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二人の中の三すくみ

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 その子は、顔に大きな痣があり、いつも、頬かむりをかぶって、人に顔を見せないようにしていた。
 その顔を見た人間は、気持ち悪くて、その土蔵に近づかなくなるという。この屋敷は昔から、近所の人がよくやってきては、
「開放的な家だ」
 と言われていたのだった。
 ただし、昔からこの家の蔵には、
「化け物が住んでいる」
 という言い伝えのようなものがあったという。
 ウソか本当か分からなかったが、会社の人から、
「このあたりの昔からの伝説」
 ということで、飲み会の時に、話していた人がいたのだ。
 その時の話が、この家であるということまではハッキリと分からなかったが、その時の話にあった蔵と、ここの土蔵とが、よく似ていることと、
「会社の一番近くにある土蔵のある家だ」
 ということを聞いていたことからの想像であった。
 この家は、江戸時代までは、名主として、このあたりでは、領主に近いものだったようだ。
 だから、このあたりの土地はすべて、この家のものであり、封建制度のことわりとして、他の家は、皆小作人だったといことであろう。
 明治になり、土地改革が行われても、土地を持っている人が強かったことに変わりはなく、戦後になって、ようやく、地主としての地位が崩壊したことで、民主主義により、この家は、普通の家を化してしまったのだ。
 それでも、昔からの土地は残され、今に至っていることから、蔵が残っていたり、土地の中では、最新式の家屋もあれば、土蔵と変わらないような、まるで、昭和初期を思わせるような建物も残っていたりする。この土地は、まるで、
「生ける博物館」
 とでも言っていいのではないだろうか。
 それだけに、このあたりは、戦後も変わりなく、昔からのものが残っていたりする。何と言っても、手前にある浄水場を作る時、
「昔の防空壕跡が、まだ残っていた」
 と言われるほどだったのだ。
 そもそも、浄水場のあったあたりは、雑木林が生え放題になっていて、竹やぶであったり、小高い丘になったような場所もあったという。そんなところを重機で開拓し、切り開いた土地を整地したりしたのだから、防空壕が出てきたとしても、不思議はなかっただろう。
 ただ、そういう意味ではこのあたりにも、戦時中は戦闘機や爆撃機が来ていたということで、その方がビックリさせられた。
 だが、聞いてみると、それも無理もないことで、この奥にあった、例のお弁当を食べたというあの公園。あそこには、今は病院が建っているのだが、戦時中は、あのあたりに、大規模な軍需工場があったという。
 それだけに、軍需工場を目指して敵の爆撃機が襲い掛かってきたのは当たり前のことであり、空襲は毎日のことだったという。
 今でこそ、昭和のイメージをそのまま残したこの街であるが、昭和初期には、このあたりは軍需工場や、軍の基地があったりして、それが、街の財政を支えていたといっても過言ではなかったであろう。
 そういえば、今でも、昔の名残のような製鉄会社などが残っていたりする。
 それだけ、世の中の時代は進んでも、このあたりの土地の時計は止まっているのか、それとも、恐ろしいくらいにゆっくり進んでいるということなのか、
 このあたりは、下手をすれば、不発弾が、いまだに眠っているところなのではないかと言われている場所だった。
「田舎であって、田舎ではない」
 と冗談めいた話をしていた人がいたが、地元にずっと住んでいる人にとっては、この一言がすべてを言い表しているのかも知れない。
 その土蔵に少女が住んでいたのは、明治時代くらいだったという。その少女は、何かの病気を患っていて、病気療養で、田舎に来ていたというのだが、その田舎では、近くに、サナトリウムがあったという。
 サナトリウムに入っていた人は、以前、この屋敷に、奉公に来ていて、土蔵の中で、この女の子の世話をしていたというのだ。
「サナトリウムということは、結核治療を必要とする人が入る施設だ」
 と言われている。
 だから、彼女も結核で、ここに奉公に行っていた人も結核だったのではないか?
 と思われたが、それなら、彼女を土蔵などに匿うことなく、さっさとサナトリウムに入れるはずなのだが、それはしなかった。
 確かに、ここのご主人が、娘を溺愛していたということはあったようだが、モノが結核だけに、伝染病患者をいくら蔵の中とはいえ、匿うというのは、おかしいだろう。
 当時は不治の病だったこともあって、不憫だというのも分かるが、ここはいまいちわからないところであった。
 サナトリウムに入った人は、結核病棟に入ってから、半年くらいで亡くなったという。しかし、結核の疑いがあったはずの、土蔵の中の彼女は、ずっと生きていたという。
「結核だったら、ずっと生きているというのはおかしいよね」
 と言われていたので、
「結核ではないのかも知れない」
 ともささやかれるようになった。
 そのうちにウワサとして、
「脳か神経に、致命的な病があるのではないか?」
 とも言われ始めた。
 それをまわりに隠すために、隔離していて、
「伝染病というわけではない」
 と言われたが、では、サナトリウムで死んだ彼は何だったのだ?
 ということになるが、それはあくまで、彼女とは関係のないところで、結核として入院したのではないか?
 と言われたものだ。
 実際には、彼女は結核ではなかった。
 今となって、ご主人の日記が後から出てきたことで分かったことだが、
 彼女の、頭の病は本当だった。ただ、彼女をどうしても隠しておかなければいけない理由として、彼女には、生まれた時に、双子の赤ん坊がいた。当時この村での言い伝えとして、
「双子の姉妹は不吉である」
 と言われていたということであった。
 そのために、本当であれば、一人を殺してしまわなければいけないところを、ここの主人が、あまりにも不憫ということで、蔵の中で、二人を監禁して、たまに表に出るようにしていたという。
 だから、土蔵の中で、表に出ることもなく、監禁できたのだ。
 時代もまだ明治ということもあり、学校に絶対に行かなければいけないわけでもなく、金持ちである主人の財力で、戸籍もごまかした。
 実際に、この村はこの主人が一番の権力者で、逆らえば、この村では生きていけないというほどの、権力者だったのだ。
 それをいいことに、二人で一人を演じていた。
 ミステリーなどでは、
「一人二役」
 などというものがあったり、ホラーなどでは、二重人格者としての、
「ジキルとハイド」
 のような話があったりしたが、日本の明治では、このようなことが平然と行われていたというのは、この村の黒歴史だったようだ。
 ずっと、誰にもバレずにきたようだが、戦争が終わり、土地改革などに、政府や占領軍が乗り出してきて、民主主義を押し付けてきたあたりから、黒歴史を黙っていることはできなくなった。
 しかし、あまりにも衝撃的過ぎることなので、一般には公開されなかった。
「一部の人間だけが知っている」
 というだけのことで、誰もこのことを公開することもなかったが、何やら、変なウワサというところで、広がるのはしょうがないことだったのかも知れない。
作品名:二人の中の三すくみ 作家名:森本晃次