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二人の中の三すくみ

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 だが、なるみという女性が、思った以上に気丈であるということも、一緒にいる時間に比例して分かってくるようになり、すぐに、
「この考えは間違っていない」
 という確信まで得られるようになった。
 それは、他人事のように見ている自分が、なるみがまわりを見る目とでは違っているのだが、それこそ、
「交わることのない平行線」
 であり、近づこうとすると、相手が自然と離れていく、まるで、
「磁石の同極のようなものではないか?」
 と感じるようになったのだ。
 本当は、彼女の扉を開くことを目指して、一緒に苦しんであげようとまで思ってしかるべきなくらい、彼女のことを好きになっているのだが、下手に扉を開いて、その扉が、本人を巻き込んで、吸い込んでしまうブラックホールのようなものであったとすれば、それは、
「後悔してもしきれない後悔だ」
 と、言えるのではないだろうか?
 なるみに自分の気持ちを打ち明けられないのは、
「自分に自信がないからだ」
 と思っていたが、果たしてそうなのだろうか?
 確かに途中から雰囲気が変わり、変わった瞬間は、
「こんなヤバイ女性と一緒にいると、自分がおかしくなる」
 と思ったのだが、その感覚が、あっという間にマヒしていったのだ。
 何かに包まれているような感覚が、なるみから醸し出されているものだとは思わなかった。
「君はなるみのどこが好きなんだ?」
 と、聞く人はいないが、もし聞かれたとすれば、
「垂れ目なところ」
 と答えるかも知れない。
「ふざけてるのか?」
 と言われるかも知れないが、真剣であった。
 人の顔で性格を判断し、そして、その判断した性格で好き嫌いを判断するのが、不知火のやり方だった。
 だが、その不知火の考え方は、自分の中で、
「俺、オリジナルな考えだ」
 と思っていたが、実際にはどうではない、
 どこにでもあるような、ベタな考えなのであった。
 不知火はいつも、いや、絶えずと言ってもいいかも知れないが、
「人と同じでは嫌なのだ」
 と思っている。
 だから、人と違うと自分で思っていれば、それが、どんなにポピュラーなものでも、自分オリジナルだと思うのだ。妥協していると言われるかも知れないが、妥協もある意味、個性といえるのではないか。なぜなら、妥協も個性も、
「人それぞれ」
 なのだからである。
 妥協を悪くいう人もいるが、決してそうは思わない。妥協もなく、すべてを自分の考えで押し通そうとする人は、結局は、他の人と同じでは嫌だから、自分を押し殺してでも、自分を貫こうとしていることに気づかないのだ。
 そのことをどこまで分かっているのか? それを考えると、なるみと一緒にいて、
「自分が妥協できる数少ない女性だ」
 と思うことで、なるみを好きになった理由の一つがそこにあるのだと、自分を納得させることができるのだ。
 なるみは、今都心部の会社で働いている。バリバリのキャリアウーマンということで、まわりの男性を受け付けないほどのオーラを保っているという。
 しかし、中にはそんな彼女を慕っているような男性がいた。彼は、なるみを慕っていた。まるで男女の立場が逆になったかのようだが、そんな関係だってありなのが、今の世の中だ。
「なるみが、女王様で、男が奴隷である」
 という、主従関係。
 いわゆる、
「SMの関係に見えるのは、相手の男があまりにもMっけがあり、なるみの性格を覆い隠すだけのものがあるからだ」
 といえるのではないか。
 だから、実際にはまわりからは、すぐには悟られない。悟る人間がいるとすれば、それは、真正のサド体質なのではないだろうか?
 なるみの会社には、そんな、M体質の男性も、Sの男性も両方いるようだった。
 なるみのことを見ている二人の目はまったく違うものなので、まわりからは、分かりかねているようだが、なるみからすれば、二人の視線を痛いほどに感じられた。
 そのうちに、なるみの方がその視線に耐えられなくなり、どちらに対しても、ゆっくりと近づいていく。
 その距離感は絶妙で、両者ともに、
「つかず離れずの距離」
 を保っていた。
 二人とも、その距離感に酔っているようで、三人がまるで、三すくみのように見えるのだが、三人三様でもあるのだ。それを三人がそれぞれに感じているようで。この思いを誰が証明するというのだろうか? そんなものは必要はないように思えるのだった。

                 もう一人の人物

 翌日になると、警察が訪ねてきた。案の定というか、分かってはいたが、会社では、
「何があったんだ?」
 という目で見られたのは、さすがにきつかった。
 それでも、殺人事件があったのは皆知っていたし、自分のこんな身近に第一発見者がいるなどということを知ると、好機の目を寄せてくるのだった。本当は、そんな煩わしいのは好きではないが、変な目を向けられるよりはマシだったので、何とか愛想笑いをして、ごまかしていた。
 警察はやってきて、まず最初に言われたのは、
「被害者の身元が割れました」
 ということであった。
 そのうえで、被害者を知っているかということが聞きたかったようだ。
 被害者というのは、松下という男で、K市に住んでいる男だという。松下という男、実は全く知らないわけではなかったが、とりあえず、
「いいえ、知りません」
 と答えておいた。
 別に親しくもないし、しかも、直接関係があるわけではなく、人を介して、しかも、ほんの少し知っているだけだった。だから、もし警察が綿密に調べて、
「まったく関係ないわけではないようですね?」
 と言ってきたとしても、
「ああ、あの人ですか? 私とは直接友達でもないし」
 というように話をすれば、いいだろうと思っていたのだ。
 それよりも最初から正直に話して、変に思われるよりもよほどいいと思うようになったのだ。
 だが、警察がわざわざ素性が分かったからと言ってやってきて、名前を言ったうえで、
「知っていますか?」
 と言ってきたということは、少なからず疑っていないとも限らないということだろう。
 ただ、警察のいう死亡推定時刻のアリバイは、K市に営業に出かけていたことで、相手先の人が証言してくれるはずなので、間違いはないだろう。だから、犯人として疑っているわけではなく、もし知っている相手であれば、そこから少しでも事情が聴ければいいというくらいなのかも知れない。
 それだけ警察も、いろいろな可能性を考えているということだろうか?
 ところで、この松下という男、知っているといっても、実は面識があるわけではない。
 自分の数少ない知り合いの中に白石というやつがいるのだが、彼は以前、自分の店を持っていて、その店が破綻したことで、借金を抱えてしまったのだ。その借金を少し肩代わりしてくれたのが、松下だったという。そういう意味では、白石は松下に頭が上がらない。
 もし、ここで、松下という人間を知っているといえば、白石のことを話さないといけなくなるが、もしそれを話してしまうと、真っ先に疑われるのは、白石だろう。
 それは避けなければならなかった。
 ただ、一つ気になっていたのは、いくら白石が苦しいからと言って、
作品名:二人の中の三すくみ 作家名:森本晃次