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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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夜が訪れるとき 探偵奇談24

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何か言いたげだ。目が合うと、今にも言葉を発するのではないかと思えるような臨場感。膝の上に置かれた手の指は、枯れ木のように細かった。背後には同じように煤けた閉じた窓。窓辺に座る、女の絵。

額の下に貼られたタイトルには『帰る場所』とある。作者名はない。

(…わからん)

絵画のよし悪しなど、芸術に頓着のない紫暮には判別できない。好きか嫌いかでしか判別できない。例えば成瀬の絵を見て笑みが零れたような、そんな感覚は微塵も沸いてこない絵だった。これを芸術性が高く素晴らしいと評価する人もいるかもしれない。だがそれでも、不気味な絵だという印象を受ける自身の感性も、おそらく間違っていないだろうと思いたい。

「気になりますか。この絵」

突然背後から声をかけられて、紫暮はびくりと肩を震わせる。驚いた。振り返ると受付の名札を首から下げた、若い女性が立っていた。長い黒髪を後ろで束ね、濃紺のスーツ姿は就職活動中の学生のようにも見える。

「ごめんなさい、脅かせてしまいましたね。随分長い間、見入っていらっしゃったから」

そんなに長い間見つめていただろうか。この不気味な絵を?物憂げな世界の女と見つめ合っていた自分を想像して少しぞっとする。

「気になるというか…少し怖い絵だなと思って」

正直に答えると、女性は苦笑してから紫暮の隣で絵を見上げた。

「わたしは、とっても美しい絵だと思うんですけど」

感性は人それぞれ。紫暮は否定も肯定もしない。

「帰るって場所、っていうタイトルにも、何か思いがこめられていそう。どこなんでしょうね。ここ。窓の外は海なのか。草原なのか。きっと美しい場所なんだろうなって、想像が膨らみますよね」

美しい場所。そうなのだろうか。窓の外が美しいのなら、こんなふうに窓を背に、目を背けたりしないのではないだろうか。紫暮にはそう思える。

「あのう、すみません。トイレはどこかしら」
「ああ、こちらです」

二人組の老女に声を掛けられ、紫暮は案内する。振り返ると、女性はまだ絵の前にじっと佇んでいた。






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