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二人の中の三すくみ

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 下戸というと、昔であれば、結構きつかったのだろうが、今では、そこまでのことはない。
 先輩などから聞いた話では、昔は、
「俺の酒が飲めんのか?」
 と、新入社員歓迎会という、もっともらしい名目だが、実際には、酔い潰すというのが、常套手段なのだろう。
 いわゆる、
「社会人の洗礼」
 というものを浴びせられるというのが、当たり前であり、それを乗り越えて、新入社員は、やっと、会社に入ったことになるとでもいうような、
「いかにも、昭和の理論」
 が展開されていたというではないか。
 そんな時代において、社会人だった人が、今は課長や部長クラス、それだけに、今の時代では、何をどうしていいのか、途方に暮れているともいうのだ。
 何と言っても、その頃から見て、数年前くらいから、
「コンプライアンス」
 という言葉が叫ばれるようになってきた。
 コンプライアンスとは、
「法令遵守」
 という言葉で訳されるようだ。
 要するに、今までの会社における倫理というものが、いかに曖昧だったということなのか。
 まるで、大学の体育会系のように、
「新入生歓迎のコンパでは、先輩の注いだ酒を飲めないなど、失礼千万、社会に出れば、そんなことは許され合い」
 と言って、ある意味、飲ませて酔い潰す理由を、あたかも就職した先の会社のせいにして、酔い潰すのが、
「儀式」
 のようになっているのだ。
 そんな儀式を、
「何たる悪しき伝統なんだ」
 と思ってきた。
 そういえば、昭和から平成に掛けて、会社においてのコンプライアンスという意味で、
「なんて無意味な」
 というのも結構あったものだ。
 このような、新入社員の度胸を試すかのような言い方をしているが、ただの苛めでしかない、
「新入社員歓迎会」
 であったり、同じ新入社員という意味で、
「新入社員が、仕事の時間でも、花見の場所取りに行かせる」
 という伝統も、実にバカバカしいものではなかったか。
 確かに、花見の時期というと、4月の上旬くらいの、新入社員が研修であれ、配属された場所で、まだ、右も左も分からないので、仕事にはならないかも知れないが、だからと言って、仕事時間中に、
「花見の場所取り」
 ということをさせるというのは、どういうことであろうか?
 実にバカバカしいことである。
 そして、新入社員に限らずであるが、よくあるのが、
「サービス残業」
 というものである。
 上司が仕事が終わらないので、帰れない。つまり、
「上司が帰るまで、部下も会社にいなければいけない」
 というものが昭和の頃にはあった。
 平成になってから、バブルが弾けると、
「残業など、経費の無駄だ」
 ということで、
「残業をすることが悪だ」
 ということになった。
 それまではイケイケどんどんで、業務拡大で、仕事は山ほどあったが、バブルが弾けると、仕事はどんどんなくなっていく。リストラなどで、人は辞めていくようになり、残業もしてはいけないということになる。
 それからしばらくすると、経費節減という意味で、
「非正規雇用」
 というものが増えてくる。
 つまりは、バイトやパートが、時間内で今まで正社員がしていた仕事を任せるようになる。
 中には派遣社員などというのが出てきて、それこそ、
「アウトソーシング」
 などという言葉が叫ばれるようになってくる。
 ただ、こうなると、問題なのは、あくまでも、誰にでもできる仕事を派遣社員やパートにやらせて、しかも、残業はしてはいけないということになる。
 だが、その仕事は今まで正社員がやっていて、月末月初や繁忙期などは、
「正社員が、残業をしてこなしていた仕事」
 なのだ。
 ということは、責任のない派遣やパートが、定時までしか仕事をしないのだから、仕事が終わるわけはない。そうなると、残った正社員にすべてしわ寄せがくることになり。それまで残業していなかった人間が残業に追われることになる。
 会社としては、正社員を切って、非正規雇用にせっかくしたのに、正社員が残業をするのでは、本末転倒である。
 そうなると、会社が行うのは、
「残業しても、残業手当を出さない」
 という方法しかなくなってくる。
 かといって、仕事が終わるわけはない。だから残業をしないといけない。
 なぜなら、仕事が終わらなければ、
「社員失格」
 の烙印を押されることになり、優先順位としては、
「仕事を終わらせる」
 ということが、最優先となってくるだろう。
 そうなると、残業手当は棒に振るしかない。
「クビになって、路頭に迷うよりもマシだ」
 ということになる。これも、一種のサービス残業だ・
 これは完全に、労働基準法違反。残って仕事をしているのに、残業手当が出ないのは、誰が考えても、違反なのだ。
 それでも、訴えることはできない。泣き寝入りの状態が続いた。
 だが、それ以外にも、コンプライアンス違反というのが、増えてきた。
 いや、前からあったものだが、それまでは、強く言われることはなかったものとして、
「ハラスメント」
 というものがある。
 実際には、コンプライアンス違反とは厳密には違うものなのかも知れないが、ハラスメントというのを、訳すと、
「嫌がらせ」
「苛め」
 というものになるという。
 前述の酒が飲めない人間に、酒を強引に進めるのは嫌がらせである。それはどんな理由をつけたとしても、通用しないものだ。
 しかも、アルコールというものを受け付けるかどうかというのは、個人差もあり、さらに遺伝性のものも大きい。そういうことになると、これはただの嫌がらせというだけではなく、体質などに関わるものであるということから、人権侵害ということにもなり、これは、一歩間違えれば、憲法違反と言えなくもない。
 もしこれで飲みすぎた人が急変し、死亡してしまうと、飲ませた方が悪いということになるのは、今の時代の考え方である。昔であれば、
「俺の酒が飲めないのか」
 という言葉がよく言われていたが、今では完全に、パワハラと呼ばれるハラスメントになるのだった。
 ハラスメントというと、このパワハラ以外にも、セクハラ、モラハラ、などいろいろ存在する。
 特に問題なのは、
「セクハラ」
 と呼ばれる、セクシャルハラスメントのことであり、
「どこからどこまでがセクハラなのか?」
 ということになると、大きな問題となることだろう。
 そもそも、時代は、男女雇用均等という問題が孕んでいることになる。
 そのために、
「男女平等」
 という言葉が叫ばれるようになり、今までの、女性が上司だなんて、そんなのありえないと呼ばれた昭和の時代とは違い、今では男の世界に女性が進出してくることも多くなった。
 以前であれば、名称に男女で違っていたものが、女性の進出できる仕事のように思われていた。
 スチュワーデス、婦人警官、看護婦などがそのいい例であろう。しかし、今は、男女雇用均等法の観点から、
「男女で言い方が違うのは差別ではないか?」
 などという輩が増えてきたことで、
「キャビンアテンダント、女性警察官、看護師」
 などと、女性差別のないような言い方をするようになったというが、作者は、
「そこまでする必要があるのだろうか?」
作品名:二人の中の三すくみ 作家名:森本晃次