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マイナスの相乗効果

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 そうなると、会社というのは冷たいもので、部下から、
「パワハラ上司」
 というレッテルを貼られたことで、上司はそれ以外の功績をすべて封印し、彼を、
「コンプライアンス違反」
 と認定し、何かしらの処分を科すことになる。
 どこかに左遷されるか、そのままいわゆる、
「窓際族」
 となり、
「肩たたき予備軍」
 として、会社で完全に干される形で、最悪の、
「飼い殺し」
 という状態にされかねない。
 それほど今の世の中は、
「部下に仕事を振っただけで、パワハラ扱いされる時代になった」
 といえるかも知れない。
 そんな時代を、奥さんは思い浮かべていたが、実は刑事の頭の中には、絶えずあると言ってもいい。もちろんそれは、自分のことではなく、犯罪捜査においてのことで、動機が何かということを考えた時、怨恨だったりが、考えられる時、このコンプライアンス違反や、プライバシーの侵害などということが、犯罪に絡んでいることも少なくないからだった。
 奥さんが警察がそこまで考えて捜査をしているかどうか、正直分からなかった。ハッキリいうと、
「ほとんど考えていない」
 と言った方がいいかも知れない。
 普通であれば、警察という組織自体が、コンプライアンスであったり、個人情報の保護を一番率先して守り、さらに、捜査においても、理念やモラルという意味でも一番遵守しなければいけないところだと思うのだろうが、警察という組織にそこまで期待もしていなければ、さらには、失望しかないという思いも抱いている。
 その理由には、テレビドラマの影響もあるだろう。
 主婦というと、昼の2時間サスペンスの再放送などを見ている印象があるが、この奥さんも、パートはしているが、毎日というわけではなく、週に、2、3回の休みがあるので、その時に、よくサスペンスを見ていた。その影響もあってか、警察組織の、典型的な縦割りであったり、管轄と呼ばれる縄張り意識。縦割りなどでは、キャリアやノンキャリアの明らかに差別にしか見えない待遇の違いや命令に絶対で逆らうことのできないという体制、そんなものを見せられると、
「完全にパワハラの巣窟ではないか?」
 と感じさせられるのだ。
 そういう意味で、近所の奥さんと話をした時など、
「あんな警察にだったら、何かあった時、協力なんかしたくないわよね。下手に警察に協力して、そのせいで、近所の人から恨まれるようなことにでもなったら、誰が責任を取ってくれるというのよ」
 と言って、相当にご立腹だった。
 その意見には、この奥さんも賛成で、
「そうよね。変に死体の発見者になったり、事件の関係者になんかなりたくないわよね」
 という舌の根も乾かぬうちに、このような事件に遭遇するとは、これって、本当にただの偶然なのかと疑ってみたくなるものだった。
「ところで、立ち入ったことをお伺いいたしますが、お隣の今里さんのことで、何かご存じのことはありますか?」
 と刑事に言われて、
「そら、来た」
 と思ったが、刑事の言い方が、気を遣っているからなのか、かなり曖昧な言い方だったので、聞き直したのだ。
「それはどういった種類の?」
「たとえば、時々お話をするとか、お隣によく客が来ているとかですね。分かる範囲で結構です。客観的に見た意見でも構いません」
 と、かなり、遠慮していて、言葉を選んでいるのが分かった。
 そのせいでぎこちない質問になっていることに、思わず吹き出しそうになりながら、
「いいえ、私は何も知りません。私自身、近所づきあい自体好きではないし、特に、掃除を始めたきっかけを考えると、私が近所づきあいが嫌いになるわけは分かるでしょう?」
 と少し立腹したように言った。
 もちろん、刑事も先ほどの話でそのことは重々分かっているからこそ、このような歯に物が挟まったかのような言い方になったのが分かったのだ。
 それでも、警察というものに信用をおけないと思うことで、余計なことを言わないまでも、今までの不満や鬱憤を、この時とばかりにぶつけてやろうというくらいの思いはあったのだった。
「警察って、本当に信用できない」
 と思っている。
 それを考えると、これ以上の話は時間の無駄だ」
 と思うようになってきた。
「警察なんだから、何も知らない私にかまっている暇があったら、もっと他にすることがあるでしょう?」
 という思いが顔に出ていたのかどうか分からないが、
「とにかく、私は何も知りません」
 と、追い打ちとして、ダメ押しの一言を浴びせると、刑事は、何かホッとしたかに見えるような表情で、
「ありがとうございました」
 と言って、簡単に引き下がった。
 今のお礼は、思わせぶりな態度で、いたずらに時間を費やす相手ではなかったということでの安心ではないだろうか。主婦とすれば、それ以上でもそれ以下でもないとしか思えなかった。
 第一発見者の話を聞いてみたが、そこでハッキリとした証言を得ることはできなかった。だが、この現状を見る限り、おかしな部分、他の犯罪ではなかなかないような特殊なところなどが浮き彫りになったのも、第一発見者の証言があったからであろう。
 一つ目としては、
「玄関が開けっ放しであった」
 ということである。
 そのおかげで、第一発見者によれば、
「あの時間は、一つ置きにしか電灯がついていないので、ちょうど、事件があった部屋の前は暗いんです。でも、扉が開いていて、中の電灯がついていたことで、すぐに何かおかしいということが分かったんです」
 ということであった。
 もし、犯人が死体発見に時間を考えていたとすれば、隣の奥さんがあの時間に掃除をしていることを知っているのかいないのか、それによって状況が少し変わってくるであろう。知っていたとするならば、犯人は明らかに、奥さんに死体を発見させようとして、わざわざ明かりをつけっぱなしにしていたのだろう。奥さんがいうには、
「自分が掃除をしていることを誰かが知っているかいないかは正直意識はないですが、知っている人がいたとしても、別に隠しているわけではないので、誰が知っていたとしても、そこに不思議はないです」
 と言っていた。
 それを思うと、
「確かに、第一発見者を奥さんにしたいのが目的なのか、発見時間をあの時間にしたかったのかのどちらかではないか?」
 と思えるのだった。
 ただ、奥さんを第一発見者に仕立てたかったということであれば、あまりにも奥さんが、被害者の情報を知らないといってもいいだろう。
 知っていることといえば、一人暮らしであるということと、あまり訪問者もおらず、どちらかというと、あまり部屋にいる方ではないということだった。どこかに出かけている時間が多いということだろう。
 さらに奥さんの話では、
「私が掃除を始めたきっかけになった、ごみを捨てるという嫌がらせに関して、どうもあの人ではないような気がします。なぜなら、ごみがあった時期は一時期、毎日だったのですけど、その間、朝、旅行カバンを持って出かけることが多かったので、出張なのだろうと思っていたんですよ。だから、犯人はあの人である可能性は限りなく低いと思っていました」
 というのだった。
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次