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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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紫に暮れる空 探偵奇談25 前編

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郁ら二年生が先に、巻き藁に向かっている。胴着姿の紫暮がそれを後ろから見ている。

「一之瀬さんの早気は随分よくなってきた。もう殆ど、自分のタイミングで離せるようだ」

紫暮がそう言う。郁の苦悩や努力をずっとそばで見て来た伊吹は、自分のことのように嬉しい。郁は焦りや不安、緊張、思うようにいかない現実など、様々なことが要因となり、早気というイップスの一種に陥っていたのだ。自分の思いに反して勝手に矢を離してしまうというもので、伊吹にもこの早気と逆で矢を離せない「もたれ」に悩まされた過去があった。

「いつの間にか、弓返り(ゆがえり)も出来るようになってるし、ものすごく努力したと思います」

弓返りとは矢が離れるときに弓が手の中で自然に回転することだ。手の内が決まっていないと弓は回らない。正しく引けている証拠だ。

「彼女自身もだけど、伊吹くんの指導もよかったんだよ。根気強く寄り添っていた。離すタイミングを一秒単位で、少しずつ少しずつ長くしたんだろう。きみ自身にも焦りはあったはずなのに、すごいね」

この人に褒められると心から嬉しい。

「いい結果になったなら、俺も嬉しいです」
「このまま会をたもてるようなら、弓の重さをそろそろ一つあげてもいいかもしれない」
「そうですね」

実習生の彼が指導者の立場でここへ来たのは、つい二週間ほど前だ。それなのに、部員一人一人を本当に見ていると驚かされる。現状を知り、課題を見極め、必要なことが何かを一緒に考えてくれる。決して強要はせず、本人が納得して稽古や課題に向き合えるようにしてくれる。自分にも他者にも厳しい人だが、絶対に突き放して一人にしない。

「あの見学してる子なんだけど」
「はい?」

岡崎恵麻のことか。紫暮は視線を巻き藁に向かう部員に向けたまま伊吹に言う。

「少し気になる子なんだ」
「え?」