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能と狂言のカオス

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「余計なことをいうんじゃない」
 と、生徒が勇気をもって連絡してくれたことであっても、自分が煩わしいことに巻き込まれたとでも思うのか、生徒のせっかくの親切を踏みにじることになるのが先生なのではないだろうか?
 生徒が思っているほど、先生は生徒のことを考えていないだろう。
 といっても、
「先生が生徒のことを思ってくれている」
 などという殊勝な生徒は、ほとんどいないだろう。
 もっとも、そういう生徒でもなければ、学校のまわりで怪しい人物が徘徊していたとしても、先生に話すことはない。
 かと言って、直接警察に話すこともないので、ほぼ誰も怪しいことがあったとしても、見て見ぬふりをするに違いない。
 そんな生徒と先生の間に、信頼関係などが生まれるはずもない。それはクラスメイトに対しても同じことで、結局、
「自分の損益にしか、関心がない」
 ということであり、
「自分のことしか考えていない」
 という社会と同じ構造が、学校という小さな社会でも、縮図となっていることだろう。
 いや、
「学校という社会が、社会全体の縮図という形で君臨しているのかも知れない。時系列から考えると、成長の過程において、学校が存在するのだから、まず学校というところにいることで、自分のことしか考えない社会が出来上がるのだろう」
 つまりは、社会に出てから、
「学生時代はよかった」
 と思うのは。目に見えた形のものであり、
「学生なら許される」
 というものが、多かったからだろう。
 社会構造が、学生時代の方がよかったわけでも何でもなく、卒業する頃には社会人になってからも変わらぬ社会が広がっているというものなのではないだろうか。
 むしろ、会社にいる時は、まわりに気を遣ったり、まわりの秩序を守ろうという風潮からの、
「大人の世界」
 が存在するが、子供の世界には、そのような秩序はほとんどないので、学生時代の方が、あまりまわりに気を遣うことのない人は多いのかも知れない。
 だから、露骨な苛めなどが、集団意識の中で起こっていて、それを隠そうとしないのが学生時代である。
 大人になって苛めがないわけではない。それは大人の世界ということで秩序を重んじようという体裁ばかりを気にすることで、第三者が見ていて分からない部分が多いのだろう。そうなると、本人たちにしか分からない世界が成立していて、派閥のようなものがあったりするのも当然のことであろう。
 その子が誘拐された日、最初、彼女が誘拐されたことを誰にも分からなかった。
 見張っている人も、まさか誘拐されていると思わずに、正直油断していた。
 というのは、カウントダウンということに、あまりにも意識が行っていたので、
「まだ、あと3日ある」
 と誰もが思っていたのに、その3日を残して、その子は誘拐されてしまったわけだ。
 まるで、ルパンが予告道理に犯行を行う犯人で、表に大きな時計台があるところでの犯行を行ったのだが、警備の人間も、誰かもが、表にある時計台の時計を目印にしていたのだ、
 その時、時計を5分進めてておいたので、犯人は、ちょうど12時になって、電気を消して、すぐにつけたとすると、実際に目の前には狙われたものは存在した。
 元々、それを狙うために近づくこともできなかった。なぜなら、赤外線のようなレーザー光線のようなものが張り巡らせていて、下手に触ると、焼け死んでしまうという仕掛けがあった。
 犯人は、それを知っていて、12時になった時点で、
「物はもらった」
 というので、物はあるように見えるが、てっきり入れ替えられていると思い、急いで警備を時、それを、確かめようと、蓋を開けるのであった。
 すると、犯人は磁石のついた糸を上から垂らし、速やかに奪い取ることに成功した。
「必ず約束を守ると言ったお前が、こんな卑怯な真似をするなんて」
 と言って、警察は地団駄を踏んだが、考えてみれば、相手は泥棒なのであって、別にルールのあるスポーツのような競技をしているわけではない。
 それを、勝手に警察が、
「やつは、ルールを守ることをモットーにした犯人である」
 という先入観があったのが一つ。
 さらに、犯人は約束を破ったわけではなかった。何しろ、前述のように、時計を早めていただけなので、それを皆が信じただけだ。
 犯人にとって、柱時計が表にあるということが、この事件を計画するに至った一番の理由だったのだ。
 人間の心理として、
「一番見やすいところにあるものを見てしまう」
 という発想と、
「皆同じものを見ている」
 という集団意識による安心感が、勘を鈍らせた、あるいは、狂わせたといってもいいだろう。
 つまり、このようなことが犯人にとっての心理戦であり、まんまと警察は心理戦に敗れたということであった。
 そして、これこそが、アリバイトリックの基礎になるものだといえるのではないか?
 探偵小説の起源には、シャーロックホームズのようなものや、犯人が泥棒であり、その犯人自体が主人公たりえるということでもある、いわゆる、
「ルパンもの」
 というものも存在したのだ。
 そういう意味では、ルパンによるトリックが警察を手玉に取るという話も、探偵が、犯人を手玉に取るような話と同じで、読んでいる人間を爽快な気分にさせるものではないだろうか?
 そういう意味で、今度の犯人は、あとまだ3あるのに、その日に誘拐してしまったというところに何か理由があるのかどうか、今のところ分からないが、
「そもそも、送られてきた数字が、誘拐までの日付のカウントダウンだ」
 ということを、誰が言っているのだろうか?
 別に犯人が、
「誘拐まであと何日だ」
 と断言しているわけではない。
 ただ、数字が入っているだけで、カウントダウンであるという証拠でもない。それを勝手に被害者側も警察も思い込んでいるだけで、犯人側からすれば、相手を欺いているわけでも何でもない。
「警察は、どうせバカだから、こういう演出をすれば、カウントが0になるまでは、大丈夫だ」
 と、犯人は思ったことだろう。
 警備も完全に油断していたのだろうが、これも、ひょっとすると、被害者側が数字がカウントダウンだといって、警察に強烈な印象を与え、そう思い込ませたのかも知れない。犯人による洗脳ではなく、何と被害者側が過剰に判断してしまったことでの洗脳だったのだ。
 被害者とすれば、これほど愚弄されたことはないと思ったことはないだろう。だが、被害者側からすれば、無理もないこと、肉親が誘拐されようとしているのだから、当然気が気ではないはずだ。そして、もし誘拐されたとすれば、自分の無能さを思い知ることになるのだからである。
 そういうことで、犯人はまんまと誘拐をやってのけた。見張っていた警察も、かなりあたりを探してみたは、完全に忽然と消えてしまったのだ。
 そもそも、彼女の行動パターンは決まっていた。いわゆる、ルーティンが決まっていたということである。
 それも、警察が甘く見ていた証拠だ。そのため、犯人に悟られないようにするという目的で、念のためということで、パスワードを定期的に変える感覚で、見張っている刑事を距離で分けてやっていたのだ。
作品名:能と狂言のカオス 作家名:森本晃次