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二人の中の三すくみ

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 ということに間違いはないだろう。
 ただまさか、たったの数時間で見つかってしまうというのは、予定外だったかも知れない。しかも、被害者と面識はないが、まったく関係のないというわけではない人間が発見すると、犯人はもくろんでいたわけではないはずだ。
 何しろ、普段はあんな場所から帰る人間ではなかったはずなので、ひょっとすると、
「不知火を意識はしていたが、まさか、彼が死体の第一発見者になるなど、思ってもいなかった」
 ということなのかも知れない。
 そう思うと、第一発見者になったというのは、犯人にとって誤算であり、それは嬉しい誤算ではなく、下手をすると計画が狂ってくるかも知れない発見だったのかも知れない。
 もし、そう思っているのだとすれば、犯人にとって、不知火の存在が知られることは計算していたのだろうが、第一発見者になることで、不都合があったとも考えられる。
 それはあくまでも、犯人が不知火の知っている相手であるという前提となるのであるが……。
 警察は、不知火が松下のことを知らないというと、意外とあっさりと帰っていった。
 あまり話をすると、警察の捜査上の話を余計なこととして話してしまうのを嫌ったともいえるのだが、実はこの刑事は、民間に少し話していいと思われる情報を話すことで、警察に対しての安心感を与え、相手から、警察が話す以上の情報を得るということが実に得意な人であった。
 本来なら、そんな捜査は、タブーなのだが、警察の法規の中にはそこまで規定しているわけではない。
 ある意味、彼の武器と言ってもいいのだが、今回のように、何も得られないと思うと、すぐに引き下がるのも特徴だった。
 だが、逆に、相手を泳がせるということをすることもある。
「前の時にはあんなに話してくれたのに」
 と相手に感じさせ、次回があまりにもあっさりしていることで、警察は自分を疑っていないということを逆に思わせ、緊張をほぐすというやり方だ。
 それが、次回への伏線であるということを知る由もない相手は、すっかり刑事の術中にはまるというような無茶な捜査をする刑事であったのだ。
 さて、警察が帰ってから、不知火はなるみに連絡を入れた。
「会いたいんだけど、会えるかな?」
 というと、なるみは、言葉が詰まってしまったようだが、
「松下という男が殺されたんだけど、実はその死体の第一発見者になったとは、この俺なんだよね」
 というと、電話の向こうで、なるみが息を呑んだのが、ハッキリと分かった気がした。
「ええ、分かったわ。じゃあ、場所と時間を指定して」
 と言われたので、不知火が指定すると、
「ええ、分かったわ。じゃあ、その時」
 と言って電話を切った。
 その時、なるみの覚悟のようなものを、不知火は感じた気がした。何も不知火はなるみを脅迫したわけでもないのに、なるみの覚悟は何だというのだろうか? 少なくとも不知火には分かっている気がするのだが、気持ちの中で半分、自分が感じていることを否定したい気持ちがあった。
 つまり、まだ、不知火の中で確固たる確証はないのだった。
 確証はないのだから、何も無理して確かめなくてもいいはずなのに、不知火は無視できないところがあったのだ。
「きっと、なるみは、何事もなかったように現れるだろうか?」
 と感じた。
 それがなるみの性格であり、何事もないかのようなその態度が、なるみの特徴でもあった。
 元々の天真爛漫さが出てくるというのか、隠していた感情が隠しきれなくなる瞬間があるというのか、なるみの性格は、今の不知火からすれば、
「これ以上分かりやすい人はいない」
 と思うほどだったのだ。
 なるみと、白石、そして、殺された松下との四人の関係の中に、実はもう一人の人物が存在するのだが、その人物を語らずして、この問題に当たるのは、大きな間違いだった。
 ただ、なるみも、不知火も、本当はその人物をこの場に登場させたくはないと思っている。
「三すくみにおける、大蛇丸、自来也、綱手姫の関係のようで、入れ墨のタブーを思い起こさせるものだ」
 と言っていいのではないだろうか。
 つまりは、一人の身体の中に、
「三人の彫りを入れることは、お互いに拘束し合うことになり、彫られた身体の人間を、絞殺してしまうことになる」
 ということである。
 それが分かっているので、
「彫り師のタブーと言われていることは絶対にしない」
 という内容のミステリーがあったのを読んだことがあったのだ。
 つまりは、
「タブーを犯してはいけないのに、犯してしまったと言われる写真や身体が存在する」
 ということで、
「実は、タブーは犯していないということが、この事件のトリックの解明の最短距離だったのだ」
 という内奥だったのを思い出した。
 考えてみれば、トリックというのは、ありえないことをあたかもあり得るように仕向けるのがトリックである。だとすると、ありえないことを、まずはありえないとして、そこから逆に判断する方が、トリックとしては、解明するのは難しくはないだろう。
 例えばアリバイトリックなどで、凶器が、犯行時刻には絶対に、開けることのできない金庫の中にあったのだとして、凶器には血がついていて、その血が被害者のものだと一致したとすれば、凶器はそれで間違いない。そうなると、犯行時刻も間違っていないのだとすれば、
「証言した人間がウソをついている」
 あるいは、ベタではあるが、
「時計が狂っていた」
 などという、一番崩しやすいところに特化した捜査をするというのが鉄則なのかも知れない。
 探偵が出てくるから、奇抜なトリックとその解明だと思われるが、案外、セオリーに則った推理をするのが、探偵の方なのかも知れない。
「完全犯罪は難しい」
 と言われるのは、それだけ、捜査がセオリーに則って行った方が、解決の最短距離にあるのだといえるのではないだろうか?
 なるみがやってくるまでに、それほど時間が掛かるわけではなかった。そして、その時、なるみから、ある恐ろしい話を聞いたのだが、その話の前に、もう一つ、警察から聞いていた話をここで披露することにしよう。
 その時までは、この話がクローズアップされることはなく、ただの、
「警察による捜査経過の一環」
 というだけだと思っていた。
 要するに、問題は、ここでもう一人の人物が登場するということだったのだ。その男の名前は三枝という。
 三枝は、松下の借金の肩代わりをした白石と知り合いだったという。ただ、この三枝は、白石から脅迫されていたというのだ。何に対しての脅迫だったかは分からないが、ちょうど、松下が殺されたその日から、行方不明になっているという。
 警察側では、捜査を進めているのだが、一向に見つからない。何かを知っている可能性もあるが、今のところ、事件とのかかわりはハッキリとしない、なぜなら、松下との関係性が分からないからだった。
 三枝という男について、とにかく情報が欲しいのか、不知火にまで聞いてくるというのは実にすごいことで、
「よくも、ここまで警察が話をしてくれるものだ」
 と感心したほどだった。
作品名:二人の中の三すくみ 作家名:森本晃次