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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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紫に暮れる空 探偵奇談25 前編

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それは嘘ではない。

「もうほっといて」
「しかしなあ」
「じゃあ先生の家に泊めてよ」

それは無理、と教師はあっさり言った。少しの期待が砕かれた。

「俺はただの実習生だし、きみを保護するだのあーだのするのは無理」
「だからもうほっといてって言ってるでしょ…」
「でも無視して帰るわけにはいかんでしょうが。せめて送るから。瑞(みず)は先帰ってろ」

瑞と呼ばれた弟は、わかったとだけ言って、こちらを気にする素振りを見せた後、行ってしまった。家どこだ、と隣に座った教師は言った。恵麻は無言を貫く。もう帰ればいいのに。
しかし教師は帰らなかった。長い足を組んで、雨にけむる街路樹をじっと眺めている。小雨が降り続けていて、どんどん気温が下がっているのがわかった。カーディガンはさっき濡らしてしまったから、スクールバッグに突っ込んである。寒い。さっきも少し降られたから。風邪をひいてしまうかもしれない。でも、もうどうでもいいかな。

「着て」

教師が濃紺のジャケットを差し出してきたので、恵麻は戸惑った。

「でも」
「風邪ひく。濡れてるだろ。傘、なかったのか」

自分なんて、風邪をひいて死んでしまえばいい。そうは思っても温かさが恋しいし、寒いのは嫌だと思ってしまう。受け取って袖を通した。教師のぬくもりが残っていて、自然と安堵の息が出た。温かい。膝を抱えて、体中をぬくもりで包む。

そのまま時間だけが流れていく。根気強い教師だ。家はどこだと促したのは初めの一回きり。実習生だから何も出来ないと言ったくせに、とことん付き合おうとでもいうのだろうか。