夜が訪れるとき 探偵奇談24
ごめん、と繰り返して、弟の頭をくしゃと撫でた。俯いた瑞が声を震わせて続けた。
「本当は、ずっと、そうやってわかってほしかった…」
「うん。そうだな…」
「俺は見えるだけ。強い子になんてなれなかったし、これからもなれない。弱い自分を否定されるのが、つらかったし怖かった…」
初めて聴いた瑞の本音だった。こんな風に思わせていたなんて。胸が締め付けられる思いだった。
「怖いのに、助けてくれて、ありがとう」
大きくなったけれど、今だけは、幼い頃のままの姿なのだと紫暮にはわかった。こうしてありのままを受け入れるまでに、ずいぶん時間が掛かったし遠回りしたけれど。
「…もー離して、」
頭を撫で続ける紫暮に、しびれをきらしたのか瑞が呟く。たぶん照れくさいのだろう。
「もう少しだけ、兄ちゃんらしいことさせてくれ」
「ヤダ!兄ちゃんシツコイ!嫌いだ!」
瑞は手を振り払って、紫暮を置いて駆けだしてしまった。振り払われたその手はしかし、いつまでも温かく紫暮の胸を満たした。
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作品名:夜が訪れるとき 探偵奇談24 作家名:ひなた眞白