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能と狂言のカオス

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「一人一人当っていてもキリがない」
 というほど、結構いたので、手当たり次第に当たっている間に、なかなか捜査も進まなかった。その間に、そのうちの一人が死体で発見されたのだ。
「最初の事件では、刺殺だったが、今回の殺人は毒殺ですよね? 同一犯の犯行だとみていいんでしょうか?」
 と他の刑事が言ったが、
「うーん、何とも言えないな。第1の殺人をこの男と、他に共犯者がいたりすると、その件で何かトラブルが起きたと考えることもできるし、何とも言えないな」
 というと、今度は鑑識の人が口を挟んできた。
「刺殺と毒殺の違いなんですが、刺殺の場合は、アリバイというものが重要になってくると思うんですが、毒殺の場合は、犯人がその場にいる必要はないんですよ。例えば常用している薬のカプセルの中に、毒薬を仕込んでおくということもできますからね。それに、何かの飲み物などに仕込んでおいたとしても、いつ飲むか分からないわけでしょう? そういう意味では、アリバイは、あまり意味のないことになりますよね?」
 ということであった。
「そういう意味で、最初の殺人は、却ってアリバイがしっかりしているのも、何か怪しいという思いがしていたんですよ。何らかのトリックでも使ったのではないかってね。でも、あの被害者は、たくさん容疑者になりそうな人がいたので、それも犯人の狙い目だったのかとも思ったんだよ。だって、容疑者が多ければ多いほど時間が掛かる。時間稼ぎをするには十分だからね」
 と松島刑事は言った。
「毒殺と刺殺の違いで、もう一つ大きなこととして、凶器の入手方法という意味で違いますよね? 視察に使うナイフや包丁などは、そんなに入手が難しいわけではない。ホームセンターや雑貨屋で普通に手に入るものですよね? でも、毒薬というとそうもいかない。青酸カリであれば、メッキ工場のようなところで手に入れることもできるでしょうが、一般人が薬局で手に入れるなどということは、ほぼ不可能ですからね」
 と鑑識が言った。
「もちろん、そうですよね。でも、第1の殺人では、板金工場の作業員が被害者だったわけでしょう? 今回の事件の被害者を殺した犯人が、もし板金工場に関係があったとすれば、どうなんだろうね?」
 と松島が言った。
「私は刑事ではないので何とも言えないですが、板金工場は閉鎖になったわけですよね? 犯人は、それでも、その凶器になりそうなものを、こっそりくすねていたということでしょうか?」
「それはできないことではないと思うよ。閉鎖のどさくさで少しくらいくすねるくらいのことはできたかも知れないが、そのあたりは、元の工場長に聞いてみないと分からないけどね」
 そんな会話が繰り広げられていた。
 今度の殺人が見つかったのは、被害者のマンションからだった。
 被害者はマンション住まいで、発見したのは、隣人の奥さんだったという。
 早朝の6時頃に、マンションの自分の部屋の入口前を清掃するのが日課になっていたという。
 その日も、他の住人とあまり顔を合わせたくないという理由で6時前から掃除をしようと、玄関先に出たのであった。
 まだ、この時期、6時前というと、あたりは暗い時間で、通路の電気は、深夜対応で、一つ置きにしか点灯していないので、ちょうど、隣の部屋の入口あたりは、暗かったのだった。
 いつものことのように掃除をしていたところで、隣の玄関から光が漏れていることに気づいた奥さんだったが、勝手に覗くわけにもいかないと思って気にはなったが、少しの間自分の玄関前をいつものように掃除をしていた。
 しかし、5分経っても、まったく様子が変わらない。とにかく、玄関が半開きになっているのが不思議だった。
 ドアチェーンが、チェーンではなく、まるで音叉に似た棒を扉のひっかけるところに、あてがうようにしておけば、半開き状態になるのだろうが、それをしているのかと思ったが、よく見ると、扉の足元のところに、靴が引っかかっているではないか。
 そして近付いてみると、同じように音叉の形のものが、扉の隙間から見えた。
「といことは、念入りに閉まらないようにしていたということか?」
 と感じて、中を覗き込んでみた。
 この細工は明らかに、
「中を覗いてくれ」
 と言わんばかりのもので、この様子は不気味でしかなかったのだ。
 奥さんも不気味に感じ、冷静になって、
「指紋を残してはいけない」
 と思いながら、タオルで右手と左手を撒くような形で、不自由ではあるが、両手で扉を挟むようにして、中に入ってみた。
「そうかされたんですか? 玄関が開いてますけど」
 と言って声を掛けながら中に入ってみた。
 扉が閉まらないように元通りにして、ゆっくり声を掛けながら中に入ったが、奥からまったく返事が返ってこない。
「おかしい」
 と感じた奥さんは、リビングの方に近づいていった。
 すると、何か、ツンとくる嫌な臭いがした。
「何なのかしら? この臭い」
 と思い、臭いを感じていたが、その臭いが、金属のような臭いであったので、
「まさか、血の臭い?」
 と思った。
 だが、それもちょっと違う気がした。それ以外に何かの薬品のような臭いがしたのだが、気のせいだったのだろうか?
 ただ、その薬品の臭いを感じた時、奥さんは、ふと、
「死んでいるとすれば、毒殺?」
 と感じたのだという。
 後で警察にもそのことを話すつもりだったが、どうしてそんな風に感じたのか、自分でもハッキリと分からないようだった。
 毒殺を疑ってみたせいもあってか、さっきまでの勢いはどこえやら、進むのが怖くなった。足が一歩も前に進まなかったのだ。
 その間がどれくらい続いたのだろう? 本人としては、
「永遠に続くのでは?」
 という恐ろしさに震えが止まらなかったが、意外とすぐに震えは止まった。
 何かのきっかけがあったのだろうが、その理由は分からずに、すぐに金縛りは解けて、また前進するのだった。
 そこには、想像通り、うつ伏せになって、顔を横に向けて倒れている被害者がいた。横から見ると、口から血が流れていて、さらによく見ると、その血が、フローリングの上に浮いていて、まるで血の池を見ているようで、今度は完全に、むせてしまった。
 被害者の顔は、断末魔に歪み、虚空を見つめている。
「こんな恐ろしい光景は、最初で最後なんだろうな?」
 と思うほどだった。
 一瞬、あっけにとられていたが、すぐに冷静さを取り戻し、警察に連絡した。すぐに来てくれるということであるが、さすがにここに死体と一緒にいるのは、耐えがたいと思ったが、今度は、身体を動かすことが億劫であり、その億劫さは、金縛りと変わらないくらいに、身体にまとわりついていたのだった。
 警察が、鑑識を伴ってやってきた。
 奥さんは知らないが、例の松島刑事と、いつも議論している鑑識官であった。
 今回の被害者は、ハッキリとは分からない。だが、かなりかかってのことだが、被害者のことが分かると、
「まさか、あの人が殺されるとは思ってもみなかったな」
 と、松島刑事がいうと、
「松島刑事は、彼のことをご存じなんですか?」
 と鑑識に言われて、
作品名:能と狂言のカオス 作家名:森本晃次