能と狂言のカオス
「一つバレてしまうと、そこから、どんどんバレていってしまい、せっかくのミスリードがうまくいかなくなってしまう」
ということになるのであろう。
そう思うと、この事件において、警察側も、犯人側も、ある意味でポンコツだったといえるかも知れないが、それ以上に、事件を必要以上に複雑怪奇にさせようとしてやりすぎたことが、却って、
「一つのことが判明すれば、巻き着いた糸をほぐすのは、意外と簡単なことなのかも知れない」
と考えられることであった。
結局事件は、一の谷を殺してしまったという自責の念と、八島にこれから、
「一生食い尽くされることになるのではないか?」
ということを考えると、
「奥さんの自首」
という形で決着がついた。
そして、すべては、一の谷の死体が発見されたことで、表に出ることになったのだが、交換殺人であったり、狂言誘拐、狂言自殺など、結局、どこまでが一の谷の計画で、どこからが、八島の計画だったのか、捜査が進んでも、そこだけは分からないままだったのだった……。
( 完 )
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