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能と狂言のカオス

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 事件の糸が少しでもほぐれると、一気に解決するのが、今までであったが、却って、思い込みが過ぎると、せっかく積み上げてきたものが、崩れていく気がするのだ。
 いわゆる、
「積み木崩し」
 のようではないだろうか?
 問題は、橋立という男が、一の谷と奥さんを両方同時に脅迫していたことだった。
 橋立としては、お互いに別々に脅迫することで、二人がけん制し合って、相談はしないだろうと思っていたのだが、それが裏目に出たことだった。
 あくまでも、一の谷と奥さんが不倫をしているということを、橋立を殺すことで、闇に葬ることもできると思っていたのと、二人はそれぞれに、相手との関係を清算したいとも思っていた。
 そこで、一の谷と奥さんが協力して殺人を犯せば、あとは相手が邪魔になるという考えである。
 事件を成立させれば、共犯者は邪魔者でしかないからだ。
 そのことを逆に利用したのが、八島だった。
 彼は、一の谷に、仕事上の不正の証拠を握られていた。これが表に出れば、自分の社会的な信用は地に落ちてしまう。
 また、一の谷を殺すことで、奥さんに対しての無言の脅迫にもなると思ったのだ。
 二人の計画は。すべて八島に握られていて、奥さんは計画に従うしかない。
 本当は、今度の事件において、最後に発見されたマンションの死体は、狂言誘拐をした相手であった。
 あの誘拐を企んだのは、一の谷と奥さんだった。
 なぜ、そのようなことになったのかというと、誘拐された息子は、実は、二人の不倫を知っていた。
 知っていて、奥さんに、
「不倫なんか、やめてほしい」
 と言ったのだが、どうやら、奥さんのことを好きだったようだ。
 ただ、二人とすれば、脅迫されている相手である橋立の殺害計画中だったので、二人の関係を見つかるわけにはいかない。
 二人が最初に考えていたのは、橋立と、誘拐した息子とに対しての、
「交換殺人」
 だったのだ。
 橋立に対しては、
「相手は分からないが不倫をしていたのがバレた」
 ということで恨んでいたということ。
 そして、息子に対しては。ストーカーになっていて、そのストーカーを殺したいと思ったことを、後になって、分かるように計画していたのだが、どうにも、辻褄が合わなくなって、交換殺人は暗礁に乗り上げた。
 しかし、二人の計画は進み始めているのだ。ここで中断するわけにはいかない。
 なぜなら、ここでやめてしまうと、もう二度と二人を殺す計画を立てることができないからだ。
 同じ相手に対して、警察を欺くような話をでっち上げることは不可能だったからだ。
 計画は実行しなければいけないが、そのために何が大切か?
 ということになって、
「犯人のでっちあげ」
 であった。
 最終的に、一の谷を殺すことになるのだが、彼が殺されたことを絶対に知られてはいけないということで、
「殺人は、第一の殺人の後に、速やかに実行する」
 というのが計画だったのだ。
 つまりは、一の谷に、犯人になってもらって、自分と奥さんは蚊帳の外にいることにする。
 本当であれば、第三の殺人において、息子が殺されているのを見つけるのが、奥さんだというのは、実に危険であり、さらに、マンションを借りている仲間に一の谷と八島がいるというのは、危険なのだろうが、これくらいのことをして警察を欺かないと、計画はすぐに露呈するというものだった。
 この事件において、橋立という男が自殺をしようとしていたことを、ある程度事件が間違った方向に行きかけた時に明かすことで、一度事件が複雑化させることを計画していたのだが、思ったよりも、事件が間違った方向にも行っていなかったことが、犯人側の計画ミスだったのかも知れない。
 それも、きっと犯人側が最初に計画していた、
「交換殺人」
 が狂ってしまったからだろう。
 これは、事件の中に八島が入ってきたことで狂ってしまった。
 八島という男が、中途半端に頭がキレることで、
「交換殺人なんて、推理小説じゃないんだから、成功するわけはない」
 と言い出したからだ。
「交換殺人というのは、絶対に犯行が終わった後で、会ってはいけない関係で、昔よくあった、顔のない死体のトリックのように、自分が死んだことにするために、死んだ者として、自分が生き続けなければいけないのと同じなんだ。さらに、交換殺人というのは、どんなに親しい中であっても、最初に犯罪を起こした方が、圧倒的に不利になるんだよ。なぜかって? それは、次に自分が危険を犯してまで、殺人をする必要がなくなるからさ。相手が何を言ってきても、自分は完璧なアリバイがあって安心なので、何なら、お前が犯人だって言ってやろうか? 君が交換殺人を言い張っても、警察が信じてくれるかな? それよりも、君の立場は大丈夫かい? 君が殺してほしいと思っている相手は、まだ生きているんだよ? と言われるだろうね?」
 と言われると、どうしようもない。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
 と一の谷がいうと、
「俺の計画通りにすればいいんだ」
 と言って、かねてよりの計画、というよりも、二人が何か怪しいと思って見ていたあたりから、八島の中にあった計画を二人に打ち明ける。
 ここまでくると、一の谷も奥さんも、引き下がることもできず、完全に八島の奴隷だった。
 だが、何と言っても、人が計画途中の犯罪を自分の計画に組み込むことになるのだから、つぎはぎだらけの事件になっているのは分かり切ったことだ。
 そのために、計画がずさんになってしまったようで、計画の中で、
「まるで能面のような感情が入り込んでいないような事件だ」
 という思いがあったり、
「狂言が使われていることで、どこか抜けているような気がする」
 という、カオスのようになった状況において、完全にまばらになった事件となってしまったのである。
 さらに言えば、もう一つ事件を複雑にさせたのが、吐血についてだった。
 実は、血液型が同じだったので、ハッキリとはしなかったが、あの血の中には、もう一人の吐血が混じっていた。そのことは、松島刑事から、事件のあらましの話を聞いていた鑑識官が、彼特有の勘だったのだろうが、
「この血液、混ざっているのではないか?」
 という疑問を持って調べたから分かったのだ。
 実際にはそこまで疑いがなければ、見ることはないというので、実際に調べてみると、
「血液は、もう一人あった」
 ということを、松島刑事に話してみると、
「なるほど、これで辻褄が合う」
 というのだ。
 つまり、その血は、一の谷の血も混じっているという。ここで、毒にやられて死んだ人間は、一度蘇生したのかも知れないとも言い出した。
 最初はそこまで毒が回っていなかったのが分からなかったのは、血が混じっていたからで、これは犯人にとって、好都合なことだったのかも知れない。
 どうしてそう考えたのかというと、死亡推定時刻がハッキリしているのに、おかしなところがあったからだ。
 だから、一度蘇生したと考えると、辻褄は合うのだが、そこで問題になるのが、
「吐血の量」
 だったのだ。
 最初は犯人にとって、事件を複雑怪奇にさせるにはよかったのかも知れないが、
作品名:能と狂言のカオス 作家名:森本晃次