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二人の中の三すくみ

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 この信号を超えると、事務所までは、5分とかからない。このあたりから、住宅が増えてきて、駅前とは、若干の違いが感じられるようになってきた。住宅街だけではなく、会社や学校。ちょっとした食品工場のようなところもあり、その奥にはスーパーや、コンビニもある。
 信号ができた頃にはファミレスもできたので、昼食には困らないようになってきたのだ。
 このあたりが、実はこの街の中心部であり、駅前は中心部でもなんでもない。ただ、JRの線路がある中で、
「このあたりのどこかに駅を造らないと、さすがに、この間は、駅間が長すぎるのではないか?」
 ということだったのだろう。
 駅から駅の間が、さすがに20分というのはまずいだろう。そういうことで、どうやら、あそこに、
「陸の孤島」
 と呼ばれる駅が出現したようだった。
 営業時間は、朝7時から、夜の7時まで。それ以外の時間は無人駅だった。
「完全に無人駅じゃないだけ、まだマシだといってもいいだろう」
 というほどの駅で、タクシー乗り場はあるが、路線バスも通っていない。
 それどころか、駅前の駐車場も、ほぼ、勝手に使ってもいいというようなところで、それだけ、利用客が学生くらいしかいないということだったのだろうか?
 と思っていたが、朝のラッシュの時間の利用客はそれなりにいるようで、
「なくなってしまっては困る駅」
 だということに間違いはないようだった。
 そんな陸の孤島の駅前に、一軒のスーパーのような店があるが、実はその店に売っているお弁当がおいしいのだった。
 以前、営業で出かけた時、帰りが昼にかかったので、その店の前を車で通りかかったのだが、店頭に結構人が並んでいるのを見て、
「何だろう?」
 と、先輩社員がいうのをいうので、
「寄ってみましょうっか?」
 ということで、寄ってみると、そこはお弁当の直売をしているようだった。
 よく見ると、その店は、スーパーの横に、夜開業している、飲み屋があるようで、その飲み屋が、昼の時間にはお弁当を作っているようだ。惣菜の棚のところに、おかずだけが入ったプラスチックのケースが置いてあり、それをレジに持っていくと、炊飯ジャーから、ホカホカの飯を入れてくれる。
 さらに、お味噌汁もつけてくれて、500円という安さだったのだ。
 おかずも、幕の内のようなものから、空揚げ、とんかつ、魚の煮込みなど、豊富だった。
「なるほど、これだったら、十分に受けますよね?」
 というと、先輩も、
「うんうん、そうだな。こういう弁当は、会社の自分の机の上で食べるなど、もったいない気がしないか?」
 と言われたので、
「ええ、そうですね。確かここを少し行ったところに、湖畔のキレイな公園があるって聞いたことがあるんですが、そっちで食べませんか?」
 と言って、
「うん、そうだな。俺もそれを考えていたところなんだ」
 ということで、さっそく、その公園に行ってみることにした。
 その公園は、なるほど、実に綺麗な公園で、芝生も生えそろっていて、その上で食べるにはちょうどよかった。
 季節はちょうど春の時期、桜が満開になる前の、八部咲きと言ったところだろうか?
 満開の桜も確かに悪くはないのだが、満開ともなると、そろそろ散ってくる時期でもある。
「桜吹雪も含めて、花見は楽しいんだ」
 という人がいて、自分も、
「もっともだ」
 と思っていた不知火だったが、実際に、いつも花見は満開の時期だった。
 だが、
「満開以外の花見もしてみたいな」
 と思っていたのも事実であり、
「満開でなくとも、百パーセントではない美しさを感じることができるはずだ」「
 と思っていた。
 天邪鬼なのかも知れないが、欲張りだともいえるだろう。それを思うと、不知火は、
「おいしいお弁当を食べながら」
 というシチュエーションが、百パーセントに満たないと思われた花見を、百パーセント越えにしてくれるものだという感情を抱いていたのだった。
 それから、先輩と営業に出た時の密かな楽しみの一つとなった。
 しかし、公園で、ゆっくり食事をできる時期は長くは続かない。時期が梅雨になり、梅雨が終わって本格的な夏になると、車から出ることができなくなった。
 それでも、車の中で食べる弁当も悪くはない。そのまま食べた後に、車の中で昼寝をすることも増えたのだ。
「これが、営業に出た時の特権」
 とばかりにゆっくりとしていた。
 そんな時間も結構楽しかったりしたのだった。
 3年目を過ぎると、もうこの街の人間になったような気分になっていた。
 最初の頃に感じた、
「陸の孤島」
 というイメージは、駅にはさすがに残っているが、駅を出て、会社の近くの街の中心部には、そんな感覚はなかったのだった。
 確かに、田舎は田舎でどうしようもないところはあったが、都会にはない、人の温かさを感じられるようになった。
 ある日のことだったが、朝の時間とはいえ、会社に向かう道は、さすがに車は通っても、歩行者はいない。車もそんなにつながるほどの数もいないので、歩道もない道だったが、何とか、車をよけながら歩いていけたのだ。
 そんな時、後ろからやってきたタクシーの運転手が、
「毎日歩いているのをいつも見ていたけど、会社の近くまで載せていってあげよう」
 と言ってくれたのだ。
 どうやら、そのタクシーは深夜営業で、ちょうど、仕事を終えて、会社に帰って、一仕事をした後での帰宅時間がちょうど、不知火が会社までの道を歩いている場面にぶつかるのだという。
「お金はいいよ。どうせ、今は勤務時間外ではあるし、帰る途中だからね」
 と言ってくれた。
「ありがとうございます」
 と、不知火も遠慮はしなかった。
 その代わり、満面の笑みを浮かべることで、お互いの気持ちが通じ合ったようで、初めてこのあたりの人のありがたみが分かったような気がしたのだ。
「こんな田舎まで、どこから来ているんだい?」
 と言われたので、
「F市からなんですよ」
 というと、
「電車でも結構かかるんじゃないかい? 毎朝だと結構大変だよね?」
「そうですね、乗っている間は結構時間が掛かりますね。でも、しいていうと、他の人と通勤パターンが逆なので、ほとんどサラリーマンはおらず、その代わり、学生が多いんですよ。おかげで、座っては来れるんですけどね」
 というと、
「そうなんだ。それはいいことだね」
 と言って話始めるようになった。
 運転手さんは、F市の話をする時は、結構楽しく聞いてくれる。ただ、会社までの時間なので、いつも、5分くらいの時間でしかなく、時間があったとしても、10分まではないので、いつも中途半端に話は終わってしまう。
「できれば、もっとゆっくり話ができるといいな」
 と思ったが、こればっかりはしょうがない。
 ただ、毎日のように乗っけてもらっていると、これほどあたたかな気持ちにさせられることもなかった。そういう意味で、公園での昼食といい、
「田舎というのも、悪くはないな」
 と思うようになったのだ。
 営業も、K市中心部が多い。
作品名:二人の中の三すくみ 作家名:森本晃次