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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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夜が訪れるとき 探偵奇談24

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夕食を終えて、祖父と瑞がテレビを見乍ら何やら談笑している。その声を背に、紫暮は皿を洗っていた。
明日は三日ぶりの文化展の監視業務だ。明日で最後。実習後の面倒な仕事が一つ減るのは喜ばしい。喜ばしいのだが。

(あの絵に塗りこめられた思い…)

何を思って。
誰を思って。
何を願って。
何を呪って。
あの絵は描かれたのだろう。

帰る場所とはどこだろう。
どこに帰るというのだろう。煤けてくすんだ部屋の中こそが、彼女の帰るべき場所なのではないのか。それとも別に帰る場所があるとでもいうのか。


あの部屋以外に、おまえの帰る場所などないのに───!


「ねえってば!」
「!」

ガチャン、と音がして自分が皿をシンクに落したのだと自覚するまで数秒を要した。瑞が、怖い顔をして紫暮のそばに立っていた。

「どうした。大丈夫か」

祖父の声が飛んでくる。

「大丈夫。兄ちゃんがぼさっとして皿落としただけだから」

瑞が極めて何事もなかった口調で答えるのを、紫暮はかすみがかった頭の中で聞いている。

「…ねえ大丈夫?」

小さな声で弟が尋ねてくる。何でもない、と答えて皿洗いを再開する。

「最近変だよ」
「…疲れてるだけだよ」
「代わる。皿割られたらたまんない」

瑞はそう言うと泡立てたスポンジを紫暮の手からかすめ取った。

「紫暮、先に風呂に行って今日は早めに休むといい。実習の疲れも出てくる頃だろう」

祖父に促され、紫暮はその言葉に甘えることにした。
これはいよいよ普通ではない。自覚があるのに、あの絵のことを考えずにいられない。

台所を出て行く紫暮の背中に、瑞が訝し気な視線を向けているのがわかった。





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