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思いやりの交錯

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 それでも、やはり判官びいきというのは、少数派であることに間違いないといってもいいだろう。
 ただ、マサトは、そんな、
「判官びいき」
 と言われるような少数派とは少し違う。
 人の意見を聞いたうえで、感情に任せてではなく、自分の中で、心に残ったものを自分なりに調べてみて、それでも感銘を受けたものであれば、多数派であっても、少数派であっても関係ないということである。
 今の時代は、いくらでも気になったことをすぐにネットで検索することができるので、実に便利な時代になったものだ。
 そういう意味では逆にそんな時代に乗り遅れてしまうと、短い期間で、かなり溝を開けられるということもある。そのために、臆してしまって、途方に暮れる人もいるかも知れないが、冷静に考えれば、
「溝を開けられたといっても、相手も早いスピードで進めるわけだから、自分にできないわけはない」
 と言って、どんどん吸収していけば、距離は縮まらないかも知れないが、置いて行かれることはない。
「その気になれば、いくらでも何でもできるというものだ」
 と思うようになったのは、大学に入って、いろいろな友達ができたからなのかも知れない。
 ただ、そんな中で、どうしても迷いも生じるだろう。そんな時にどうすればいいのかを、冷静に考えることが大切なわけで、
「こんな悩みは自分だけでなく、皆が感じることであり、誰もが通る道だと思えば、別に臆することなどないのだ」
 といえるかもしれない。
 そんな大学時代に、自分にも好きな人ができた。たくさん作った友達の中には、女の子もいる。友達の友達として紹介された女の子もいたりしたので、そんな女の子に対しては、なるべくよこしまな気持ちを抱かないようにしていたが、講義でたまたま隣になった女の子と話をしたことで仲良くなった女の子のことが気になり始めると、
「俺って、この子のことが好きなんじゃないだろうか?」
 と感じるようになったのだ。
 それまで、自分が童貞だということを気にはしていたが、
「今まで彼女がいなかった」
 ということを気にすることはなかった。
 高校時代までは、
「進学のために、皆勉強に勤しんできたんだ」
 と思っていたからで、勉強もせずに、青春を謳歌していた連中に、大学生活など簡単には訪れないと思っていたので、別に、彼女がいないことを、悔しいとまでは思わなかったのだ。
 その分、
「大学で、いっぱい恋愛をしてやるんだ」
 という思いがあったので、それが、やっと実るかも知れないと思うと、ウキウキして、自分が有頂天になっているのを感じた。
 だが、気になっていたのは、
「彼女と呼べる人ができるまでに、本当は童貞を捨てたいな」
 とも感じた。
 だから、友達や先輩の中で、
「誰でもいいから、その機会を与えてくれる人っていないかな?」
 と思っていたのだ。
 そこで、ちょうどいいタイミングで現れたのが先輩だった。
 先輩は、
「お前、まだ童貞なんだろう?」
 と相手の気持ちを気にすることなく、そう言ってきた。
「ええ、そうですけども」
 と、探るようにいうと、先輩は笑って、
「まあ、そんなに固くなることはない。高校時代まで童貞だったというやつは山ほどいるからな。だけど、せっかく大学に入ったんだから、彼女ができる前に童貞を捨てたいと思わないか?」
 と、先輩の話も、マサトが考えていたのと同じ発想のように聞こえた。
「ええ、それはもうその通りです」
 と答えると、
「よし、じゃあ、童貞喪失の儀式を、俺が演出してやろう」
 というではないか。
 頭の中に、風俗の文字が浮かんできて、AVでは見たことのある、ソープというものの映像が頭に浮かんできた。完全にアドレナリンが放出されているようで、なんだか、変な汗が出てきているような感覚だった。
「卑猥な臭いがしているかも知れない」
 と感じたが、それも悪いことではないと思えるほどのアドレナリンの量ではないだろうか?
 先輩が連れていってくれたのは、この地区で一番大きな歓楽街だった。そこには、性風俗店が乱立しているところだった。先輩が性風俗について、豆知識を教えてくれた。
「風俗の法律的な基本は、風営法なんだが、実際に細かいことを決めているのは、都道府県の条例なんだ。だから、都道府県ごとに決まりが違っている場合があるから、気を付けなければいけない。ただ。それも、店ごとでも違うわけだから、あまり気にする必要はないけど、たとえば、ソープを作る時は、その町でも、一丁目だけしかダメだとか、その都道府県では、作ってはいけないとかいう条例があって、県に一軒もないところも存在するくらいなんだ。大きなところでは、大阪府なんかがそうらしいんだ」
 と教えてくれた。
 さらに、
「ソープの営業時間は、ほぼ早朝の早いところで、朝の6時から、夜は日付が変わるまで、これも、風営法の範囲であって、その間を条例が定めることになるんだ。だけど、デリヘルのような、店舗型ではない性風俗には時間に制限がなく、24時間でも大丈夫だったりするんだよ」
 ということであった。
「先輩はよく知っているな」
 と思ったが、それは自慢話でもあったが、それよりも、
「後輩が安心してついていける相手だということを、示してくれているんだろうな」
 と思うと、先輩が頼りになる人だと思えて、実際に安心感が生まれてくるのだった。
 先輩が連れていってくれた店は、風俗が乱立している雑居ビルの3階だった。
 エレベーターを降りると、右手と左手側に、それぞれお店の入り口があった。右側の店は、シックな感じのお店のロゴがついた大きな看板が、壁に張り付いた形の照明付きで、植え付けられていて、反対側のお店は、女の子のイラストが載った形のお店になっていた。
「こっちだ」
 と言って先輩が指を刺したのは、左側のお店で、店の前には、
「新感覚」
 という文字が躍っていた。
 先輩は躊躇することなく、そそくさと店の入り口に入っていった。入り口は普通の自動ドアになっていて、表から見ると、薄暗く見えるが、扉があくと、普通に明るいので、
「マジックミラーになっているな?」
 ということはすぐに分かったのだった。
 マサトも遅れることなく先輩についていったが、入ってすぐに受付カウンターがあり、先輩が受付を済ませていた。マサトも一緒にいくと、
「ちょっと待ってろ」
 と先輩に言われたので、控えていると、先輩はすぐに隣の部屋に入っていった。
 すると、受付のまるでバーテンの衣装のようなお兄さんが、
「どうぞ、こちらへ。お待たせいたしました」
 と言って、丁寧に頭を下げて挨拶してくれた。
 一瞬臆したマサトだったが、
「あっ、どうも」
 と言って、同じく頭を下げたのだった。
「こちらのお店は初めてだとお伺いしましたが」
 と言われたので、どうやら先輩が話をしてくれたようだ。
 こういう店自体が初めてだということを相手が言わなかったのは、敢えてかも知れない。知っているのではないかと思って話をする方がいいと思うのだった。
「ええ、まあ、こういうお店もですね」
 というと、相手はニコリと笑って、
作品名:思いやりの交錯 作家名:森本晃次