小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

思いやりの交錯

INDEX|22ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

「風俗って、男にとっては、癒しを求めに行っているんだよ。もちろん、お金の分のサービスを求めるというのは当然なんだけど、女の子に気持ちよくサービスをさせてあげたいという気持ちを男が持つのは大切なことだと思うんだ。女の子だって、癒しを与えたいと思っているんだから、最初は気持ちは一緒のはずだからね」
 というと、つかさは、ゆっくり頷いていたが、彼女さんは、力強く何度も頷いていた。
 二人のリアクションは正反対ではあるが、
「気持ちは一つ」
 という感じに見えるのは、どういうことなのだろうか?
 先輩がさらに続けた。
「今言ったように。最初は。お互いに気持ちは一緒だと思うんだ。だけど、話をしていくうちに、二人の間に溝ができることがある。そうなってくると、男の方は、どうしたんだろう? っって思うんだろうが、女の子はかなりの溝を感じると思うんだ。それだけ、自分がプロだと思うのか、それとも、お金をもらっているという意識があるからなのか。さらには、他の人との時間と比較してしまうからなのかね。そうなると、修復できないと思い込まないとも限らない。それって、ものすごくきついことなんじゃないかって思うんだよ」
 というと、今度は逆に、つかさが、何度も頷き、彼女さんが、ゆっくりと頷いていた。「感じていることは同じなのか?」
 と思ったが、微妙なリアクションの差が、二人の間にはあるんだと感じた。
 その思いがどこから来るのか分からなかったが、マサトは二人を注意深く見ていた。
 すると先輩は、
「将棋の手でね、一番隙のない布陣というのは、どういうものなのかってわかるかい?」
 と聞かれると、
「私は知っているから、お二人さんで考えてみて」
 と言って、彼女さんはニコニコしていた。
 マサトは、意味が分からずに考え込んでいたが、つかさは、
「それって、最初に並べた布陣なんじゃないですか? 一手打つごとにそこに隙が生まれる。攻守のバランスが難しいということなんじゃないかって思いますけど」
 というのだ。
 すると、先輩は、
「さすがだね。その通りだよ。これは減算法という感覚になるんだけど、攻めるには、守りを崩す必要がある。だが、攻めなければ、膠着状態で、事態は進まない。そうなると、必ずどちらかに焦りが出てくる。こちらが攻めなければ、相手も攻めてはこないですからね。いきなり相手が守りに入っているところに攻め込むことは、飛んで火にいる夏の虫と同じだからね。攻撃というのは、相手も攻めてきているから成立するのであって、相手が守りに入ると、攻めることはできない。お城の攻城戦だって、そうなんだよ。攻める方が守る方よりも大変だっていうだろう? 守りに徹している相手を攻めるというのは、実に難しいことなんだ。だとすれば、膠着状態になるのは必至であり、そうなった時に。生まれてくる焦りをいかに抑えられるかが問題なんだ。まあ、これを、お客とソープ嬢の関係に絡めるというのは、いささか強引だとは思うけど、身体の快感よりも、お互いに癒しという精神的なものから入っている二人にとって、歩み寄るということは、攻撃と同じ考えだと思ってもいいかも知れないんだ。それを考えると、それを一日に何回もこなしているソープ嬢って、俺はいつもすごいなって思うんだ。相手をしてもらっていると、天使がいるんじゃないかって思うくらいなんだ」
 という先輩の話を聞いて、つかさも、彼女さんも、同じように、
「うんうん」
 と、何度も、そして深く頷いていた。
 二人のリアクションが、一致した瞬間だったのだ。
 そんな二人を見て、
「ホッとした気分になった」
 と感じたマサトだったが、ひょっとすると、今の自分も、二人とまったく同じリアクションをしていたのではないかと感じたのだ。
 そんな会話をしているうちに、話はお開きの時間を迎えた。肝心の先輩が、
「ちょっと、これから用事があるんだ」
 ということだったからである。
 3人とも納得してその場をお開きとなったのだが、先輩はその用事のために、そそくさとその場を離れていったが、女性2人は、
「私たちは、一緒に帰るね」
 と言って、二人が群衆の中に消えていく後姿を見ていたが、気のせいか、つかさが彼女さんより少し後ろから歩いているような気がした。
「今日の会話の中だけの二人の力関係なのか、元々二人の間に力関係が存在していたのだろうか?」
 ということを、マサトは考えさせられた。
 マサトは一人になったことで、今度は冷静になってきて、先ほど感じた思いをまた考えていたのだ。
「つかささんが、この間相手をしてくれようとした、あいりさんだということになれば、どうして、俺を拒否したんだろうか?」
 と考えたが、
「やはり、あの時拒否をしたのは、先輩が関係なるのではないだろうか? 待合室にあの時いたのは先輩だったので、えりなさんのいうことが本当だとすると(たぶん、間違いないはずだ)、彼女は自分の相手を先輩だと思ったのだろうか?」
 と思った。
 だが、先輩のあの口ぶりであれば、別につかささんが風俗嬢であっても、別に気にはしないと思うのだが、もし、それを彼女が気にしているのだとすれば、
「彼女は先輩のことが本当に好きなのかも知れない」
 とも思った。
「自分のこんな姿を見せたくない」
 という思いがあったのか。
 だが、先輩のような人は気にしないだろう。気にするとすれば、やはりつかささんの方であるのではないだろうか?
 ただ、そんなつかささんの、
「微妙な行動」
 があったのに、今回のつかささんを紹介してくれるようなこんな会を催してくれたのには、何か意味がありそうな気がする。
 これは、マサトの思い込みなのかも知れないが、
「これまでの先輩が何か意外なことをする時というのは、いつも、何か意味があったとしか思えない」
 と感じているのだ。
 だから、今回も何か意味がある。
 それが、マサトに対してのことなのか、つかさのことに対してのことなのか、それとも、彼女さんのことなのかも知れない?
 今回彼女さんは、表に出てきてはいないが、わざわざこの場面で登場させる理由があるとすれば、男女比を、対等にする必要があったという程度のことで、つかさとマサト、そして先輩の関係の中で、彼女さんを登場させることは、危険をはらんでいるように感じたのは、マサトの気にしすぎであろうか?
 そんなことを考えていると、マサトはつかさのことを、
「もっと知りたい」
 と感じるようになった。
 それは先輩に知られることのない知り方であった。
 あいりがつかさかどうかということも含めて、知りたいことだったからだ。
「こうなったら、いけないことなのだろうが、ストーキングするしかないのではないか?」
 と思ってしまった。
 とにかく、あいりの出勤時間が公開されているホームページを見て、その時間、つかさが自分の前にいれば、同一人物疑惑は解消するだろう。
 だが、もし、同一人物だとすると、
「つかさは、二重人格なのだろうか?」
 と感じてしまった。
 ただ、皆で話をしている時、興味のある話に食いついてくるあの感覚は、本物であろう。そう思うと、
「二重人格という感覚とは、少し違っているかのように思える」
作品名:思いやりの交錯 作家名:森本晃次