思いやりの交錯
「お店に予約をする時、3種類あるんだ。まずは、ホームページなどがあるところね。ない場合も、無料案内所のようなところがサイトを設けていて、そこに加盟すれば、サイトが標準で、店を検索できたり、その店にどんな女の子がいて、その子の出勤状況だとか、あとは営業時間から、値段設定、さらに割引情報などが見れたりするんだ。だからネットのサイトだけで、ある程度の情報は分かるというもので、あとは写メ日記を書いている女の子がいれば、その子の性格的なものは、そこで得ることができる。来てくれてありがとうって書かれていれば、後で見て嬉しかったりするものだろう? また彼女に入りたいと思うきっかけになるかも知れない。それも彼女たちの営業努力なんだけど、癒しを求めに行っているんだから、お礼を言われると、癒し冥利に尽きるというものじゃないか? 俺は、営業努力であっても、またその子に入りたいと思うくらいだよ。ネット予約以外には、店頭でパネルを見て選ぶ予約や、電話での予約も普通にあるんだけどね」
と、先輩が言った。
「でも、営業努力をして、また来てもらったとして、彼女たちに、得になるんですか?」
と聞くと、
「それは、そうさ。キャバクラではないが、月間ランキングに乗ったりすると、人気嬢だと思ってもらえて、指名が増えるだろう? そして、リピートしてくれる客のことを、ああいうお店では、本指名っていうんだ。本指名になると、客には、実は割引が空く中たりするんだ。それは、割引がない分、そのお金は女の子に、本指名代ということで入るんだよ。女の子はお客さんが割引もきかないのに、自分のところに来てくれたと思って感動するのさ。それだけ、感激して、サービスにも力が入るというものだよ。何しろ店からのフィードバックもあり、自分についてくれる常連客をゲットしたということでの、女の子にとっては、いいことばかりだからね」
と先輩は言った。
「なるほど、そういうことなんですね? 普通のお店だったら、二回目からの方が安かったりするのに、風俗って、特殊なんですね?」
というと、
「それはそうさ。だけど、それは普通に知っておく必要がある。そうしないと、自分が損をしたりするからね」
と、先輩はいうのだった。
「ということは、本指名をして、サービスをしてくれないような女の子だったら、そういう女の子だと解釈してもいいのかな?」
とマサトがいうと、
「一概には言えないけどね。女の子も人間なので、精神的にも肉体的にもきつい時はあるだろうから、会話にしても、気を遣ってあげた方がいいかも知れないね。向こうも気を遣ってくれているところに、こっちがまったく自分中心になってしまうと、女の子もせっかくのテンションが下がってしまうからね。特にテンションが普段から高い子は、性格的に落ち込んでしまうと、結構きついことが多いかも知れないからね」
ということだった。
「二重人格のようなところがあるということかな?」
と聞くと、
「そうだな。何しろ身体を使って、気持ちを入れての仕事だから、精神的に不安定になってもしょうがないだろうね。特に男性側が、お金を払っているので、その分、サービスをしてもらわないとなんて気分になって、こっちが強引な要求をしたりなんかすると、台無しだと思うぞ。相手の女の子はなるべく、自分にできるだけのサービスをしようと思っているんだから、それ以上を求められると、何をしていいのか分からなくなる。会社員が、会社から、給料を払っているだから、少々のきついことでも、我慢しろと言われているのと同じだからな。バイトをしているお前だって分かるだろう? 相手に、給料を払ってるんだからなんて言われたら、やる気なくなったりしないか? 要するに、相手の女の子が何をされれば嬉しいか、何をされれば、やる気がなくなるかというのを考える必要があるということさ。何と言っても、その時間は、二人きりなんだから、本当であれば、お金を払っているんだから、払った分、奉仕してほしいという考えではなく、お金を払ったんだから、その時間をいかに楽しく過ごせるかということを考えた方がいいんじゃないかということさ。お金が絡むほど、相手に求めるのではなく、自分で何を求めているかをもう一度考えれば分かってくるさ。そうじゃないと、誰と当たってもそんな態度だったら、二度と楽しい時間を過ごすことはできない。下手をすれば、どこかで、最低な客という不名誉なレッテルを貼られて、店に出禁にされることになったりするだろうな。他の店に行ってもそうさ。下手をすれば、ソープ街の中で不名誉な有名人になって、二度と遊べなくなってしまうことになる。一番人間関係が重要視されるところで、ハブられるということは、よほど考えを改めないと、実社会で、誰からも相手にされなくなるだろうね」
ということであった。
「意外と怖いところなんですね?」
と聞くと、
「怖いというのは、言いすぎかも知れないが、要するに、普通にしていれば、何でもないということさ。だから、本人が、普通というのがどういうことなのかということを見失わなければそれでいいだけなんだ。それを高いお金を払っているという意識からか、高飛車になってしまうと、自分を見失ってしまうし、相手に対しても不快しか与えない。そんな性格になると、ろくなことはないということさ」
と先輩は言った。
「その点、先輩はソープ街では顔が利くんでしょう?」
と言われて、
「まあ、それほどでもないけど、女の子の中には、俺に相談してくる子もいるくらいでね。それくらいになると、自分でも感無量なきになってくるよ。女の子というのは、なるべく自分のことを隠そうと思って働いているだろう? だけど、本当は誰かに聞いてもらいたいと思うことがあるはずなんだよ。女の子の中には、お客さんにそこまで求めてはいけないと思うんだけど、なかなか普段話ができる人と知り合うことがないので、どうしても求めてしまうのよね。でも、なかなか話ができそうな人っていないのよ。本当だったら、あの時間、一緒にいるだけなので、話を聞いてもらえれば一番いいんだけど、お客さんはお金を払って、癒しを求めているのに、私が相談してしまうと、本末転倒になってしまうからねというのさ。そう思うと、彼女たちがどういう理由で働いているのか分からないけど、仕事は決して楽ではない。むしろ苦痛が大きいわけだから、彼女たちもできることなら、その時間を気持ちよく過ごしたいと思っているはずなのよ。だって、いくら素敵な客だと思っても、好きになってはいけないわけでしょう? お客さんなんだからね。それって結構きついことだって、思わないかい? 今まで彼女がいなかったお前だからこそ、分かるような気がするんだけどな」
と先輩はいうのだった。
そんな話を聞いていたので、風俗に関しては、
「自分は経験の割には、結構知っている」
という、いわゆる、
「耳年魔」
のような感じであった。
それなので、風俗の話になるとついていけないということはなかったのだ。
だから、4人の会話の中で、風俗の話が出てきても、そんなに臆することはなかったが、それにしても、女性陣も、よく先輩の話についていけていると思っていた。