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遺書の実効力

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 しかも、アリバイの証明もあっという間にできてしまうことで、すぐに容疑者から、除外されるという意味で、トリックにはなかなか使えない。
 昔であれば、コンビニに寄ったりしたら、レシートを持っていれば、アリバイになったかも知れないが、それも、別の人が行ったかも知れないということで、疑うことはできる。防犯カメラなどの普及していない時代であれば、夜の静寂を縫って、犯行を行うということもできただろう。
 それでも。推理小説などであれば、少々、強引であっても、小説として成り立たせることはできるが、本当の犯罪捜査においては、防犯カメラの映像は、犯人にとって有利であろうが、警察に有利であろうが、
「動かぬ証拠だ」
 ということには変わりはないだろう。
 防犯カメラと、アリバイという問題は、推理小説を書く上で、難しい
「狭き門」
 と言ってもいいだろう。
 そういう意味で、医学の進歩によって、一番、不可能に近いトリックと言われるのは、何と言っても、
「首のない死体のトリック」
 と言われた、
「死体損壊トリック」
 であろう。
 首を切り取ったり、顔をメチャクチャに潰し、さらに、指紋のある手首から先を切り取ったうえで、身体に手術の痕などがあれば、その周辺を傷つけておくことで、何と言っても、
「被害者が誰なのか?」
 ということに結びついたのだ。
 しかも、被害者が分からないということは、当然犯人にたどりつけないということであり、まずは、被害者が誰であるかを特定することが先決であろう。犯罪捜査というのは、被害者が特定されて、そこから、被害者が死ぬことで、誰が得をするかということから始まるものだからである。
 それがなければ、容疑者を特定することもできず、そこからアリバイや、犯行に使用したものの入手経路などの捜査になるのである。
 しかし、今のように、医学が発展してくると、顔がなかったり、指紋がなくても、
「DNA検査」
 で、ある程度のことが分かるというものだ。
 親子関係だって、90パーセント後半の確率で分かるというではないか? 首を切り取っても、指紋がなくても、今であれば、ある程度まで。被害者を特定することはできるだろう。
 そういう意味で、死体損壊トリックというのは、不可能に近くなったといってもいいのではないだろうか?
 また、犯罪というものの中には、
「うまくできれば完全犯罪」
 というものがある、
 致命的な欠陥があるので、実際の犯罪には使えないが、小説などであれば、できなくもない。それがいわゆる、
「交換殺人」
 というものだ。
 交換殺人というと、
「お互いに利害のある人間、つまり殺したい相手がいて、相手の代わりに自分が相手の殺したい相手を殺し、逆に相手に、自分の殺したい相手を殺してもらう」
 というものである。
 これには、多くの障害もあるが、うまくいけば、これ以上の完全犯罪はない。なぜならば、
「自分が殺した相手と自分との間に利害関係はない」
 からである。
 逆に言えば、自分と被害者、あるいは、計画した相手との繋がりが分かってしまうと、交換殺人は、まったくその機能を失ってしまうことになるのだ。
 そういう意味で、交換殺人というのは、成功率は、他の犯罪に比べて、相当に低いものだといってもいい。
 犯罪のトリックと言えるわけではないが、犯罪トリックの中で、同じ部類に入るとすれば、それは、
「一人二役のトリック」
 と同じではないだろうか。
 というのも、
「どちらも、分かった時点で、犯罪の特異性は失われてしまう」
 ということだ。
 つまり、一人二役も、トリックが分かった時点で、犯人、あるいは被害者が特定されてしまう。一人二役は、そのどちらか、(あるいはどちらも)特定されてはいけないという特異性も持っているのだ。
 交換殺人も同じで、交換殺人の特異性は、
「まず、犯人に、計画犯と実行犯がいて、それぞれの事件で入れ替わるということだ。そして、実行犯は、決して、被害者とは利害関係があってはならない。ということは、計画犯と実行犯が知り合いであるということがバレてしまっては、多大な障害を経てまで行う意義が失われる」
 ということである。
 一人二役も交換殺人にも共通して言えることは、
「犯行を実行するために、相当前から計画に着手する必要があるということである。
 一人二役であれば、もう一つの役の人間が、この世に存在しているという痕跡を、しっかり残しておかなければならない。
「そんな人間は最初から存在していなかったんだ」
 と思われてしまうと、事件は終わってしまったといっても過言ではないだろう。
 その人間が、いなかったということが分かり、推理を最初から練り直されてしまうと、事件の真相は、ほぼ白昼の元に晒されてしまうことであろう。
 そうなってしまうと、それまでの伏線がすべて証拠になってしまい、すべての努力が今度は犯人を追い詰めることになる。
 そういう意味で、交換殺人も同じことだ。
 交換殺人を行うには、まず、自分と同じように、誰か死んでほしいが、犯罪を犯すには、度胸がなかったり、大切な家族がいるので、捕まることは許されない。
 などと言ったことから、自分と同じ立場の人を探すことから始めるのだ。
 そうしておいて、お互いに誰を殺してほしいかを話し合い、そこから初めて、犯罪計画を練ることになる。
 もちろん、この時点から、お互いが知り合いだということを知られないようにしなければいけない。どこかで会って、計画を練るというにしても、人目のあるところではまずいということだ。
 そして犯罪計画の中には、利害がある方の犯人には、完璧なアリバイを作っておく必要がある。
 ただ、難しいのは、確かに完璧なアリバイが必要なのだが、あまり完璧すぎてしまうと、
「却って、警察に疑われるのではないか?」
 ともいえるのだ。
 だからと言って、それを怖がることはできない。疑われても、利害のない人間が犯人であれば、実行犯に警察が近づくことはできないからだ。
 だから、逆に近づかれてしまうと、計画は半分失敗したといってもいい。
 そういう意味で。交換殺人も、一人二役のトリックも、どちらも、
「もろ刃の剣」
 だといえるのではないだろうか?
 ほとんどのトリックは、最初から分かっているものが多い。
「死体損壊トリック」
「アリバイトリック」
「密室トリック」
「物理的なトリック」
 などは、最初から分かっているものだが、
「心理トリック」
「一人二役」
「叙述トリック」
 などは、そのトリックを使用しての犯行だと分かった時点で、計画はほぼ失敗したといってもいいだろう。
 ちなみに、叙述トリックというのは、
「小説という形式自体が持つ暗黙の前提や、偏見を利用したトリック」
 と呼ばれるもので、いわゆる、推理小説などにのみ存在するもので、筆者が第一人称で書き進めていく中で、読者に、暗示を与えて、ミスリードするというような話である。
 ある意味、交換殺人などと近い発想なのかも知れない。
 小説を書き始める前にはいろいろな下準備がいる。プロットという設計図を書くのもその準備段階のことだった。
作品名:遺書の実効力 作家名:森本晃次