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思いやりの交錯

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「儀式の日」
 において、先輩のことが分かるようになってきたというのも、自分が大人になったという証なのかも知れないと感じたのだった。
 そんなことを考えながら、先輩と別れた。
「これから先輩がもし彼女のところに行くのであれば、それは興味深いことだ」
 と感じた。
「何しろ数時間前には、ソープ嬢と……」
 と思うと、自分にはできないことだと思ったからだった。
 そこに節操がないという感覚は、童貞の頃にはそう思い、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべていると思えたのだが、今は、そんな感情にはならず、少し違った感情が生まれているような気がしたのだ。
「寛大な気持ちになった」
 といえばいいのか?
 ここでいう
「寛大」
 という言葉、一体、どういう意味で解釈すればいいのだろうか?
 今日、あの部屋にいた一時間くらいの時間は、まるで夢のような時間だった。そもそも、女の子と二人きりで話をすることなど考えられないと思っていたのに、えりなとは違和感なく話ができた。
「相手がソープ嬢だ」
 という意識があったからなのだろうか?
 だとしても、あそこまで打ち解けて話ができるとは思わなかった。話題に合わせてくれたのか、それにしても、彼女は、男の自尊心や相手の自慢したいと思っていることが分かるのか、巧みに最初からため口であっても、違和感がないようにその場を作ってくれるのがうまいということを感じていた。
 自分も、学校で女の子と話ができないのは、
「こんな話をして嫌われたらどうしよう?」
 という思いがあるからだろう。
 だが、ソープの女の子とは、その時だけになるかも知れないし、
「話が噛み合わなければ、その時だけにしてしまえばいいのだ」
 と思えばいいだけなので、何とも気は楽であった。
 そう思うと、明日の4人での会話も、違和感なく話せてきそうに思えた。
「どうせ、先輩も、そんなに俺には期待していないだろうからな。きっと面白がっているだけだ」
 と思えば、こっちも気が楽だというものだ。
 ただ、心の奥では、
「大人になって初めての女性との会話のセッティング」
 と思うと、緊張もあったが、怖気づくということはなく、ワクワクの方が強い、前向きな緊張だったのだ。
 待ち合わせの場所に来たマサトは、相変わらずいつもよりも、少し早かった。誰かと待ち合わせをする時、最低でも10分前には来ていることにしているので、合わせたかのように10分前意生協に来ていた。
「先輩たちは、3人で来るだろう」
 という予想があったので、まず、3人での待ち合わせがあっての、ここの待ち合わせなので、きっと時間ギリギリに来るだろうということは、想定しているところだったのだ。
 想像通り3人が一緒になって現れたのは、約束の時間の3分前、普通の時間であった。自分の想像通りだったことを感じたマサトは、思わず一人でほくそえんだのだった。
 そんな中、先輩と彼女さんの顔は知っていたので、違和感がなかったが、もう一人、彼女さんの影に隠れるような雰囲気で、こちらを見ている女性の視線が、目を合わさないようにしているわりに、バチバチに視線を感じるというのが、第一印象から不可解な相手だと思わせるに十分であった。
「ごめんなさいね、私までついてきて」
 と、彼女さんはそう言ったが、その言葉を言った相手が先輩だと思うと、どうやら、何かの釘を刺しているかのようだった。
「なるほど、彼女と会う時は、なるべく彼女さんを通してという話にでもなっているのかな? だとすると、先輩は彼女のことを意識しているのか、逆に彼女が先輩を意識しているのか、彼女さんとすれば、気が気ではないのかも知れないな」
 という気がした。
 この間まではこんなことを考えるなど、自分でもありえないと思っていたはずなのに、それだけ昨日の、
「大人になった儀式」
 というものの影響が、マサトには大きかったということなのだろう。
「とりあえず、近くの喫茶店に行こうか?」
 と、キャンパス外に出た。
 さすが、大学の街と言われるこのあたりは、喫茶店が乱立している。皆それぞれの馴染みの店があるようで、他ならぬマサトにも、馴染みの店はいくつかあった。
 ただ、ほとんどが一人でいく店なので、テーブル席に座ることなく、いつもカウンター席だった。それだけに、マスターと仲がいい店がほとんどだったのだ。

                 負のスパイラルな発想

 4人の中での中心は、当然ではあるが、先輩だった。
 何と言っても、全員を知っているのが、先輩だけだからである。先輩の彼女と、マサトは、1,2度会った程度で、それほど知っている仲というわけではないし、何と言っても、今回は一緒についてきたという程度のことだったので、中心になれるというわけではなかった。
 だから、店を決めるのも先輩で、最初から決まっていたかのように、さっさと歩く。後の3人はついていくのにやっとという感じであった。
 だが、先輩が連れて行ってくれた店は、マサトも知っている店だった。
 といっても、常連というわけではなく、何度か、ランチで来たことがあるという程度だった。
 まだ、大学1年生なので、そこまでよくは知らない。先輩たちの方がよく知っているだろう。
 先輩は2年生、彼女さんも2年生であるから、彼女の友達ということになると、オカルト少女も、2年生ということになる。
 見た目はおとなしそうに見える。髪はおかっぱで、終始下を向いているので、表情は分からないが、まるでお人形さんと言ってもいいような雰囲気は、
「まるで座敷童のようではないか?」
 と感じさせるようだった。
 彼女はほとんど顔を上げない。
「俺が、見つめているのが分かるからかな?」
 と思って、顔をそらすと、それでも、彼女は顔を上げようとしない。
「これが彼女の普段の姿なのだろう」
 と思うと、あまり気にしないようにしようと思った。
 先輩と彼女さんは、二人で、二人にしか分からない会話を少ししているようだったが、それが終わると、
「ああ、すまない。ちょっとこっちの業務連絡があってね」
 と言って先輩が笑った。
 どんな話なのか分からなかったが、
「業務連絡」
 という言葉を使うなど、実に愉快だ。
 これが先輩が、いつも後輩から慕われているところなのかも知れない。
 相手が誰であれ、同じペースで話すのが先輩のいいところであり、ため口であっても、敬語であっても、まったく違和感を感じさせない。彼女さんも先輩のそんなところに惚れたのだろう。
 彼女さんは彼女さんで、先輩に対して、遠慮がない。
「先輩に対して、正面切って何かを言えるのは、彼女さんだけですね」
 というと、先輩も顔をほころばせて、
「そうなんだよ。困ったものだよ」
 と言っているが、一向に困っている様子もなく、まるで、
「もっと言ってくれよ」
 とでも言わんばかりである。
 そんな二人に比べて、孤立しているマサトと、終始下を向いている彼女は、二人の仲睦まじさを見ながら、それぞれでキョロキョロしていた。
 マサトの方は、先輩たちにあてられて、目のやり場に困っているようだった。これが、普通の反応だろう。
作品名:思いやりの交錯 作家名:森本晃次