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二人の中の三すくみ

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 冷静に、事故現場と状況を電話で説明している。それを聞いているうちにまわりの空気が次第に晴れていくようで、ショックで動けなかった人も、野次馬が騒いでいる様子に、少しずつ意識を取り戻してきたようだ。
 運転手は、車を安全なところに寄せて、事故で倒れている人に声をかけている。
 しかし、反応はないようだった。
 明らかに、意識を失っていて、返事もなければ、微動だにする様子もない。少しずつその現場に近づいていった不知火少年は、ある地点までくると、もう近づくことができなくなったのだ。
 その時に、金属製の独特の臭いがした。
「何だ、この臭いは?」
 と感じたが、
「この臭い、初めて感じたわけではない」
 と思ったのだ。
 それを思い出すまでに少し時間が掛かったのは、かなり前の記憶を呼び起こす必要があったからだ。
 その記憶というのは、あれは、まだ幼稚園だったか、小学校に入学している時だったか、思い出せないが、いわゆる、
「物心がつくようになった時期」
 から、そんなに経っていたい時期だったように思えた。
 あの時は、確か友達の家に遊びに行った時のことで、その友達の家はかなり大きな家だったような気がした。
 子供心にも、家の前にある倉庫のようなところに、車が三台並んでいて、
「うわあ、すごいな。お金持ちなんだ」
 と感じたのを覚えている。その横には、トラクターのようなものもあり、トラクターの方が珍しいだけに、高級車なんだと感じるくらいになっていた。
 ただ、その倉庫の中は、舗装もされていないところで、砂ぼこりが待っているくらいに見えたのだ。
 そんな倉庫の中には、中二階のようなところがあり、いわゆる、
「天井裏」
 に近いものがあった。
 それを昇っていくには、横に階段がついているのだが、その階段が、想像以上に急であるのを感じていた。
 それを友達は、難なく上っていく。不知火少年も、その様子を見て、
「俺にだって、簡単に登れるはずだ」
 と思ったことで、急いで登っていくと、途中でバランスを崩したのだろう。
「あっ」
 と言った瞬間、急にまるでわさびを丸ごと食べた時に、鼻がツンとしてしまったかのような、一種の呼吸困難に陥り、意識が朦朧としてきたのだ。
「このままだと後ろにひっくり返る」
 という意識があり、
「何とか前の取っ手に捕まらなければ」
 と思ったのだが、時すでに遅かった。
 そのまま、背中から落っこちてしまうのを何とか防ごうとして、肘を無意識に出したのだろう。そのまま肘を思い切りすりむく形になった。
 だが、すりむくだけならよかったのだが、明らかにまともに肘を打ったのだ。最初は階段でまともにうち、そのまま下の砂の部分をこすりつけてしまった。
 血が噴き出して、シャワーのようになっていたのかも知れない。
 その時、声が出たのかどうかは分からないが、上まで登り切った友達が急いで降りてきて、親を呼ぶことで、救急車騒ぎになったようだ。
 だが、思ったよりもひどいことにならなかったのは、頭を打ったわけではなく、あくまでも、肘だけにケガが限定されたからだっただろう。
 しかし、その肘のケガはかなりひどいものだったようだ。
 まるで傷口は沼のようになっているのを、自分でも確認し、その痛みが完全に、マヒしてしまうほどのひどさだった。
 沼になっていたことで分からなかったが、どうやら、傷口は、骨が見えていたようで、そのまま不知火少年は意識を失い、病院で外科手術を受けることになり、数日入院しなければいけなかったくらいだ。
 医者がいうのは、
「奇跡的に」
 という言葉が多かったほど、頭を打っていなかったということや、患部が一か所だったということがどれほどよかったのかということを、証明しているかのようだった。
 だが、病院のベッドで、麻酔から覚めていくにしたがって、自分の鼻に残ってしまった金属のような異様な臭いが、次第に意識の中で同化しているようだった。その時に、条件反射で、
「鉄の臭いは血の臭い」
 と思うようになり、けがをしかかった時、その寸前で予知能力が働くのか、鼻がツンとしてきて、血の臭いを思い起こさせるのだった。
 それは、別に血が出る出ないにかかわらずであった。
 ケガの瞬間、いや、その直前に、血の臭いが自分の中でよみがえってきて、それが、さらに遠い記憶を忘却の彼方にしようと、記憶が戻ってくるのは、一瞬だったのだ。
 その臭いは、金属の臭いだけではなく、何か酸味を帯びた酸っぱさを感じるのだった。その臭いの正体をずっと分からないでいたが、中学時代の交通事故を目撃したその時に、曲がりなりにも分かった気がしたのだ。
 それは、逆に、その時、つまり交通事故の現場にて、
「その酸っぱい臭いを感じなかった」
 ということからだったのだ。
 その時に、
「かつて、嗅いだことのあるこの臭いは、いつどこで?」
 ということを考えていると、その思いが、子供の頃の忘却の彼方にあることを、思い出したのだ。
 それだけ古いことだから、逆に、
「今でないと思い出せなかったかも知れない」
 という思いがあった。
 つまり、その感覚があまりにも昔にあったことで、同じような状況になったその時でないと思い出せなかったのだろう。
 そして目を瞑ると、子供の頃のケガをした瞬間が、まるでコマ送りをしているかのような感覚で思い出されるのであった。
「一体、あの時って、どういう状況だったのだろう?」
 と感じながら思いだしていくと、その時と、今との違いは、臭いの中で、酸味を帯びた臭いを感じないということだということに気が付いた。
 目を瞑って浮かんでくる光景。それは納屋のような倉庫で足元のバランスを崩してひっくり返った時のこと。その時に思っていたのは、
「こんな古いところ」
 という思いだった。
 臭いの酸っぱさは、何もケガをした時に感じたものではなかった。
 最初から臭いを感じていたのを思い出したのだ。
 その臭い玄以がどこにあるのか、それは、木造だったということだ。
 新築の家に感じる、酸っぱいようなあの臭いは、木造家屋の独特な臭いで、自分は嫌いではなかったはずだ。
 むしろ、新築のあの臭いを、
「懐かしい」
 と思うことで、新鮮な気持ちにさえなっていたほどだった。
 その思いが酸っぱさを醸し出すことで、子供の頃と交通事故で感じた臭いとが違うことを感じた。
 その時に思ったのは、
「血の臭いって、別に酸っぱさを感じさせないんだ」
 と感じたのだが、よく考えればそれも微妙に違っているのを感じた。
 血の臭いのどちらがきつかったのかというと、明らかに子供の時の臭いだった。
 あれを血の臭いだと思ってずっと来ていたので、中学時代の交通事故で感じたあの臭いは、
「血の臭いではないのか?」
 と思ったほどだったが、それは、どうやら違ったようだった。
 つまり今から思えば、中学時代の血の臭いが微妙に違ったのは、
「自分の血ではなかったからだ」
 ということである。
 自分が出した血と、他人の血では臭いが違うのは当たり前ではないかと思うのだ。
 その証拠といえるのが、
作品名:二人の中の三すくみ 作家名:森本晃次