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能と狂言のカオス

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「そんなことはありえない」
 ということで、握りつぶされて、ウワサがあったという話だけは伝わっているが、実際の話としては残っていないということなのかも知れない。
 もう一つ白桃島には、おとぎ話が残っていた。その話が、実は桃太郎の話に実によく似ていたのだ。
 この村に残る伝説の中で、白桃島に関する島が出てくるのだが、その島は、半島から結構離れている設定になっていて、
「比較的遠くの島を、白桃島と昔の人は呼んでいたが、そこには鬼が住んでいるというウワサがあったので、白桃島という名前を使わなかった。しかし、その島には別の名前が付けられたので、この村の目の前にある名もない島に、名前を付けようということになり、白桃島と名付けたのだ」
 という言い伝えもあった。
 そもそも、昔のおとぎ話というのは、その土地に伝わる話を、結びつけて一つの話にしたということもあると言われているので、似たような話が全国にあれば、それらを当時の人が伝え聞いて、一つの話にしたものもあるのではないか? 小説家が取材旅行において、仕入れたネタを材料に小説を書くというようなものである。
 つまり、このあたりにも、いろいろな神話や言い伝えが残っているということだろう。
 そもそも、志摩半島というと、伊勢があるではないか。神話の中心ともいえる伊勢神宮があるのだから、言い伝えだっていろいろと残っていても不思議はないだろう。
 そう考えると、日本で由緒正しき神社といえば、宮崎の高千穂であったり、島根の出雲大社であったり、三重の伊勢神宮であったりするだろう。そんな中で、白桃島をいただくこのあたりの村の存在が、世間的に知られていないというのも、神秘的な気がして、面白いというものであろう。
 そんな白桃島で、誰かが自殺をした。誰が自殺をしたのかは分からなかったが、自殺をしたという証拠になるものが、白桃島の外海に面した断崖絶壁の上に残されていた。
 そこには、革靴が置かれていて、きれいに並べられていた。その先はいかにもどこの自殺の名所にも見られる光景だった。
 この場所は、入り江の村から、定期的にやってきて、掃除をする村人が来なければ、誰も来る人はいない。
 この島に入るには、基本的には、この入り江側から、干潮となった時に渡るか、入り江側から、濡れるのを覚悟で、泳いでいくくらいしかなかった。
 島のまわりには、船をつけられるような場所はなく、唯一、入り江の先から入ることができるくらいだ、
 いったん入ってしまうと、狭い島なので、小屋などもあるわけはない。その日のうちに戻ってこなければ、島で野宿するしかない。
 大きな岩がゴロゴロしているだけの場所で、ほとんど草木も生えていないようなところのどこで、寝泊まりするというのか、島には動物もいるところを見たことがない、完全に、無人島であり、無生物島と言ってもいいだろう。
 そういう意味では、
「人知れず自殺をする」
 というには、ここは一番いいのかも知れない。
 今までにも数年に一度くらいは、ここで自殺者がいると言われている。同じように、靴だけが残されているのを後で発見するのだが、それが誰だったのかということが、分かった試しはなかったということだ。
 今までの事件は、地元の警察が捜査をしていたが、正直、まともに取り合っているわけではなかった。
「またか」
 と言ってため息をつきながら、警察は、一通りの捜査をするだけで、すぐに、行方不明者として認定する。
 一通りの捜査と言っても、何かをするわけではない。地元やその付近に、捜索願が出ている人がいたとして、まだ見つかっていない人がいれば、その人の足取りで分かっているところを聞いて、ここの死体と関係がありそうでなければ、完全に無視するという、ありきたりのことを、
「やっていますアピール」
 をするだけで、結局、何もしていないのと同じだった。
「どうせ、死体だって上がらないんだしな」
 ということで、事件は不明ということでお開きになるだけだった。
 とりあえず、村の人が、島の中心部あたりに、石を重ねただけの、
「墓」
 を作り、まるで無縁仏のように、ここで死んだであろう人の冥福を祈るということくらいしかできなかった。
 村の人間が定期的に島に行くというのは、自殺をした人がいないかということと、墓の清掃に行くくらいであったのだ。
 その時、男が墓を掃除してから、いつものように、自殺の名所と言われる場所に向かったのだ。
 男はその時、不思議なことを考えていた。
「そういえば、ここに限らずだが、自殺の名所というと、なぜか皆同じところに靴を並べているんだよな。初めて来る場所なのだろうし、どこから飛び込んでも一緒のはずなのにな」
 と感じていた。
 東尋坊であったり、他の場所でも同じなのだが、なぜか飛び降りる人というのは、決まって同じ場所から飛び降りるという。
「ここから飛び降りてください」
 などという標識があるわけでもないのに、なぜなのだろうか?
 死にたいと思ってこの場所に来る人には、分かるのだろうか? この場所から前の人が飛び降りたということを……。
 そう思うと、
「ひょっとして、自殺の名所に行った人の中には、死ぬつもりもなかったのに、無意識のうちに飛び込んだという人もいたりするのではないだろうか?」
 と感じたのだ。
「前に飛び降りた人の霊が呼んだ」
 とでもいえばいいのか、だが、そうでも言わないと、説明がつかないのだ。
 霊魂の存在を認める方が説明がつくというのも、実におかしなことだと言えるのではないだろうか。
 この場所でもそうだった。
 他の自殺の名所であれば、ひょっとすると、ネットなどの怪しいサイトでは、
「この場所が、皆が飛び込む場所」
 などと言って、紹介しているところもあるかも知れない。
 しかし、ここの白桃島は、地元の人間でもほとんど知られていないだけに、普通なら誰も知らないはずなのだ。
 それなのに、どこでどう聞きつけたのか、数年に一度くらいの割合で定期的に自殺者がいるのだ。
 他の場所で、
「数年に一度」
 くらいであれば、別に気にすることはないのだろうが、この島に入る人間といえば、村の人間だけで、しかも、定期的にともなると、掃除と、自殺者の有無を確認に入っている人くらいだろう。
 実際に、年に数回しか、陸続きにならないのだ。それなのに、どうして自殺者が出るのか、まるで、世界の七不思議と同じレベルではないかと思えるほどだった。
 今回も村の人が自殺者の痕跡を見つけたのだ。
 だが、今回の自殺者は、今までのパターンとは違っていた。いや、逆にいえば、こっちの方が他の場所では自然なのだ。
 というのは、今回の自殺者は、靴だけではなく、遺書も残していたのだ。
 石の上に遺書を置いて、さらにその上に石で重しをしていた。
「今回は遺書があるぞ」
 と、それを見つけた村人は、さっそく、警察に連絡を入れた。
 ここの村の人間は、田舎根性が身についてしまってはいたが、文明の利器は、ちゃんと身に着けている。スマホを持っていたのだ。
作品名:能と狂言のカオス 作家名:森本晃次