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思いやりの交錯

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「やらされている」
 というイメージが強くて嫌だった。
 それは儀式に限らない。学校行事も同じだった。
 特に、運動会や音楽会は嫌だった。
「運動は苦手だし、楽器だってまともに吹けないのに、どうして、全員参加なんだ」
 という思いであった。
 運動会などは、選手に選ばれなければ出ることはないのだろうが、何かしら選ばれることになっている。特に日曜日に学校に行かなければいけないのは、嫌であった。
「毎週、朝見たいテレビが見れない」
 という単純な理由であったが、子供には一大事だった。
 確かに、父兄が来るには会社が休みの時でないといけないというのは、分かるのだが、別に全員運動会に駆り出す必要がどこにあるというのだ。
 大人になって考えてみると、会社で、参加したくない飲み会に駆り出されるのと同じではないか。大人の世界では、最近では、ハラスメントなどというのがあって、強制はできない風潮にあるが、小学生にはそれを口にする権利はないのだろうか?
 父親だって、皆が皆子供の運動会に行きたいわけではない。中には日曜出勤の親だっているはずだ。それこそ。差別であったり。強制的なハラスメントであったりするのではないだろうか?
 そう思うのは、マサトだけであろうか?
 えりなとの感動の時間がゆっくりと終わりに近づいてきた。もし、これが一人だったら、罪悪感のような、いわゆる、
「賢者モード」
 という脱力感に見舞われてしまうというようなことを聞いたことがあったが、今日は幸いにも先輩と一緒に来ていたので、かろうじて、賢者モードに陥らずに済んだ。
 終了時間を知らせるベルが鳴り、名残惜しさを残しながら、えりなから、
「また、会いに来てくださいね」
 と言って、ニッコリと微笑まれると、
「ああ、これが一番求めていた癒しというものだろうか?」
 と感じた。
 確かに、絶頂を迎える前も、あんなに興奮していたのに、それを忘れてしまいそうになるくらいに、彼女の笑顔が癒しとなった。
 ただ、もちろん、身体には童貞を卒業した証のような快感がまだ残っていた。しかし、感情はあの快感をいつまでも覚えているわけではないのだ。
 そこが、男と女の違いというのか、果ててしまうと、襲ってくる賢者モードによって、男性はいったん、気持ちも身体もリセットされるのだ。
 女性は何度でも絶頂を迎えることができるというが、そんなにも身体の構造が違うのだということを、この日、知ったのだ。
 そう、えりなの方は、何度も絶頂を迎えていたようで、それを見ているだけでも、男として嬉しくなるのだと、マサトは感じたのだ。
 それは、一人でする時には、絶対に感じることのできなかったもの。
「やはり、女性とセックスをするということは、人間である以上、正常な営みなんだ」
 と感じたのだった。
 着替えを済ませ、先ほどの、真っ暗な通路を逆行し、待合室に向かう時、カーテンまで、最初と同じように、腕を組んで、えりなが見送りをしてくれる。
「どんな気分になるのだろう?」
 と思っていたが、その気持ちは、賢者モードというよりも、次回のことを考えている自分がいる気がした。
 もちろん、余韻を楽しみながらであるが、今の自分の経済状態や、さらにそれから嵌ってしまうことを考えた時、どれくらいの間隔がいいのか、などと考えていると、今日の別れによる一抹の寂しさや、油断すれば陥りそうになる、賢者モードに入らずに済むような気がするのだった。
「また会いましょう」
 と言って、頬にキスをしてくれた時、
「まるでサラリーマンが不倫相手とその日の別れをするようだ」
 と感じた。
 決して、
「会社に向かう旦那を送り出す新妻」
 という感じではないということは確かだった。
「俺って捻くれているのかな?」
 と感じたが、別にそうではない。
 やはり、賢者モードに陥らないようにしたいという気持ちの表れだったのかも知れないからだ。
 となると、
「今日は先輩とずっと一緒にいるのがいいのか、それとも、ある程度が過ぎれば、一人になるのがいいのか、どっちなんだろう?」
 と思った。
 とりあえず、えりなと別れ、カーテンの外に出て、少しそんなことを考えながら、待合室の扉を開いた。
 そこでは、すでに時間を終えた先輩が待っていてくれた。
「おお、どうだった?」
 とニコニコしながら、声をかけてくれた。
 先輩の顔を見ている限り、先輩には賢者モードは感じられない。
「さすが先輩だ」
 と思ったが、それが、先輩の性格から来るものなのか、それとも、経験を重ねると、賢者モードにならなくなるものなのか、よく分からなかった。
 先輩を見ていると、元気すぎて、本当にビックリだった。ただ、肌の艶が心なしか感じられたので、
「俺も、艶ってるのかな?」
 と感じたほどだった。
「癒されました」
 と、先輩の質問には、答えた。
 身体という意味では、
「気持ちよかったです」
 と言えばよかったのかも知れない。
 こういう場所の初体験なのだから、そういう答えを期待していたのかも知れないと思うと、先輩に悪いことをしたという感覚になったが、
「おお、そうか、それはよかった」
 と言って喜んでくれた。
 もし、これが、最後に、
「よかったな」
 と一言つけられると、まるで他人事のように思われ、今の答えが間違っていたのではないか? と感じさせられたのかも知れないが、そうではなく、
「よかった」
 と言い切られたことは、自分の返答があれで悪くなかったということを感じさせられて、正解だったと思うのだった。
「お前の顔を見ていると、身体の反応がどうなのかは分かるからな。やはり、最後に部屋を出た時に、感じたのが、癒しだったのだって、今の言葉で分かったからな。そうなんだよ、こういうお店に来てしまうのは、癒しを求めるからさ。ただの行為だけなんて、虚しいじゃないか」
 と先輩はいうのだった。
「だが、気を付けないといけないのは、ガチ恋に陥ってしまうと、正直怖いからな。それだけは気を付けておいた方がいいと思うぞ」
 という。
「ガチ恋って何ですか?」
「ガチ恋というのは、相手をしてくれた女の子のことを本気で好きになったりすることなんだけどな。いろいろな意味でヤバいだろう」
「どういうことですか?」
 と聞くと、
「だって、まず、金銭的に持つか、どうかだよな? 1か月に1回でも大変なのに、下手をすれば、一週間に一回、お金のある人なら、数日に一回なんてことをしていると、それこそ抜けられなくなるだろう? そして、思いが募ってくると、今度は金銭的な感覚よりも、ストーキングをするようになって、彼女を出待ちしてみたり、密かに後をつけて、家を探ってみたりとかいう、犯罪行為に繋がりかねない。そうなると、どうしようもなくなってしまって、本当に抜けられなくなる。女の子からも、店からも嫌われて、出禁にされるだけならいいが、警察に通報されてしまいかねない。だから、ガチ恋は恐ろしいのさ」
 と先輩は言った。
 先輩の話を聞いて、話の内容を想像できる自分が怖かった。
作品名:思いやりの交錯 作家名:森本晃次