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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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紫に暮れる空 探偵奇談25 前編

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郁と紫暮が職員室に鍵を返しにいく間、瑞は伊吹と恵麻とともに校門で二人を待っていた。今日も霧の様に細かい雨が降っていた。傘の隙間を、制服の隙間を縫って、肌寒い空気が入り込んでくる。

「梅雨前なのに、夜はヒヤッとしますね」
「季節の変わり目だしな。寒暖差キツイ」

そんな話をする瑞と伊吹の後ろで、赤い傘を持って静かに立っている恵麻。郁は、すすんで孤立する彼女を気に掛けている。教室でもそんな様子が伺えたし、弓道部に連れて来たのはその気遣いの一端だろう。

(ほっとけないんだろうな…)

郁のことを考えると、胸がふわっと温かくなる。その気遣いや優しさを、自分に向けられたらと想像する。でもたぶん、瑞が気づかないだけで、郁はいつだって瑞を気遣いや優しさを向けてくれている。それがわかってしまった。自分はたぶん、ものすごく贅沢だ。

「おまえ何ニヤけてるんだ…」

気味悪そうに伊吹が言い、慌てて否定する。

「ニヤけてないよ!」
「あっそ」
「先輩、誤解は解けたはずです!!」
「………」
「そんな目で見ないで!!」

ぎゃあぎゃあ騒いでいて、気づくのが遅くなった。後ろの恵麻が、ぶつぶつと何か呟いている。

「岡崎さん?」

伊吹が異変に気づく。恵麻の傘は地面に落ちている。ぬかるみの上にしゃがみ込んだ彼女、は誰もいない校庭の方を見ながら、頭を抱えて何か呟いている。その顔は恐怖に歪んでいた。

「くる…」

おかしい。

「おい岡崎」

尋常でない様子に瑞はそばに屈みこんだ。

「あそこにいる!!!」

あらぬ方を指さし、どうしよう、どうしよう、と恵麻は繰り返す。

「ごめん、ごめんなさい、許して、お願い!!!」

誰かに向かって謝罪を繰り返す。そばにいた瑞に掴みかかるようにして体を支え、彼女はなおも繰り返す。