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二人の中の三すくみ

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 会社からだと、車で、30分くらいで到着するだろうか。隣の駅までいけば、そこから先は、住宅街や工場などが広がっていて、都心部の様相を呈してくる。そのあたりから、営業先の会社も増えてきて、K市中心部の駅は、新幹線も止まる駅なのだが、駅前というと、どうも、イメージしていた感じとは違っていた。
 これも先輩に聞いてみると、
「昔はよかったんだよ。大きくはないけど、いろいろなお店があったり、駅も平屋建ての駅舎だったんだけど、この駅は、新幹線が開通する前には、駅の改札口から入った広場のところに、孔雀小屋があったんだよ」
 と言われた。
「孔雀小屋ですか? 今はそんな雰囲気、まったくありませんよ?」
 というと、
「そりゃそうだろうね、昔は、キィキィって、甲高い声で鳴いていたものだよ。駅のマスコットのようなものだったんだよ」
 ということだった。
 そんな話を聞くと、今の駅がどれほど閑散としているか、昔のイメージが想像もつかない。
 今は駅は高層マンションのようになっていて、実際に上の階から最上階までは、マンションのようになっているという。ただ、夜見ると、ほとんど電気がついている様子はない。部屋代が高いのか、とにかく、失敗だったのではないかと思えて仕方がなかった。
 3階部分までは、1階にスーパー、そして、その上は専門店街だったり、飲食街だったりするのだが、夜のディナータイムでも、ほとんど客がいないという、体たらくである。そんな様子を見ていると、
「これなら、陸の孤島と呼ばれた駅の方がまだ情緒という意味ではあるようだ」
 と感じた。
 陸の孤島の駅は、キチンとカラー映像で目に残っているが、このK市中心部の駅は、後から思い出すと、モノクロにしか思えないのだ。
 人が歩いてきても、皆モノクロ、
「最初のイメージというものなのか?」
 と考えたが、逆に考えてみると、最初に見た陸の孤島駅に感じた思いは、
「何だ、この駅は? まるでこの世の果てのような気がする」
 と、最悪のイメージだったはずではないか。
 それなのに、ここまでイメージが変わってしまうのは、人の温かさや、街並みに慣れてきたからなのだろうが、
「もし、K市中心部に事務所があったら、俺は一体、どんな気分にさせられることだろうか?」
 と感じてしまって、想像もつかないに違いない。
「陸の孤島」
 それは、住めば都という言葉を象徴しているのだろうか?
 次第に、そんな街に染まってきている自分が、次第に年齢を重ねてきていることを感じるのだった。

                 コンプライアンスとハラスメント

 不知火が、この街にある営業所に勤務するようになってから、3年目のことだった。だいぶ街にも慣れてきて、仕事も自分のある程度考えているような方向で進めることができるようになっていた。
 その日は数日前からの仕事の延長線上にいて、どちらかというと、仕事がエンドレスという感じであった。
 会社に泊まり込む日もあったが、そう何日も続けられない。泊まり込んだというのも、
「最終電車に間に合わなかった」
 というだけで、さすがに田舎ということもあり、午後10時半には、会社を出ないと、最終に間に合わないくらいだった。
 実際には、F市までは帰れるのだが、そこからまた少し乗り換える必要があるので、それに間に合わない。だったら、会社に泊まった方がマシだという考えだった。
 しかも、帰りつく時間は完全に、日付をまたいでいる。それからシャワーだなんだといっていると、2時近くになる。
「神経が高ぶっているので、眠れるものも、なかなか寝付くことができない」
 ということになると、朝は、6時半には出ないと間に合わないことを思えば、寝る暇などあるはずもなかった。
「それよりは早く帰って、一番早い電車で来るようにすればいいのではないか?」
 ということになる。
 そうなると、一番早い電車で、会社の近くの駅に着くのが、6時半くらいだ。
 だから、どんなに急いでも、7時前くらいなのだが、最終で帰ってから、朝辛い目覚めをするのとどちらがいいか、実際に比べてみたこともあったが、
「佳境に入ってから、日が浅い時であれば、早く帰って始発というのがいいのかも知れないが、長期に渡ると、最終の方がいいような気もしてくる」
 そう考えて、最終までいると、今度は、帰るのが億劫になってくる。それだと、
「会社に泊まる方がいいのか?」
 とも思えてきた。
 正直、2年目くらいまでは、どっちがいいか、迷っていたのだ。
 だが、3年目になると、今度は、
「早朝の方が頭が回るので、早く来る方がいいかも知れない」
 と思うようになり、3年目は早朝出勤が多くなってきた。
 しかし、仕事は自分ひとりでしているわけではなく、プロジェクト体制になると、会議が業務時間内に終わらず、下手をすれば、7時や8時近くになることもある。
 そんな時は、その日のやるべき仕事をこなしていると、すぐに、10時くらいになってしまい、あっという間に最終ということもあった。
 その日も、午後10時半くらいになってきたので、
「お先に」
 と言って、事務所を出た。
 車通勤している連中は、まだまだ宵の口と思っているのか、車で10分くらいの通勤の人は、実に羨ましく思えるのであった。
 いつもと変わらない時間なので、どこか、既視感を感じながら片づけをしていると、気持ちの中で何か違和感があったのだ。
 頭の中は、仕事がキリがついているわけではなく、気色の悪い気分での帰宅になるので、違和感は、そこから湧いて出ているのではないかと思ったが、どうも、そうではないような気がした。
 少し時間が中途半端であった。このまま駅についても、少し電車を待たなければいけなないという思いがあり、駅に近づくにしたがって、寂しく何もないところを通ることになる。
 住宅街があるだけで、コンビニの一つもない駅前は、駅員もいない無人駅である。
「このまま行っても、30分くらい待たなければいけないのであれば、ちょっと遠回りをして、コンビニで何かを買っていこうか?」
 と考えた。
 コンビニに回り込むと、いつもの、駅までの一直線の道ではなく、例の間の交差点から、メイン通りの方に曲がる道から抜けてくることになる。そっちにいくと、コンビニやファミレスがあるので、結構明かりもついているので、人通りも多いことだろう。
 コンビニで、ドリンクと、ちょっとしたつまみのようなものを買った。電車の中に乗っているのが、1時間っくらい。なぜなら、もうこの時間になると、快速はなく、各駅停車でF市まで帰らなければいけない。途中、特急の追い越しなどを考えると、1時間というのは、妥当な線ではないだろうか。
 さすがに、最終ともなり、都心部に向かう電車であれば、ほとんど人が載っているということもない。
 前にも何度か乗った最終電車、一つの車両に、平均して、5人くらいだろうか。下手をすれば、自分だけで、誰も乗ってこないこともある。酒が飲めれば、酒でも飲みながらゆっくり帰ればいいのだが、残念なことに(?)、不知火は下戸だったのだ。
作品名:二人の中の三すくみ 作家名:森本晃次