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能と狂言のカオス

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「ああ、この間、ほら、ちょうど1カ月くらい前に、板金工場で作業員の橋立という男が殺されたのを覚えているだろう? あの事件の容疑者の一人だったので。一度会ったことがあったんだけど、別に普通の会話をしただけだったんだ」
 と松島刑事がいう。
「じゃあ、同じ人が犯人なんですかね?」
 と鑑識が聞いてからの話は、前述のような会話になったわけだった。
「とりあえず、死亡推定時刻としては、日付が変わったことくらいだと思います。先ほども言いましたように、毒殺の場合は、この場所に犯人がいなくても、成立するということですね」
 と鑑識が言った。
「それは分かっているんだけど、私が気になったのは、そんなことではないんだ」
 というと、松島刑事は、今度第一発見者の奥さんのところに来て、
「奥さん、詳しいお話は後程伺うことになりますが、まず確認したいのは、あなたが、この死体を発見した時、表の扉は半開き状態で、閉まらないようにしていたということでしたね?」
 と聞かれた奥さんは、
「ええ、このマンションは、オートロックになっているので、扉が閉まってしまうと、そのままカギも閉まってしまうんですよ。だから、カギが閉まらないようにするには、ドアチェーンの代わりの、ちょうど音叉のような形の金具を扉のつっかえ棒のようにするか、靴か何かで、閉まらないようにするかしかないんですが、ご丁寧に、両方されていたんです」
 という。
「ということは、犯人、あるいは誰かが、この状態を早く発見してほしいと思ったんでしょうね。幸い、奥さんがこの時間、玄関先を掃除するということを知っていた人がいたとすれば、奥さんが最初に発見することになるんでしょうね?」
 と言われ、
「私が掃除をしているのを知っている人は、それほどいないと思いますが?」
 と奥さんが言ったが、奥さんが知らないだけで、意外と知っている人はいるのかも知れない。
 まわりをあまり気にしすぎて、コソコソしていると、意外と目立ったりするものだからである。
「そうですか。ただ、奥さんが発見してくれたおかげで、この時間という比較的早く死体を発見することができたわけだ」
 と松島がいうと、
「でも、それだったら、何も深夜である必要はないのでは?」
 と鑑識がいうと、
「あなたが自分で言ったではないですか。毒をいつ飲むかは、誰にも分からないってね」
 というと、鑑識は黙ってしまった。
「ただ、そうなると気になることがあるんだ」
 と松島が言った。
「どういうことですか?」
「玄関先のことなんだよ。誰がどういう目的で扉を半開きにしておいたかということだね? 犯人がすぐに発見されるようにしたのだとすれば、それは死亡推定時刻をハッキリさせて、アリバイがあるのを証明させるということには使えそうだが、毒殺ではそれも違う。しかも、被害者が苦しみ出した時、この場にいた人間の細工であるとすれば、何のために? 犯人なのか、犯人ではないかということだよね? それを考えると、何かこの事件には引っかかるところがあるんだ。しかもだよ。この被害者が、1カ月前の被害者と、関係があったということも非常に気になる。あの時はアリバイがあって、捜査線上から消えた人物だったんだけどな。今回の事件と、前の事件が繋がっているかどうか、それもハッキリとしないじゃないか?」
 と、松島刑事が言った。
「毒殺されたということで考えると、普通は、犯人が別だということで、連続殺人ではないと思わせるためなのか、本当に犯人が別なのか、結果的には犯人が違うということであっても、殺害方法を変えたということが、意味のあることなのかどうかが犯人にとって、何か意味があることなのかって考えるんですよね」
 と、鑑識員が言った。
「犯人が違っていれば、連続殺人ではないのだけど、それぞれの被害者にかかわりがあるということになると、どこまでが偶然なのか、それとも、すべてが偶然だということはないだろうから、あとの犯人が、前の殺人には関係ないと思わせた可能性もあるよな」
 と松島刑事がいうと。
「犯人を別だと思わせたいのは、このままだと連続殺人ということにされてしまうのが怖いということですよね? ということになると、今回の犯人は、前の時の犯罪において、自分にはアリバイがないと思っているのではないでしょうか? だから、今回の犯罪で自分が疑われれば、前の殺人も犯人にされると思っているのかも知れませんよ?」
 と鑑識がいうと、
「それはありえないことではないが、果たして、どうして、前の殺人と今回の殺人が結びついていると、今回の犯人が分かるんだい? この二つのつながりは、あくまでも警察は捜査したうえで分かったことで、よほど、被害者二人に近い人間でもなければ、そこまでは思わないと思うんだ。そのあたりから、捜査してみる必要があるのだろうか?」
 と、松島は言った。
「確かにその通りですね。それを思うと、今回の犯人が何か必要以上なことを知っているか、あるいは、まったく前の殺人と意識することがないかという判断になりますね」
 と鑑識は言った。
「そうなんだ。だから、その違いによって、事件の見る方向がまったく違ってくることになる。それが今回の事件の問題だといってもいいだろう」
 と、松島は言った。
 松島は、まず、第一発見者である、隣の奥さんに話を聞いてみた。
「奥さんは、いつも。この時間に掃除をされるんですか?」
「ええ、他の人と会うのが気に入らないので、なるべく、人と会わない、6時前くらいに掃除を始めるんです。中には早く出て行かれるご主人さんもいらっしゃいますが、そういうご主人は、ほとんど会話もありませんから、気にすることもないんです。どうしても、近所の奥さんとの顔を合わせるのが嫌なものでね」
 というのであった。
「なるほど、奥さんによっては、こんなに早い時間に掃除をする人はあまりいませんからね」
 ということだった。
「昨日から今日にかけての日付が変わる頃、何か物音を聞かれませんでしたか?」
 と松島に聞かれて、
「いいえ、何も気づきませんでした。誰かと争っているという意味でですか?」
 と聞かれた松島は、
「ええ、そうです」
 というと、
「そんなのは聞こえませんでしたね? でも、これって毒殺なんでしょう? 口から血を吐いているのと、フローリングについた血を見ると、それはよく分かります」
 というのを聞いて、刑事は少しビックリした。
「あなたが気づくくらいに血がべっとりとついていたということですか?」
 と聞かれて、
「ええ、そうですけど、べったりとついていましたよ」
 と言われ、第一発見者をもう一度、事件現場に連れていった。
「これではどうですか?」
 と聞くと、
「まったく違いますね」
 と言った。
 先ほど見た時は、まるで、血の海のようになっていて、真っ赤な鮮血であることは分かった。それに、少しどす黒さもあったので、吐血であることは、素人にも分かるというものだった。
 しかも、あの生臭い金属臭。まさしく吐血で間違いない。薬物による毒殺であることは、見ての通りだった。
作品名:能と狂言のカオス 作家名:森本晃次