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マイナスの相乗効果

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 新たに店長を募集したとして、今の時代は、さほどブームの時期からすれば、低迷期に当たっていたので、新規人材が集まるかどうかも分からないし、ここで人件費を使うというのは、好ましくないという意見が多かったようだ。
 実際に、募集を掛けてみたが、集まる様子もなく、早い時期に店長募集をやめた。
 そこで内部異動が囁かれ、他の店での店長経験者を異動させようという話になったが、異動させるにたる適当な人物が見つからなかったことで、最後の手段として、
「内部昇格」
 が考えられた。
 そこで白羽の矢が立ったのが、大和というスタッフであった。
 彼はそもそも、店長候補生ということで、このグループに入社してきた。最初は店長教育を本部で受けて、いずれはどこかの店で店長をということで、今はその実践修行のようなことをしていた。
 実践修行をこなし、晴れて店長になれる時期がくれば、どこの店長になるかは、その時の会社の事情に任せるということであったが、今回は、
「店長の失踪」
 という非常事態なので、
「少し時期尚早ではないか?」
 という意見があるにはあったが、
「背に腹は代えられない」
 ということで、大和店長の誕生ということになったのだ。
 しかし、大和の方も、花園店長が失踪してから、警察に捜索願を出して、探してもらうという手続きは取っていた。
 ただ、大和がどこまで知っているかは分からないが、ただ失踪した人間がいて、捜索願を出したというだけでは、ほとんどの場合、警察は動いてはくれない。
 なぜならば、都会というところに、どれだけの人間がいて、そして、どれだけの人間が、一年で失踪をしているかということを考えると、それをいちいち調べるというのは、
「人員がどれだけ必要か?」
 ということになるのだ。
 ちなみに、年間での全国での行方不明者は、8万人から、9万人と言われる。つまり、一日に、全国で、200〜300人が失踪しているということになるのだ。
 都会ということになれば、そのうちの半分だとしても、100人、そうなると、毎日一つの警察署で、数人の行方不明者がいるということになるのだ。
 当然、この数というのは、
「警察に捜索願が出された数」
 ということになる。実際の行方不明者は、さらに多いことだろう。
 捜索願を出されたものを一つ一つ捜査をしていれば、捜索願の捜査だけで、一つの警察署に何人の捜査員が必要だというのだろう。数十人に足りる数ではない。とてもではないが、そんな人数を避けるわけもなく、ほとんどは、
「届は出ているが、捜査などされるはずのない人ばかり」
 ということになるのだろう。
 警察が捜査に乗り出す人は、
「何かの事件に巻き込まれた可能性のある人」
 あるいは、
「自殺の可能性のある人」
 などの、放っておくと、直接警察が関わることになりかねない人だけをピックアップして捜査をしている。彼らが最優先に取り組む相手であり、それ以外の人は、ほとんどが無視される。
 なんと言っても、
「行方不明といっても、本当に失踪なのか?」
 ともいえるからだ。
 ただ、誰にも言わずに雲隠れしていたり、旅行に行っているだけで、ある程度のほとぼりが冷めた頃に、フラッと帰ってくる可能性がないとは言えないからである。
 それを考えると、無駄に捜索をするのは得策ではない。しかも、ただ雲隠れしている人であれば、見つけてしまうと今度は本人から、
「せっかく隠れていたのに、なんで見つけちゃうんですか?」
 と、逆に文句を言われないとも限らない。
 いくら警察とはいえ、そこまで言われる筋合いはないと思うことだろう。
 だが、実際には。放っておいたものの中から、死体で見つかったり、何かの事件に関わっていたりしたということも多かったりするだろう。むしろ、失踪者の事件にかかわっていたというのは、まったく捜査をしなかった人の方に多いことだろう。そうなると世間からは、
「警察って、何かが起きなければ、動いてくれない」
 ということが言われるようになり、ストーカー事件などと同じレベルでの、警察に対しての市民の不満が鬱積することになるのだろう。
 だから、実際にも、花園店長の捜索は警察内部では行われていなかった。
 店側としても、
「捜索願を出しているのだから」
 という理由で、勝手に安心してしまったのか、次第に花園店長のことを気にする人はいなくなった。
 それよりも、
「今後の店をどうするか?」
 ということの方が大きな問題であり、一応本部の意向もあって、大和の内部昇格が決定したことになった。
「いきなりで悪いとは思うけど、引き受けていただけるかな?」
 と、本部の人の言い方は低姿勢であるが、内容はほとんど、
「上層部の決定なので、逆らえない」
 というものであった。
 最初こそ、ビックリして、どうしていいのか分からなかったが、そもそも店長候補生としての入社であったし。いつどこでこのようなことになるかも知れないという心構えは少しはしていた。しかし、捜索願を片方で出しているのに、いきなり来ると言うのはビックリだ。
 しかし、逆に考えれば、捜索願を出しているのだから、あとは店のことを第一に考えなければいけないということになるので、いつまでも店長の椅子を開けておくわけにはいかない。
 もしも、花園店長が見つかれば、他の店で店長が足りなければ、そっちに行くということもできるし、そもそも、誰にも何も言わずに失踪したわけだから、責任がないわけではない。
 いわゆる人事部長か、社長預かりということで、しばらくは仕事らしい仕事から離れさせる必要があるだろう。
 下手をすると、精神的に病んでいる可能性もあり、通院、入院が必要となれば、店長に戻すわけにもいかない。本当に一歩間違えれば、解雇されても文句がいえない立場なのではないだろうか。
 しかし、時間が経つにつれて、花園店長が見つかる可能性はどんどん減っていた。それどころか、誰も花園店長のことを口にする人はいない。もっとも、失踪してすぐには、事情も何も分からなかったことから、緘口令が敷かれて、余計なことを言わなかったため、失踪は一部の人間しか知らなかったが、捜索願を出したところあたりから、どこから漏れるのか、失踪したということがウワサにあったりしていたのだ。
 そんなお店で今では店長として何とかこなすことができている大和店長は、言い方は悪いが、
「花園店長には、いなくなってくれて感謝だな」
 と感じていたのも事実だった。
 そもそも、大和はこの店が好きだった。
 どこにでもある、普通のメイドカフェだったが、壁紙を張り替えることと、衣装を購入することで、いろいろできることが分かると、月替わりくらいで、コンセプトを変えていくということもできると考えた。
 壁紙を変えるのも、衣装を購入するのも、果てしなくコンセプトを広げていくわけではなく、いくつかのパターンごとにサイクルしていけばいいと思っているので、また数か月後には同じコンセプトになる。壁紙も衣装も最初から購入しているので、店内改装も、最小限の経費で賄うことができる。
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次