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二人の中の三すくみ

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 まさか、警察も本当に不知火が何かを知っているということに対しての可能性が大きいと思い、ある程度情報を流したところで、不知火が警察に対して安心するとでも思ったのか?
「いや、そんなことが警察では許されるのか?」
 不知火は、いろいろ考えていた。
 三枝という男、不知火とは個人的に知ってはいるが、詳しいことは知らない。ただ、彼が他の誰にも言えないような話を知っていて、だからと言って、彼に何かをしようとかいう考えはなかった。
 それなのに、三枝はいつも怯えていた。秘密が誰かにバレてしまうことが恐ろしかったのか、それとも、その秘密のせいで、自分のこれから得るであろう自由がすでに限定されてしまっているのか、何かに怯えていた。
「ひょっとして、他に知っている人がいて、脅迫を受けているのか?」
 と感じたが、それを問いただす勇気は、不知火にはなかった。
 以前に一度、不知火は、三枝のことを思い、心配になったということもあって、
「何か心配なことがあったら、俺が相談に乗るよ」
 というと、急に逆ギレして、
「相談に乗る? 何、上から目線で言ってくれてるんだよ。相談に乗ってもらったからと言って、お前がすべて解決できるわけじゃないだろう? そんな偽善はよしてくれ。俺はお前の自己満足の道具にはされたくないんだ」
 と言って、目をカッと見開いて、恫喝してくるではないか。
 確かに、三枝には、どこか急に性格が変わることがあった。一種の、
「二重人格性」
 の表れだと思っていたが、本当にそうなのか?
 それとも、それだけなのか? ということを、考えてしまっていた。
 ただ、この恫喝も、わざとという気配もないわけではなかった。それは、
「二度とそのことを口にしないでくれ。思い出したくない」
 という気持ちの表れだとも思った。
 それだけ、彼にとっては大きなトラウマになっているのだろうが、そのトラウマというのも、その時の精神状態によって、いろいろ変わってくるというものだ。
 精神的にショックな状態がピークにあった時に、上から目線で言われると、なるほど、これくらいの恫喝はあるかも知れない。
 それを思うと、不知火も、三枝の気持ちが分からないわけでもない。だが、だからといって、ここまでの恫喝を受けるのは、もう嫌だった。
「あいつがその気なら、もう何も言うまい」
 と心に決めたのだ。
 ただ、もっと言えば、
「そんな面倒臭いやつと、そんな嫌な思いをしてまで、別に知り合いでいる必要などないのではないか?」
 と言われるだろうが、そうもいかない事情があるのも事実だった。
 なぜなら、三枝は、なるみとも知り合いだったのだ。
 三枝は、なるみのことを好きだという感覚もないようだった。だが、なるみの方も、三枝に男としての魅力を感じているわけではないにも関わらず、それよりも、別の感情を持っているようだった。
 その感情というのが、喜怒哀楽のどれなのか、ハッキリとしない。天真爛漫だったなるみが、三枝の前では完全にポーカーフェイスになっていて、感情を表すことをしなかった。それはまるで、感情を押し殺すことが、なるみの三枝に対しての態度だったのだが、それがいつの間にかまわりの人に対しての態度になっていった。
 なるみは、三枝という男を無視しようとしていたにも関わらず、三枝に対しての感情が、まわりの人に対しての感情になり、天真爛漫だった性格が一変したのではないだろうか?
 なるみのことはよく分かっていたつもりだった不知火だったが、三枝の存在を知ったことで、逆になるみという女性の存在が分からなくなっていった。
 不知火は、直接的には三枝という人物のことを知らない。なるみの口から聞いたことがすべてだったが、なるみの口から出た言葉、つまり、三枝のことは、それが三枝のすべてのように思えた。
「ということは、三枝という男は、なるみの前では、すべてを曝け出すのか、それともなるみに限らず、自分のことを相手に分かってもらおうとするような、元々がそんな性格の男だったのだろうか?」
 と思うのだった。
 なるみの口から、三枝の性格を聞くたびに、
「三枝という男、他に性格を持っているとは思えない。いい悪いは別にして、人とは、真正面から向き合う性格で、それだけ曲がったことが嫌いな性格なのかも知れない」
 と感じた。
 この、
「曲がったこと」
 というのが、悪事ということと、イコールかどうかは分からない。
 あくまでも、ただ、曲がったことというだけで、それが、悪いことだという結論は、早急過ぎないだろうか?
 そんなことを考えていると、
「俺は、なるみのいうことを、あまりにも信じすぎるのではないだろうか?」
 と思うようになっていた。
 それは、俺がなるみのことを好きだから、なるみのいうことをすべて信じようという、恋愛感情の行き過ぎによるものなのか。
 それとも、なるみから、洗脳のようなものを受けていて、自分でも気づかないうちに、なるみだけではなく、人から洗脳を受けやすい性格になっているのではないか?
 という、両極端な思いが頭を巡っていた。
 確かにどちらもありそうな気がする。
「どちらか一つだ」
 と言って、どちらかだけに限定してしまうことはできないような気がする。
 しかし、どちらかというと、最近では後者の方が強い気がする。
 自分が、どこか、誰かから洗脳を受けているような感覚になったのは、今が初めてのことではなかった。
 何がそんなに自分の中で、洗脳を受けたと感じさせるのか? しいていえば、
「何かの思い込みが大きくなった」
 というところから、一足飛びに、
「洗脳を受けている」
 という感覚になったようだ。
 わらしべ長者の話のように、一歩一歩変化していくものを把握できていれば、洗脳などとは思わないのだろうが、いきなり何かにひらめくことが多くなった。それこそ、誰かに洗脳されている証拠ではないだろうか。
 それも、一人だけではない。何人にもである。
 普通なら考えられないが、自分が多重人格のようにいくつもの引き出しを持っているとすれば、そこに接触した考えが、その思いを成就しようとして、触発されてしまうのかも知れない。
 そういう意味で、
「曲がったことが嫌いだ」
 という、なるみによる三枝の評価に対して、やはり信じてはいたのだが、直接知り合いではないだけに、妄想しか湧いてこない。
 もうすぐここにやってきて、なるみはどういう話をするというのだろう?
 不知火には、なるみをどこまで信じればいいのか、ここから見極める必要があるような気がするのだった。

                 大団円

 なるみがやってきた。何を語るというのか、不知火には気になるところであった。
「不知火さん、あなたがどこまでご存じなのか分からないけど、実は私には、あなたにも言えないことがあって、それが、三枝さんとも絡んでくることになるんだけど、どこまであなたが理解できるか、私には分かりません」
 と、最初に、完全に釘を刺してきたというのか、なるみの方も、どこまで話をしていいものなのか、思い悩んでいるのかも知れない。
作品名:二人の中の三すくみ 作家名:森本晃次