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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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紫に暮れる空 探偵奇談25 前編

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綺麗な名前。字もすごく綺麗だった。夕暮れの、紫がかった空を想像する。

「しぐれ…きれいな名前だね、先生」
「そうか?」
「うん…夕暮れの時の空の色みたい」

紫暮はそこで、今日初めて笑った。穏やかな、優しい笑顔だった。誰かが自分に笑いかけてくれるのはいつぶりだろう。何だか泣きそうになる。

「俺が生まれたときの空の色なんだって。夕暮れ時で、空がすごく綺麗だったみたい」

願いをこめられた美しい名前。この美しく穏やかな人にぴったりだと、恵麻はそう思った。誰かの名前を綺麗だとか、想像した空を美しいと思える気持ちを、久しぶりに思い出した気がする。

「…先生、ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げて玄関の扉を開ける。閉じる扉の向こうから教師が見守っているのが見えた。

台所では母が待っていた。恵麻は身構える。ぴん、と緊張が走る。

「…もう二度と、問題を起こさないで」

あんなに優しくて明るかった母が、鬼のような形相でこんなに冷たい声を発するなんて。目も合わせてくれない。

「引っ越したのも、転校したのも、母さん達の仕事が変わったことも、どうしてだか忘れないでちょうだい」
「わかってる…」

恵麻はそのまま自室に入った。暗い部屋。まだ引っ越しの片付けが済んでいない。段ボールがそこら中に置かれた部屋。ベッドに倒れ込んで、疲れた体も磨耗した心もすべて投げ出す。こんなまま、毎日が続いていくのか…。暗澹たる気持ちで、枕に顔をおしつける。

(あ、そうだ。先生の…)

電気をつけてスマホと、紫暮から渡されたメモを取り出す。たくさんあった連絡先も、フォロワーがたくさんいたSNSも、今はもう全部消えてしまった。母の携帯番号だけが登録されている電話帳に、紫暮の電話番号を登録した。