紫に暮れる空 探偵奇談25 前編
(このジャケット…)
返しそびれた。いや、クリーニングに出してから返さなくては。大きなジャケットは、体だけじゃなくて心も温めてくれた。冷たい雨や、諦めの気持ちや、絶対に消せない大きな罪から。
(部活…どうしよ、嫌だな。もう誰とも関わりたくない…)
ジャケットをかき抱いたまま、恵麻はベッドに寝そべった。目を閉じた耳もとで、誰かの息遣いを感じた。
「…ごめんね」
息遣いはやがてひそめられた声に変わる。
ぜったいに ゆるさない
「お願い、許して…!」
耳を閉じても、声は脳内に響いてくる。逃げられない。部屋中に、ドンドンと壁をたたく音が鳴り響く。耳を閉じてうずくまり、ぎゅっと目を閉じてただ耐える。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
まさか。あんなことになるなんて。
思ってもみなかったの…。
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作品名:紫に暮れる空 探偵奇談25 前編 作家名:ひなた眞白