紫に暮れる空 探偵奇談25 前編
(でもこの先生も、)
ぎゅっと自分の体を抱きしめる。
(知ったら、離れていく)
前の学校の教師も、親も、近所の人も、友達だと思っていた連中も、みんな恵麻から離れていった。だって恵麻は、取り返しのつかないことをしたのだ。
「…帰る」
恵麻は立ち上がった。根負けだ。教師は「そうか」とだけ言って自身も立ち上がる。
「家どこ」
「あっち」
歩き出す恵麻の頭上に傘が差し出された。そのまま並んで無言で歩き出す。足取りが重い。家に帰りたくない。でも、帰らないわけにもいかない。教師はもう何も言わないが、恵麻が濡れないように傘を掲げてくれていることは伝わった。20分ほど歩き、住宅街の一角にあるマンションの前で、恵麻は足を止める。
「家ここだから。じゃあ…」
「親御さんに説明してから帰る」
「え、いいよ…そんなの」
「転校初日から何してたって怒られたくないだろ」
「それはそうだけど…」
教師は譲らず、エレベーターに乗り恵麻の家の玄関のチャイムを鳴らす。
「…恵麻!あんた何したの今度は!」
教師が高校名を名乗ると、出て来た母親はきっと眦を上げて恵麻を睨んだ。唇を固く結んで、恵麻は俯く。
「申し訳ありません。転校の手続きや部活の見学や説明で、お帰しするのが遅くなりました。わたしの責任ですので、どうか叱らないであげてください」
作品名:紫に暮れる空 探偵奇談25 前編 作家名:ひなた眞白