夜が訪れるとき 探偵奇談24
夜が訪れるとき
展示会の閉館時間が迫る時刻に、瑞はそこへとやってきた。人はもう残っていない。床には瑞の作る長い影が別の生き物のように伸びている。
紫暮には目もくれず、彼はまっすぐ件の絵のところへ進んでいく。紫暮はその隣に並び、自身も絵を見上げた。
「夢でみたのと違う気がする」
瑞が怪訝そうに呟き、紫暮は頷いた。
そうなのだ。前回見たときはこんな絵ではなかった。変化しているのだ。どこが、と言われれば具体的に指摘できない。前回見た絵を、しっかりと思い出せないのだ。不気味だという印象は覚えているが、今は不気味だと感じない。なぜだろう。
絵の中の女はほんの少しだけ高角をあげ、笑っているように見えた。どこかで見たような、うっとりとした…その表情。開け放たれた窓からは、夜空の星が瞬いているのが見えた。夜の中で微笑む、満足げな女。タイトルは『帰る場所』…。
「閉館時間になりま~す」
二人の背後に、役所の名札をつけた女性が立っていた。
「あ、はい。もう出ます」
「熱心に見て頂いて」
そう言って初老の女性はにこやかに笑った。
この絵の変化に気づいていないのだろうか。毎日ここへ通っていた係の者のいるだろうに。始めからそうだった。誰もが、この絵に興味を示していなかった。紫暮と、もう一人の彼女以外は。
それに思いたち、紫暮は窓の施錠を確認しだした初老の女性に声をかけた。
「あの、昨日まで受付にいた女性は…一つくくりの」
「そんな方、いたかしら…。ここのフロアの受付はずっと男性ですよ?」
耳を疑う。
作品名:夜が訪れるとき 探偵奇談24 作家名:ひなた眞白