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能と狂言のカオス

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「そういうことになります。殺された人がたまたま奥さんの見たことのない人だったというだけかも知れない」
 と管理人がいうと、
「じゃあ、奥さんが被害者を見たことがないと思ったのは、偶然なのかな?」
 と刑事がいうと、
「最初の思い込みで主人の顔を覚えておらず、雰囲気だけを覚えているだけなら、顔を見られないようにすれば、同じ人間だと疑わないでしょうね。今回は殺されていたので、マジマジと顔を見ることになったから、別人だと気づいたんでしょうね」
 と、管理人はいうのだった。
 なるほど、管理人に言われた通りのようで、松島も、その話を聞いてピンとくることがあった。
 マンション住まいをしていると、このような話は、
「マンションあるあるだ」
 といってもいいだろう。
「ところで、何人くらいで借りておられたんですかね?」
 と松島に聞かれた管理人は、
「そうですね。4人と言われていましたかね? その後で増減したかは分かりませんが」
 というので、
「じゃあ、マンションを借りている人の連絡先をお教え願えますか? 少なくとも、被害者の身元を特定しないといけない」
 と言われ、管理人は不振に思った。
「持ち物から、被害者を特定できなかったんですか?」
 と言われて、
「それが、被害者は、財布などの身元を示すものを身に着けていなかったんですよ。犯人が抜き取っていったんだと思います」
 というと、
「分かりました。そういうことなら、連絡先をお教えしましょう」
 ということで、代表で借りている人物の連絡先を教えてもらった。
 ケイタイに連絡を入れると、
「もしもし」
 と言って相手は出た。
 松島は自分の電話を使わずに、管理人の電話を使って、管理人にまずは連絡を入れてもらった。
 知らない人から電話があると、電話に出ない可能性があるからだ。
 警察は、なるべく、
「知らない番号の電話には出ないように」
 ということをいう。
 個人情報保護と、詐欺防止のための対策であった。
 だから、管理人から掛けてもらうのが一番だった。
 管理人が掛けると相手は、すぐに出たようだ。
 管理人であることは分かっていて、その管理人から掛かってくるということは、その電話が、この男にもロクなことでもないことがすぐに分かったということであろう。
「どうしたんですか? 管理人さん」
 と相手が電話に出たということは、少なくとも契約者が、今回の被害者ではないことは確かなようだ。
 スマホをスピーカーにすることで、刑事にも会話の一部始終が分かったのだ。
「実はですね、お貸ししている、あのお部屋でですね。今朝になって、死体が発見されたんですよ」
 と管理人がいうと、
「ええっ? そうなんですか?」
 と驚いているようだが、それがわざとなのかどうなのか、電話だけでは判断がつかない。
 何と言っても、遭ったこともない人間などで、想像がつく方が恐ろしいというものである。
「それでですね。刑事さんがこられて、事情を聴かれているんですが、よろしければ、あのお部屋に関わっておられるからをお教えいただきたいと思いましてね」
 と管理人がいうと、
「ああ、いいですよ。刑事さんに直接お話します」
 ということであったが、これは当たり前のことである。
 殺人事件の捜査なのだから、協力するのは当たり前であるが、せっかく管理人にも話していない他の連中のことを、警察以外の人に話すというのは、プライバシーの観点からもまずいことであった。
「分かりました。では、後ほど、お伺いいたします」
 ということで。電話を切った。
「この人はどういう人なんですか?」
「お名前は、八島さんと言われる方で、商社にお勤めのようです。海外にも時々主張に行かれるというような話も聞いていましたね」
 と管理人が言った。
「この部屋を借りておられる4人の方というのは、その商社の社員の方なんですか?」
 と松島刑事が聞くと、
「いいえ、そうでもないようですよ。皆さん、会社は違うとお聞きしました。全員が全員違うのかどうかまでは聞いていないし、その4人が増減したかどうかということも聞いていませんのでよく分かりません」
 と管理人が言った。
「ということは、管理人さは、ほとんど彼らの情報はご存じないということですね? 実際にどれくらいお話しされたんですか?」
 と聞かれた管理人は、
「ほとんどお話はしていません。最初に契約をされた時、私の想像を少し超えていた契約の仕方だったので、最初だけは興味を持って聞いたんですが、そういうマンションの活用の仕方もあるんだと思うと、面白い気がしましたね。彼がいうには、今では普通にあるというじゃないですか? そのあたりの話を逆に契約者の方から伺ったくらいですよ」
 と言った。
「じゃあ、契約に来られたのは、代表でその人だけだったんですか?」
 と松島が聞くと、
「ええ、そうですね。そもそも、契約だけですから、一人で十分なんですけどね」
 と、管理人は言った。
「じゃあ、管理人さんは、その4人の顔は見たことはないわけですかね?」
 と聞くと、
「ええ、他の方は一度もみませんでしたね」
「じゃあ、借りに来られた代表で契約された方は?」
「何度かお見掛けしたことはあります。そういえば、確かに、その人しか見たことがなかったので、ただの偶然なんだろうか? と感じたのを覚えていますね」
 と、管理人は言った。
 それを聞いて、松島刑事は、違和感があった。
 話としては、4人で借りているというが、隣人にしても、管理人にしても、見たことがあるのは、一人だという。ここに違和感があった。
 確かに自分が代表で借りに来ているのだから、一番利用率が高かったとしても、そこに違和感はないはずである。
「うーん、借りているのは、4人というが、今のところ見られているのは、たったひとりだけ。本当にここで、誰か泊まりに来たことがあるんだろうか?」
 と考えるほどだった。
 これも後で聞き込みをしてみると、この部屋の住民を見たことがあるという人でも、代表者の人以外では見かけたことがないという話だった。管理人の話でも、確かに、先ほどの遺体を見てもらったが、見たことのない人物だということだ。
 少なくともハッキリと分かっているのは、借りに来たほとんど一人でしか住んでいないこの部屋で、マンションの近隣住民から目撃されたことのない人物は、殺されたということに違いはないのだった。
 とりあえず、管理人に聞ける話は聞いてみたが、それ以上の話は聞けなかった。
 管理人の話から得られた一番の情報は、
「4人で借りるということだが、他の3人は見たことがない」
 ということである。
 ということは、
「そもそも、4人というのは、最初からそんな話は存在するわけではなく、代表者が何かの目的でウソをついているということであろうか?」
 と考えられた。
 松島刑事は、代表者に遭うべく、管理人と別れて、彼の会社である商社に赴いた。
 それなりに大きな会社で、ビル自体が、その商社のビルだったのだ。
 受付で、
「警察ですが」
 と言って、声を掛けると、さすがに受付の女の子が恐縮し、
「あの、どのような御用で」
 と訊ねられ、戸惑っていると、
作品名:能と狂言のカオス 作家名:森本晃次