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能と狂言のカオス

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「子供に比べて、自分がどれほど根性なしだったのか」
 ということを思い知らされることになる。
 そうなると、子供に逆らうのが怖くなる。何をされるか分からず、自分の生活が脅かされると思うからだ。
 親と言っても、結局は自分のことが中心だ。狂言誘拐をされて、それをいさめることができない親というのも、実に情けないものなのだろう。
 さて、狂言ということであれば、この事件の最初には、もう一つあったではないか。指紋が結びつけたとはいえ、どこでどのように結びついてくるか分からないこととして、
「自殺の名所による自殺事件」
 である。
 あの事件は、死体も当然上がらなかったことで、遺書はあったが、誰が誰に対してのものだったのかということも分からない。
 ただ、一つ考えられることとして、
「これも、狂言自殺なのではないか?」
 ということである。
 死体も上がらないのだから、自殺をしたとしても、誰なのか分からなければ、家族に確認することもできない。
 ただ、指紋は残っていた。もし自殺があったとすれば、
「どうせ死ぬんだから、指紋があってもなくても関係ない」
 ということになるのだろう。
 ただ、この自殺事件には、続編のような話があった。
「私の彼が飛び込んだかも知れない」
 という女性が現れたのだ。
 その男は、橋立という男で、彼女がいうには、自分に遺書が届いたという。そして、その遺書の文言が、崖の上にあった内容と同じものだったという。そして指紋も同じだったことから、遺書を書いて飛び込んだと思われる男が分かったのだ。
 ただ、彼女は実に不思議なことを言っていたという。
「私は、スナックで働いているホステスなんですけど。橋立さんとは、そんなに仲がいいというわけではないんです。私が一番最近、一緒にいるのは確かに橋立さんなんですが、肉体関係になっているとかそういうこともないんです。アフターや、同伴はよくしてくれますが、私にとっては、お得意の客というだけで、そこまでの人ではないんです。彼もそのことは分かっているはずなのに、どうして、私に遺書を送り付けてくるのか、冗談だと思っていたんです。だから、まったく意識をしていなかったんですが、この間の、工場での作業員が刺された事件があったでしょう? その被害者のことを、やけに嫌っていたんですよね」
 というではないか。
「じゃあ、橋立と、あの時の作業員とは、馴染みがあった?」
「というわけではないようで、表向きは普通だったんだけど、何かよく分からないけど、橋立さんはやたらと文句を言っていたんです。私はどんな人だか分からないけど、客が愚痴をこぼすのを聞くのも仕事ですからね」
 と彼女はいうのだった。

                 大団円

 ただ、捜査はあまり真剣には行われなかった。ただ、指紋の照合だけは行われた。彼が行方不明になってから、2カ月、そして、その後に、遺書が送られてきて、そして、板金工場での殺人。
 彼女の捜索願を受理したことで、彼の部屋を捜索し、指紋を採取。そして、崖っぷちに残っていた遺書の指紋とを照合すれば、指紋は一致することになった。
 これによって、あの遺書を書いて飛び込んだかも知れないと思われる人間が橋立であること、そして、工場で殺された作業員を殺した犯人の最有力容疑者が、橋立であるということが判明したのだった。
 ということになると、殺人は、自殺よりも後ということになるので、この自殺というのも、
「狂言自殺」
 の可能性が限りなく高くなったというわけだ。
 これは、もう捜索願どころではない。指紋が一致したということで、指名手配するレベルの問題なのである。
 ただ、今の時点で、指名手配は時期尚早であった。
 動機というものが怪しかったからだ。
 動機ということであるならば、ハッキリとしたものがあるわけではなかった。
 それはあくまでも彼女が言っているだけで、
「その内容までは、ちょっと」
 というのであった。
「どうして教えてくれなかったんだろうね?」
 と聞くと、
「だから、それほど親しいわけではないと言ってるでしょう? お客様としては、お得意様ですけど、人間関係という意味では、客とホステス、それ以上でも、それ以下でもないということなんですよ」
 というのだ。
 そして、もう一つ気になるのが、誘拐事件だった。
 前に一度、狂言誘拐まがいのことがあり、それが結局、
「人騒がせ」
 で終わったはずだったのに、その少ししてから、近所で、また誘拐事件があったというのは、摩訶不思議な気がした。
 ただ、それは捜査員を油断させるためのものであったのか、予行演習のつもりであったのかということを考えると、最初の未遂があまりにも幼稚であったが、二度目の事件もカウントダウンのような幼稚だと思える手を使われて、まんまと、
「相手はバカだ」
 という心理トリックに引っかかってしまったかのように、カウントダウンの最中で誘拐事件を起こされてしまうという、警察にとっては、大きな失策だったといえるだろう。
「今回の事件で、私は気になっているのは、最期の事件なんです」
 という。
「最後の事件で、八島という男がいうのには、一の谷という男が行方不明だと言っていたが、殺された男は、一の谷ではなかった。今指紋を採取していろいろ探しているところだな」
 というところへ、ちょうど指紋の照合結果が出てきた。
 すると、何とあの指紋は、狂言自殺をしたと思われた、そして作業員を殺したかも知れないと思われる橋立だということが判明した。
「じゃあ、一の谷はどうしたのだろう?」
 と考えていると。
「一の谷が犯人ではないか?」
 と思われた。
 さらにいろいろ捜査を行っていく過程において、
「一の谷という男が、例のマンションでの死体の発見者である、奥さんと不倫関係にあったということが判明しました」
 ということであった。
 いろいろと事件の真相に近づいて行っている湯女気がしたのだ。
「一体、どういうことなのだろうか?」
 と思われたが、実は。
「隣の奥さんを、橋立が、脅迫していたということです」
「橋立というと、最初に殺された作業員じゃないのか?」
 ということである。
「それともう一つ分かったのは、橋立は、一の谷も一緒に脅迫していたというんです。ということは、二人が協力して、橋立を殺したということも考えられるんではないでしょうか?」
 という。
 事件は実にこんがらがってきた。
 それも、
「最初の自殺したと思われた人物が一の谷ではないか?」
 ということが判明したとたん、いろいろなことが分かってきたのである。
 まるで、事件の真相が闇に包まれていたものが、何かの拍子に明かりがつき、すべてを照らしているかのようだ。
 だが、あまりにもうまく行きすぎているような気がする。そうなると、ある程度の事件の真相がわかってきても、結局最後は辻褄が合わなくなって、また捜査、あるいは、推理を最初から立てなおさなければならなくなるということになりそうな気がして仕方がなかった。
 要するに、
「完全に犯人のトラップに引っかかってしまったのではないか?」
 という考えである。
作品名:能と狂言のカオス 作家名:森本晃次