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マイナスの相乗効果

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「証拠がないんですよね?」
 と言われて、結局、何もしてくれないということが分かっただけで終わってしまった。
「マンションの管理会社なんて、結局親方日の丸と一緒よね」
 と、まるで警察のように、何か大きな問題が発生しない限り、単独での苦情くらいであれば、まったく問題がないということで、簡単に無視されるのであった。
 そのことが分かってくると、下手に苦情を言って、それが隣に漏れでもしたら、直接いうのと同じか、あるいは、直接いうよりもさらに、
「密告をした」
 という見られ方をすることで、余計に険悪なムードになるということが分かったからだ。
 本当は、動かぬ証拠をつかんで、管理会社に言いに行くということも考えたが、長い目でみれば、
「管理会社が動いて、何かをしてくれたとして、自分の利益になるのだろうか?」
 ということである。
 ひょっとすると、犯人と思しき人は、マンションの他の住人を味方にでもつけていれば、その犯人を敵に回すことで、自分が孤立してしまい、四面楚歌に陥ってしまうということになりかねない。
 管理会社としては、いったんの解決を見ているのだから、逆恨みをされたといって言いに行っても、そこまでは、管理会社が関知しないと言われてしまえば、本当の意味での四面楚歌に陥ってしまう。
 そうなると、残された道は、その部屋から退去するしかないだろう。管理会社に話をしても、
「どうしても嫌だというのであれば、あなたが、退去されるしかないでしょうね?」
 ということを言われ、最後通牒を突き付けられることになりかねない。
 そうなってしまってからでは何を言っても、
「負け犬の遠吠え」
 でしかないだろう。
 これはあくまでも、最悪のシナリオであるが、ありえないことではない。何事も最悪を考えてしまうというところがある奥さんとしては、これだけは避けなければいけない。
 となると、どこで身を引くかというタイミングを自分の中でしっかり持っていないといけない。
 引き際を間違えると、自分の中にストレスを残してしまうか、それとも、前述のような四面楚歌をもたらすかのどちらかにしかならない。
「末路は悲惨だ」
 ということである。
 それを考えていると、なるべく、顔を合わさないようにして、心の中で妄想し、相手がいかに、
「天罰を受けるか」
 ということを、自分が楽しめることで、自己満足するしかないだろう。
 それを深く考えると、自己嫌悪に陥ってしまうので、そんなことがないように、仕方なくではあるが、相手と関わらないことをいかに考えるかが重要なのであった。
 その日の掃除も、予定通り、朝の5時から行った。当然まわりは真っ暗で、通路も、半分、天井からの明かりがついているだけなので、すべての場所が明るいというわけではない。まだまだ早朝の5時というと、深夜という感覚に近いのであろう。
 なるべく、音を立てないように表に出て、掃除を始めた。どうしても、中腰になるので、長い間は耐えられない。これから一日が始まるという段階で、最初の行事から、腰がピークな状態になるというのは、実に危険なことだった。
 そのため、掃除のタイムリミットは5分ということを決めていた。
 その日も、5分を目指して掃除を初めた、幸いなことに、半分の明かりしかないが、その主婦の玄関先の通路は普通に明るかった。そのおかげで、ごみがあればよく分かり、掃除もスムーズに行うことができた。
「今日も、予定通りに掃除ができそうだわ」
 と思いながら、掃除を続けていたが、さすがにずっと下ばかり見ていると、首も痛くなってくるので、時々、顔を上げて、首を少し振るようにしていた。
 最初の時には気づかなかったのだが、首を振るという定期行動の3回目に、ちょうど、隣の部屋の入り口が見えたのだ。
 そこは、自分の家の前が明るいのとは対照的に、いつも暗くなっている場所だったのだが、よく見るとその暗さのおかげか、あるいはそのせいかということであるが、扉から、明かりが漏れているのを感じた。
 その奇妙な現象に、思わず目を奪われてしまって、一瞬、思考停止でもしたかのように感じたが、もっとよく見ると、扉が開いていて、そこから明かりが見えているのを確認することができたのだ。
 そこで、
「なんだぁ。扉が開いていただけか」
 ということで、ホッとしたのだったが、次の瞬間には、別の意味で、気持ち悪さがこみあげてきたのだ。
「まさか、ずっと見られていたのだろうか?」
 と感じたが、それにしては、扉が閉じる気配を一向に感じない。
 相手だって、こちらが気づいたということが分かれば、少しずつでも、扉を閉めようとするはずである。一歩間違えれば、扉の陰から覗いている目と視線がぶつかってしまうという可能性だって無きにしも非ずと言ったところであろうか。
 そんな様子がまったくないことで、
「見られているわけではないんだ」
 と思い、本来ならホッとするはずなのだろうが、
「いや、だとしたら」
 ということで、今度は違う疑念が浮かんでくるのだった。
 それがどういうことなのかというと、
「最初からそこは開いていて、そのことに気づかなかったということだろうか?」
 ということで、気づかなかった自分に、そして、そもそも開いているのかという一番最初に感じるべき疑問の両方が一気に襲い掛かってきたのであった。
 怖いのはしょうがないとして、一番の後悔は、
「確かめないまま、戻る」
 ということであろう。
 何もなければそれに越したことはないのだが、この状況を考えて、何もないということは考えられないと、早い段階から覚悟をしていた。
 この奥さんは、普段は臆病なのだが、覚悟を決めなければいけない時などは、結構早く開き直ることができるということから、疑念を感じると、極端に行動力が出てくるという、知らない人から見れば、
「天邪鬼なのではないか?」
 と思われるようなところがあるのだった。
 度胸を決めて、ゆっくりと中腰のまま、覗き込むように近づいていった。本来であれば、立ち上がった方がよほど楽だし、早く確認できるのだが、いくら開き直ったとはいえ、一気に見てしまうには、そこまでの度胸はない。そもそもが臆病者にできているからであった。
 だから、中腰になってゆっくり近づくことで、次第に度胸が出てきて、辿り着いた時には、度胸が覚悟に追いついてくれているのだ。
 そうなると、迷いもなく中を覗き込むことができるのだが、中を覗き込んでみると、そこにこちらを見ている目は存在しなかった。
 ただ、入り口が空いていて、それを、ドアロックで抑えているだけだった。普通はチェーンのようなものがドアロックなのだが、ここは、U字型になった金属がドア特区になっていて、U字の先端部分をひっかけるところに置くことで、扉が閉まらないようになっていた。このマンションは部屋がオートロックになっているので、カギがなくとも、表からはロックがかかってしまい、入れなくなる仕掛けになっていた。いわゆる、
「最新型のマンション」
 だったのだ。
 その状態でマンションの中を覗き込むと、玄関先の通路から視線を徐々に上げていくことで、先の方まで見えてくるようになる。
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次