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能と狂言のカオス

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「それは、人間の中には、本能があるからだというと思うんだ。本能という意味では、ロボット以外の動物にもあることで、思考能力がないと思われる動物だって、うまくやっているではないか。そういう意味で、本能というものが影響しているのであれば、ロボットの人工知能にも、人間の頭脳と同じようなもの。つまりは、本能を組み込むことができれば、ロボット開発が一歩進むのではないだろうか? そう考えると、たとえば、動物や、死んだ人間の脳の移植という考え方もありではないかと思う。しかし、それをしてしまうと、ロボットに人間の脳を組み込んだ場合、人間とは違う反応をするかも知れない。人間の脳は、その一部しか使っていないというだろう? もし、それ以外の部分を使うとすれば、それは、人間では制御できないかも知れない。その発想が、フランケンシュタインであったり、ジキルとハイド氏のような、隠されたもう一人の自分が出てくることに繋がってくるんだろうね。その発想を、ロボット開発を真剣に考える以前に、作家が持っていたというのはすごいことだ。だから、ロボット工学の第一人者っでもない、アイザック=アシモフ氏のように、SF作家が、ロボット工学についての知能をSF小説のネタとして書いているのではないだろうか?」
 というのであった。
 彼はさらに続ける、
「ロボット工学というものに、三原則があって、そこに優先順位があり、なかなか超えられない矛盾を持つことで、いろいろ問題が発覚するのではないだろうか?」
 というのだった。
 三原則については、またの機会に聞くことになったのだが、フレーム問題に関しては、事件にかかわりのある話だったので、少し気になるところだった。
 この件に関しては、鑑識の方が興味を示していた。
「我々は、鑑識という仕事の関係で、いろいろな科学的な話を勉強する中で、ロボット工学というのも、科目にはあったんですよ。その時に聞いた話を思い出してしまって、先ほどのお話は、なかなか興味のあるものでした。学校の講義とかであったんですか?」
 と聞かれたが、
「いいや、そういう種類のものがあったわけではなかったんだけどね、私の場合は興味があったので、自分で勉強しました。ロボット工学三原則から最初に入ったんですが、あれは、結構面白いですよね? 何といっても、提唱した人が、工学者でもなんでもなく、SF作家だというところが興味深い。そういう意味で、警察の事件の捜査にしても、意外と捜査に素人の方がいろいろな発想ができて、しかも、フレーム問題ではないが、無意識に情報をちゃんと取捨選択ができて、解決に導けるんじゃないかって時々思うんだよ。もっとも、そんなことになってしまえば、我々は、飯が食えなくなっちゃうんだけどね」
 と言って笑っていた。
 なるほど、それも一理ある。
 警察で迷宮入りになってしまった事件の中には、
「意外と事件や推理の素人の方が、キチンとした推理ができるのではないか?」
 と考えたこともあった。
 そういう意味で、事件の捜査というのは、
「事実と真実の見極め」
 ではないかと考えることもあった。
 前述のように、事実を集めてきて、そこから出来上がるものが真実なのだとすれば、ある意味、
「フレーム問題とは逆なのではないか?」
 と考えられたりする。
 事実から真実を見つけるのは、
「加算法」
 であり、ゼロから積み重ねていくもので、逆にフレーム問題というのは、
「減算法」
 ではないかと思うのだ。
 100から、少しずつ減算していくということでなければ、減算法は、本当は成り立たん遭いものなのかも知れない。最初から加算という考えを持たないのであれば、最初を100にしておかなければ、大きなものを見逃していたとしても、永久に見逃していたものを見つけることはできない。
 それはまるで、
「交わることのない平行線」
 のようではないか?
 そんなことを考えていると、
「加算法であっても、減算法であっても、問題は、どこで交わるか?」
 ということではないかということであった。
 それぞれ、必ずどこかで交わる場所がなければ、そこに事実はないということだ。つまりは、
「自分たちが考えていることに事実はない」
 ということを前提に考えている場合でなければ、加算法にしても、減算法にしても、どちらかに決めるというのは難しい。どちらもやってみて。交わるところがなければ、そこに真実はないといっても過言ではないだろう。
 それを考えると、非常に面倒臭そうに感じられるが、
「急がば回れ」
 という言葉があるように、少々面倒であっても、時間をかけてでも、地道な捜査が必要なのではないかと思うのだ。
 むやみに猪突猛進で行ってしまい、チェックポイントを通らなければいけないルールのスポーツで、ルールを知らずに、一番でゴールすることだけを目指しているのを同じである。
 結局一番でゴールしても、ルールにしたがっていなければ、順位のつけようがなく、結果、
「失格」
 という憂き目に遭うことは必至なのだろう。

                 もう一つの誘拐事件

 半年前にあった誘拐事件は、基本的には営利誘拐目的だったことで、狙われたのは、ある会社社長だった。
 だが、実際に脅迫電話や脅迫状が送られてきて、脅迫してきたのに、被害はまったくなかった。
「本当に何もなくてよかったよ。今なら笑って話せるけどね」
 と、後から誘拐未遂事件と言っていいのか分からない、この事件の話を聞いた親戚の人が、笑いながら言った。
 すると、家の主人は、不機嫌な顔になったのだが、別に何もなかったのだから、本来なら、そんなに怒る場面ではない。それなのに、
「なぜ睨まれなければいけないのか」
 と思ったが、親せきは、それ以上言及することはできなかった。
 確かに、その時にその場にいた人間で、しかも、当事者ともなれば、いつまで経っても笑い話などにできないのは当然なのかも知れないが、まさか、この家の主人がここまで露骨に嫌な顔をするとは思わなかった親戚の人間も、若干ビックリしたようだった。
「ごめんなさい。気が付かずに」
 と言って、その話題を出すことをやめたので、それ以上のことはなかったが、なかなか機嫌は直らなかった。
 それを見て、
「これは、相当の間、冗談も言えないくらいになってしまった」
 と感じたほどで、元々この家の主人は、ジョークが分かる人だっただけに、さすがに身内にこんなことがあると、真剣に考えてしまうのだろう。
 そんな主人が住む周辺は、このあたりでも有名な高級住宅街で、それこそ、営利誘拐を企むなら、このあたりの家を狙うのが一番いいと考えるのは、当然のことではないだろうか。
 ただ、お金を持っているだけに、彼らも身を守るための費用はケチることはしない。いろいろな防犯を、お金を使ってでもしていることだろう。
 本当に金を掛ける人は、SPのような連中を従えているかも知れない。家の前の防犯カメラ、家に侵入しようとした人間を捕獲するための罠など、いろいろ匠であろう。
 この家の主人も、実際に息子にも警備をつけていたはずだ。そんなプロの目を盗んで、
「誘拐など果たしてできるのだろうか?」
作品名:能と狂言のカオス 作家名:森本晃次