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マイナスの相乗効果

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 として築かれた街であっても、ファッション関係の店が立ち並ぶ都会と、コンセプトカフェなどが立ち並ぶ街とでは、同じ若者が集まってくる店でもそのおもむきは違うだろう。
 ファッションは時代時代で移り変わっていくので、その情報を敏感に察知し、どんどん新しさを取り入れていかないと、取り残されてしまう。
 逆にコンセプトカフェなどは、同じくブームの時期は短いのだが、これはすたれるというよりも、低迷の時期に入ったというもので、その時期を何とか乗り越えることができれば、またしても、ブームはやってくるので、マイナーチェンジくらいで切り抜けられていれば、またそこからブームに乗っかって、儲けることができる。どれだけ儲けることができたかで、次回のブームまでの低迷期を我慢できるかということなのである。
 だから、一攫千金を夢見ている人には、コンセプトカフェが似合っているかというのは難しいのではないだろうか? もちろん、個人の意見であるが、いろいろ手掛けて、うまいタイミングで枝から枝へ飛び移っていける人であれば、事業家としては成功なのかも知れないが、コンセプトカフェの経営の神髄がそこにあるとは思えない。
 ただ、
「ブームに乗っかる」
 という意味で、あくまでも、
「ブームの時期に稼ぐことができて、ブームが去りそうな時期をうまく察知して、さっさと撤退する」
 ということを最初から考えていて、そのことだけに徹していれば、それはそれで、成功という勲章を手に入れることができ、本人にとっては、大満足に違いない。
 実際にそういう人が多いのも分かっているつもりだ。
 しかし、考えるに、コンセプトカフェというものは文化であり、芸術と結びついている
と考えるのは、少し買いかぶりすぎなのだろうか?
 コンセプトカフェというくらいだから、その店には他の店とは違う何かをコンセプトにしているはずである。
 たとえやってくる客が、ヲタクと呼ばれる人たちであったとしても、キャストの女の子に推しの子がいるというだけであっても、少数派の中には、その店の芸術性を求めてきている人が多いはずである。
 そもそも、その店を始めたオーナーが、
「自分なら、こういうコンセプトでやってみたい」
 と最初に一度は強く思ったはずだ。
 大金を叩いて、店を出すのだから、
「これは俺の店なんだ」
 という思いを持って出すはずである。
 その店のコンセプトが、看護婦風であったり、西洋風のセレブな店風であったり、猫カフェや、フクロウカフェのような、動物系の癒しを求めるお店であったりと、いわゆる店長の、
「こだわり」
 というものがあるのだ。
 そのこだわりは、店の内装であったり、雰囲気や、衣装に至るまで統一されていれば、そこは、俗世間と切り離された別世界を彷彿させるのではないだろうか。
 それこそが、芸術であり、コンセプトカフェの本当のコンセプト、つまりは、
「コンセプトと、芸術性とは、切っても切れない関係にある」
 といってもいいだろう。
 それを考えると、
「ブームが去った低迷期を乗り越えて、また以前のような芸術的な世界を華やかに彩らせる時期がやってくると思うと頑張ることができる」
 と思うに違いなかった。
 だから、ブームが去って、どんどん店を畳んで撤退する人が後を絶えない中でも、一定数の店はそのまま存続させている。
 ただ、何もしていないわけではない。その間に何かをしようともがいている店もあれば、静かに、時期が来るのを待っている人もいる。店自体を貸し出し、ギャラリーのようにして、その貸出代を安くして、アマチュア芸術家を支援している人もいるだろう。
 そういうことを宣伝し、全国からファンがやってくるという店もあった。
 さすがに経営難になり、公式サイトにて、
「このまま赤字が続けば、来年をめどに閉店を計画している」
 とオーナーが書きこむと、全国にいるファンから、
「それは困る。俺たちが何とかする」
 と言って、クラウドファンディングなるやり方、あるいは、商品を福袋のような形にして、お店で売るだけではなく、アマゾンなどのサイトに出店してみたりと、いろいろやっているうちに、少しは余裕が出てきたのか、オーナーも、
「皆様のご支援にて、このままお店を継続することにいたしました。お店存続のため、ご助力いただきました皆様には、感謝いたします」
 と、サイトに掲載することで、何とか延命できたのだった。
 これは、店主の人柄と、このような店が全国単位であってもほとんどないコンセプトだということで、想像以上のファンが動いたのだろう。
 しかも、店主自体が芸術家ということもあり、アマチュア芸術家にとって、その店主というのは、
「カリスマ店主」
 に見えていたのかも知れない。
 実際に店に行ってみると、
「ただのおっさん」
 なのだが、逆にそれが気取っているわけではない、
「庶民の味方」
 というイメージが出来上がることで、店も盛り上がり、なかなか表に出ることのできないアマチュア芸術家の力の結集が分かるというものであった。
 そんなコンセプトカフェが立ち並んでいる都会の一角で、事件は起こった。
 というのは、コンセプトカフェの一つであるお店の店長が、行方不明になったのだ。
 そのお店というのは、普通のメイドカフェであったが、いろいろなところに店を構えていて、たとえば、夜になると、フェチバーのようなものをやっていたり、この街ではないが、少し離れた歓楽街で、キャバクラに近いサービスをする店にまで手を出していた。
 広域に手広く商売をしている一種にグループ会社であるが、そこの雇われ店長というべき一人の店長が、急に姿をくらましたのだった。
 その人の名前は、
「花園店長」
 という人だった。
 独身の30代後半の男性で、物静かなところがあり、ある意味、コンセプトカフェの雇われ店長ということであれば、見た目はピッタリではなかったか。
 コンセプトカフェというところは、いろいろあるがこの店の場合、接客のホールスタッフだけが客に接していて、調理スタッフ、あるいは、経営に携わるスタッフは、基本表に出ることはない。
 そういう意味で、見た目はピッタリといえるだろう。
 店長がいなくなった理由はハッキリしない。ウワサではいろいろあり、
「辞めていった女の子とできていて、店にいられなくなった」
 というものであったり、
「ギャンブルに手を染めてしまったことで、借金取りから逃げるため」
 という話であったり、
「店の金を使い込んだ」
 などという、いわゆる、
「金と女」
 という理由が当然のごとく、理由としては一番多いものが、まことしやかにささやかれていたのだ。
 ただ、こういうことは、コンセプトカフェをいくつも経営していると、たまにあることのようで、本社の方ではさほど慌てている様子はない。少なくとも、
「店の金に手を出した」
 ということはなく、そのウワサは事実無根だということになるのだろう。
 本社の方では、どうするかということが話されていたようだ。
「新たに店長を募集するか?」
 それとも、
「内部から擁立するか?」
 ということである。
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次