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能と狂言のカオス

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「自分たちの都合のいいものとの交換条件」
 というのが、最大の目的だったりする。
 では、これが殺人予告などではどうだろう?
 前述のような、愉快犯であったり、露出狂、あるいは耽美主義などの場合は別であるが、予告に隠されているのが、犯人の感情であるとすれば、そこにあるのは、
「復讐」
 というものであろう。
 昭和初期の探偵小説などでは、
「俺はこの復讐に、人生を掛けているんだ」
 などと言って、生まれてきた時から復讐することが決まっていたかのような話が多い。
 その復讐を、ただ殺すだけでは飽き足らず、相手にこれ以上ないという恐怖を植え付ける形という目的がある場合などに用いられる。
 そして、さらに、犯人を、猟奇殺人者であるかのようにカモフラージュすることもできる。
 犯人としては、予告までしているのだから、別に自分が助かりたいと思っているわけではなく、殺す相手に最大限の恐怖を与えて、苦しみながら殺すのが目的なのだ。
 そういう意味で、探偵小説などでは、予告殺人などは、意外と一度は、
「そんな猟奇的な犯人によるものではないか?」
 と思わせることで、意表をついたり、言い方には語弊があるが、
「文字数を稼いでいる」
 という発想もあるのではないだろうか?
 犯行を予告するというのは、
「犯人の望んでいないような効果までもたらすこともある」
 という意味で、捜査を攪乱させているかのように見えることもある。
 もっとも、実際の犯罪捜査で、そこまで考えて警察が動くかどうかは疑問であるが、探偵小説では、十分にあることだ。
 そういう意味で、予告による犯罪というのは、あまり聞いたことがない。あるとすれば、最初に上げたように、
「犯人にとって、都合のいいものとの交換条件」
 として使われることが多いのではないかと思うのだ。
 そういう意味で、予告による誘拐というのは、実際の犯罪にあるように思えない。誘拐してから脅迫するのが普通なので、誘拐までは、決して相手に分かってはいけないのだ。警戒されて、誘拐がやりにくくなってしまっては、計画に着手する前に頓挫してしまうことになる。
 まさか犯人側が、
「最初で誘拐ができないようなら、最初からこの犯行はどこかで頓挫するだろう」
 という、まるで運試しのようなことを考えているとは思えない。
 もっとも、考えているのだとすれば、それはそれですごいことなのだろうと思うのだった。
 それをもらった、
「被害者予備軍」
 と言ってもいい現在においての、被脅迫者は、犯人の、
「警察には知らせるな?」
 という言葉をどこまで信じていいのかが、分からなかった。
 この主人は、のし上がっていくことに関しては、部類の才能を持ち合わせていたが、外敵に攻撃されることに関しては、とにかく弱かった。気が弱かったり、被害妄想があるからで、それがあるから、のし上がる方の実力を有しているのかも知れない。
 だから、自分が被害者になることに対しては結構怯えがあり、まわりに対して、結界を設けるかのごとく、SPのようなものをちゃんと雇っていた。
 だが、依存症というのも大きく、
「やつらに警備を任せているのだから、安心だ」
 という気持ちも強かったのだ。
 そもそも、この主人は、自己暗示にかかりやすく、大丈夫だと思い込めば、その思い込みの強さから、直前の不安を払拭できるところがある。それが、
「大物になれる秘訣」
 なのではないだろうか。
 そういう意味でいけば、犯人も、
「これほど用心深い大物を相手に、予告などをするのは無謀ではないか?」
 と、主人を知っている人はそう思うことだろう。
 だが、それでも、心配性なところは払しょくできるわけではないので、犯人の、この無鉄砲なところに、得体の知れない怖さが感じられた。
 しかも、奥さんは、結構怖がりだった。もっというと、M的なところがあった。
 M性のある人間というのは、自分が苛められたりするのには、喜びを感じるが、それ以外の人が受ける障害は、自分がM性がある分、
「他人は。もっと敏感なのではないか?」
 と感じてしまうのだ。
 下手をすれば、それが行き過ぎになって、却って、まわりの敏感さに嫉妬してしまうという、異常性癖を持っていたりする。それが、この奥さんには、ピッタリと嵌っていたのだ。
 そもそも、この女性が、金持ちの奥さんに収まったのは、普段はおとなしく、
「自分がかまってあげなければいけない」
 と思うほどのおしとやかさを持っているのに、裏を返せば、Mっ気がたっぷりなそのギャップが、萌えるのであった。
 一口で言えば、
「変態夫婦」
 と言ってもいいのだろう。
 ただ、それは二人の世界でだけのことであって、表には決して出すことはない。旦那はそこも気に入ったのだ。
 奥さんとしては申し分のない存在なのだった。
 主人とすれば、こんな奥さんだから、まず一番に息子の命を最優先に考えて、
「あなたお願い。警察に知らせるようなことはしないで」
 と言い出すと思っていたのだが、その想像を簡単に蹴散らし、
「ここは、専門家である警察にお願いするのが一番なんじゃないかしら?」
 と言い出した。
「どうしてだ? 息子の命を考えれば、警察にいうと、それこそ殺されかねないんじゃないか?」
 と主人がいうと、
「この犯人は、予告なんて無謀なことをしてきているのは、きっと頭がキレると思うんですよ。だから、犯人だって警察に連絡させるくらいのことは最初から計算済みだと思うのよ。警察に連絡したら息子を殺すって、まだ誘拐もしていないのにそんな言い方をするのは、ただの定型文を言っているだけで、実際には、そこまで計算してのことだと思うの。それだけ計画に自信があるのか、だと思うんだけど、ある意味、その自信過剰なところが、こちらとしては、狙い目なのかも知れないわ」
 というではないか。
 M性のある人の発言だとは思えない。いや、逆にM性の人ほど、冷静にものが見れるのかも知れないと思い、
「奥さんのいうことにも一理ある」
 ということで、警察にいおうか、そちらに、考えが少し移っていた。
 しかし、まだ誘拐もされていないのに、
「警察に言っても、警察が動いてくれるだろうか?」
 という問題があった。
 しかし、
「もし、本当に誘拐されたら、警察に話をしたのに、何もしなかったということを公表するけどいいと言えば、あなたの影響力をもってすれば、世間がどう反応するか、容易に見当がつくわよね?」
 と奥さんは言った。
 なるほど、冷静になった奥さんの洞察力はすごいものだった。確かに奥さんの言う通りである。
「分かった。じゃあ、警察に相談してみよう」
 というと、
「半年ほど前に、3軒向こうで、誘拐未遂事件があったんだけど、その時捜査した刑事さんがあるので、その人に相談してみればいいんじゃないかしら? 実際には今のところ、予告っぽいものが来ているだけで、普通に考えると、いくらあなたの力を使ったとしても、警察が本気で取り合わないかも知れない。だけど、以前の誘拐未遂を何か中途半端な気持ちでモヤモヤした気持ちになっている人に聞いてもらうと、そこで何か繋がってくるものがあるかも知れないでしょう?」
作品名:能と狂言のカオス 作家名:森本晃次