた。紫暮は彼女の担任なわけではない。昨日転校してきた短い付き合いの生徒でしかないのに。