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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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紫に暮れる空 探偵奇談25 前編

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恵麻に声をかけようとしたとき、周りが静かにざわめいた。射場に、伊吹と瑞と紫暮が立っている。

「ウワア~!あの三人立ち、絶対見たい!行こう岡崎さん!」
「う、うん」

あの三人は指導に回ることが多いから、射場で本気の射を見られることはあまりない。数人の部員が見守る中で、行射が始まる。

大前の瑞から、中の伊吹、落ちの紫暮。流れる様に美しいタイミングの三人立ちだ。それでもよくよく見れば三人が三人とも細部の動きには違いがあり、それぞれの色が出ている。

(須丸くんに、少しは追いつけてるのかなあ)

どの動作にも、郁はまだ何一つ追いつけていない気がする。でも、だからといって落ちこまなくてもいい。焦らなくていい。そう思えるのは、前にすすんでいる証拠なのだ。

「すごかった…」

三人が射場から出てきてしばらくしてから、ずっと黙っていた恵麻が口を開いた。

「なんか息、できなかった…」
「ね。すごいよね!」

コクコクと頷く恵麻。同じ感覚を共有出来たのだと思うと嬉しかった。
矢をとって戻って来た伊吹に、恵麻が遠慮がちに声をかけた。

「あの、今日はありがとうございました」
「うん。お疲れ様でした」
「あたし、行儀よく正座するのもキツイくらいで、ほんと初心者ですけど…頑張ったら、郁ちゃんみたいに弓を引けるようになりますか…?」

その言葉に郁は驚く。恵麻の横顔を見ると、彼女は真剣そのものだった。
なれるよ、と伊吹が笑った。

「みんな初めは初心者だから。真摯に自分に向き合えば、きっと自分の射が出来るようになる」
「こんなあたしにも…?」

声が少し震えている。伊吹は優しい瞳で肯定する。

「どんな人でも」

主将の言葉は、どうしてこんなに響くんだろう。郁もこのひとに、何度も励まされて、前を向かせてもらってきた。それは、郁らと同じように悩んで、もがいてきたからなのだ。決して天才ではない。努力の人だから。