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能と狂言のカオス

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 その日に限って、ルーティンが少しずれてしまった。そのため、刑事は普段はいかない場所へといざなわれたのだが、その時、待っている方の尾行者が、まだ、来ないということで探し恥じえた。
 その時、もう一方の尾行者とかち合わせしたことで、
「どうしてだ? 今日は行動が違うではないか?」
 と言って、そこで呼び止めて聞くことにあった。
 そこで、尾行者の間に大きな隙ができたのだ。
 尾行者としても、まさか、その隙に誘拐されるなど思ってもみなかったので、しばし、尾行者同士で、事情を説明する時間ができたのだ。
 それが油断とも重なって、本当にいなくなったことに気づくまでに、さらに時間が掛かってしまった。
 尾行者側も、指揮していた側も混乱してしまった。
 最初は、警察も密かに捜査をしていたが、カウントダウンがあまりにも露骨だったので、尾行の専門家を数名派遣することになった。
「捜査員は避けないが、尾行員くらいなら、出すことができる」
 ということで、昨日くらいから、今回のような、
「数人による尾行」
 が行われるようになったのだ。
 そのおかげで、警察も、
「これで、万全だ」
 と思っていたのだが、蓋を開けると、まんまとしてやられたことになった。
 もちろん、警察も気を付けていたのだろうが、犯人側のカウントダウンがあまりにも鮮やかな手口で、手が込んでいるのを感じると、騙されてしまうのも、無理もないかも知れない。 さすがに、犯人側を、
「卑怯だ」
 とまでは思わなかっただろうが、逆にそれだけ自分たちの無能さが証明されたことが、これほど悔しいものかと思ったことだろう。
 昔だったら、切腹ものだったに違いない。
 それにしても、犯人の手口はあまりにも鮮やかだった。いくら警察が無能だったとしても、ここまで鮮やかなことができるはずがないと思われた。
 実は刑事として、怪しんでいることがあったのだが、
「今の自分の立場からは、決して言えない」
 という思いがあるからか、どうしても、口にできなかった。
 下手に口にしたとしても、
「そんなものは、自分の落ち度に対しての言い訳でしかない」
 と思われるに違いなかったからである。
 それを考えると、
「実に犯人側が最初から鮮やかに、そして周到に計画された事件」
 だといってもいいだろう。
 思わず刑事としても、苦笑いをせずにいられない。
 ここまでの屈辱を味わされたはずなのに、なぜか相手をあっぱれだと思えてくる自分が情けない。
 それにしても、どこまでが犯人の計算通りのことなのかが分からない気がした。だが、これで刑事の頭の中には、
「犯人側は単独犯ではなく、共犯者と言われる人が、少なくとも一人はいることが決定した」
 ということは分かった。
 それも、言えないくらいの屈辱感と敗北感に苛まれた刑事は、今は頭に血が上っているが、次第に冷静になっていくのを待つしかないのだった。
 そんな中で、一連の事件を思い返してみると、
「何か、手玉に取られているような気がする」
 と感じた。
 この手玉に取られている感覚が、
「前にも味わったことがある感覚だ」
 ということを思い出した。
 すると、松島刑事は自分が子供の頃から学生時代までを思い出すのだった。
 松島刑事というのは、よく友達から、
「惜しい男だ」
 と言われていた。
 それは、最近よくある皮肉として言われることで、
「残念な」
 というような意味ではなく、正直、
「ガチな」
 という意味での、惜しいということだったのだ。
 なぜそのような言われ方をするのかというと、それは、
「いつも、次点だからだ」
 という意味である。
 要するに、いつも1番は変わっているにも関わらず、2番目という位置は絶対に譲らないという意味であり、1番にはなれないが、3番以下ということもない。だから、1番の人が落ちるのは、2番ではなく、3番ということになるのであった。
 自分でもなぜ、こんなことになるのか分からなかった。まわりからは、
「神掛かっている」
 といわれてきた。
 1番はいつも違うのに、2番だけが変わらないというのは、奇跡に近かった。なぜ、そんなことになるのか、最初は分からなかったが、大学生になった頃に、ふと感じた思いが、自分の中で、
「間違いない」
 という発想になったのだ。
 それはなぜかというと、
「松島という男は、天邪鬼だ」
 と言われることに由来していた。
 他人とは、いつも違う発想をする。逆に言えば、他人と同じであることが嫌だったのだ。
 他人と同じことを発想するのが嫌なので、逆に正反対のことを何とか理由をつけて、強引にでも。正当に持ってこようとする。それには、正反対のことでなければ、成り立たないのだった。
 まったく正反対であれば、その中間に、相手が見えないものが存在することであり、相手にも自分のことは分からないが、自分も相手のことが分からない。相手はそんな意識はまったくないので、無心で戦う相手には絶対に勝てないのだ。
 自分には、相手のことが見えないということが分かっているからだ。その分、どうしても相手に気後れしてしまう。それはどうしようもない。逆にそれが分かっていなければ、気後れはしないが、相手も自分を分からないということによる自信がつかめないので、相手に対して優位になれる可能性もあるが、それ以上に2位よりも下に落ちるというリスクの方がはるかに高いのだ。
 それを思うからこそ、どうしても、他人と同じでは嫌だと思うことから逃げられない。だが、これがずっと今までの自分の性格を作っていることに間違いはなく、そのおかげで今の自分があるのだと思っている。そのことが、自分を2位でも、世の中に君臨しているということにさせてもらえたのだ。
「1番になってしまうと、自分ではなくなってしまう」
 と思っていた。
 ポジティブに考えると、1番になると、それ以上を求めることができなくなり、大げさであるが、生きる意味を見失ってしまうのではないだろうか?
 しかし、2番であれば、
「いつかは1番になれることを夢見て頑張れる」
 と思うことで、モチベーションを保つことができる。
 無意識ではあるが、目標を失うことが、最高に怖いことなのだろう。
 そして、さらに考えることとして、
「5分先を歩いている自分が見える」
 という暗示でもあるのだった。

                 今度の殺人

 今度の誘拐が本当の誘拐であることは、犯人から送られてきたCD映像で見ることができた。
 そこには、どこかの廃業倉庫と言ってもいいようなところで、縛られているのが見えた。それを見た松島刑事は、二つのことを感じた。
 一つは、普通の感想で、もう一つは疑問だった。
 最初に感じたのは、
「この場所、どこかで見たことがあるな」
 という思いと、もう一つは、
「なぜ、こんな広いところで、わざわざ映像を映したのだろう?」
 ということであった。
 そもそも、どこかで見たことがあると思ったのは、その場所が、
「無駄に広い」
 と感じたからであった。
 その場所が無駄に広いという疑問から、
「どこかで見たことがある」
作品名:能と狂言のカオス 作家名:森本晃次