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マイナスの相乗効果

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「なるほど、そうかも知れないですね。でも、どうしても、今里氏が殺されたという確証がないといけない場合もあるでしょう? 例えば、今里が死んだことによって、誰か得する人間がいるとするならば、死体が発見されないと意味がないからですね?」
「そんな人物がいるんですかね?」
「それは分かりません。ただ、水面下というのが、ちょっと怖い気がするからですね」
 と刑事が言った。
「ただ、私は、花園店長が行方不明になったと聞いた時、最初にピンときたのは、戸籍売買のウワサだったんです。元々戸籍が偽証であったのだとすれば、何かの理由があって、一時期だけでも、身を隠さなければいけない事情ができたのではないかと思ってですね。そして、それが、今里氏の殺害に絡んでいるとすれば、花園店長を見つけ出すことが人解決に近づくことになると思ったんです」
 と、佐久間はいうのだった。
 ただ、新山刑事は、この佐久間という男を全面的に信用はしていない。情報をくれるという意味では、
「警察に対しての協力者だ」
 ということになるのだろうが、だからと言って、この男を全面的に信用などできるはずがない。
 以前、今里の死体が発見された時、佐久間は警察に対して、明らかにキレた様子であった。
 だから、警察の方も、
「この男、ちょっとヤバいんじゃないか?」
 と感じたのだった。
 何がヤバイのかということは、おぼろげであったが、警察を恫喝することで、ミスリードさせようという含みがあるように思えてならなかった。
 それなのに、今は警察に協力的ではないか。明らかに、自分主導で、警察の捜査をかく乱しようとしているのか、それとも、警察に取り入って、捜査情報を聞き出そうとしているのか、どちらにしても、
「海千山千」
 と感じさせる。
 策士と言っていいのかどうか、そこは難しいところであった。
 警察というものを、利用できると思っているのだとすると、案外浅はかな男だといえるだろう。
 さらに、警察から情報を引き出そうとしているのであれば、その態度はあからさま過ぎて、警察だってバカではないのだから、こんな見え透いた態度に引っかかるわけはない。
 となると、前のように、ミスリードを考えているのだろうか?
 ただ、ミスリードをさせて、この佐久間にどんな得があるというのだろうか?
 佐久間が今里を殺したというのであれば、この様子は分からなくもない。
 しかし、今のところ、佐久間には今里を殺す動機もなければ、今里が殺された時のアリバイは完璧だったのだ。
 アリバイが完璧であれば、つい頭の中を、
「交換殺人」
 というものがよぎるのだった。
 ただ、一つ気になっていることがある。
 それが、身元不明の死体が、その半年後に出てきたということだ。
 しかも、その2日後に、行方不明であった花園店長その人が他殺死体で見つかった。これが何を意味するというのか。
 昔読んだ、探偵小説の中に、
「一人二役トリック」
 と、
「顔のない死体のトリック」
 と合わせ技のようなものがあった。
 顔のない死体のトリックというのは、犯人と被害者が入れ替わっているという公式があるのだが、その作品は、最後に探偵が、
「加害者は、同一人物だった。つまりは、一人二役を演じていた」
 ということが分かったというのだ。
 ここで、前述の、一人二役というのは、最後まで分かってしまってはいけないトリックだということの証明にもなるのだが……。
 つまりは、被害者であっても、犯人であっても、どちらかの人物は存在しないのだ。犯人が存在しない人間だということになれば、犯人が捕まることはない。そのために、殺害されなければいけない一人が行方不明になって、その人が、自分の身代わりになって死体となるということだ。
 当然顔のない死体でなければいけないのは当たり前のことで、顔のない死体のトリックの公式を逆手に取った犯罪であった。
 この作品には、かなりの感銘を受けた。
 そして、今回、身元不明の死体が出てきたことと、戸籍売買の問題。さらに、行方不明の死体が後になってから発見されたということ。それらを考えてみると、実際にはありえないと思っている、
「交換殺人」
 という考えが、頭をよぎり、どこか現実的になってくるのを感じるのであった。
「もし、この交換殺人というものに、戸籍売買が絡んでKくれば?」
 と考えてみた。
 探偵小説では、一人二役と、顔のない死体のトリックを考えたことで、一人誰かが、ヤミで殺されることになる。
 今回は、行方不明者が一人殺されたことになったが、その人物だって、そのうちに身元が分かってくるに違いない。
 その2日後に殺された人物が、
「実は行方不明になっていた。半年前の殺人事件に絡んでいる人物だ」
 ということだったではないか?
 その人物と身元不明の人物が関係があり、戸籍売買によって成立する関係であったとすれば、
「ひょっとすると、身元不明の人物の戸籍は、2日後に殺されたと目されていた、花園だったのかも知れない」
 今回の一連の殺人で問題になるのは、
「誰が誰を殺したのかということよりも、別の発想から切り抜いたことで、見えてきた道だったのではないかと思うんです」
 と、新山刑事は言った。
「それはどういうことなんだい?」
 と聞いてきた先輩に対して、
「私が気になったのは、交換殺人というキーワードが、戸籍売買というものが裏に隠されていると思ったんです。一つは、関係があるかも知れない連続殺人のはずなのに、半年も離れているというのは、おかしいと思ったんですね。それは、きっと連続殺人だと思われたくないという思いだったのではないかとですね。でも、今回は、別に連続していようがいまいが関係ない。それよりも、水面下だということを隠してもいないのに、離れすぎているということ、本来なら、今里と、花園店長の関係を知られたくないはずですからね。でも、それが関係あると思わせないと、交換殺人の効果がない。つまり、まったく関係ない事件ということになれば、警察から疑われることはないかも知れないが、いくらアリバイがあったとしても、ずっと自分が容疑者として疑われて過ごすのって、きついですよね。それを嫌ったんじゃないかと思ったんですよ」
「なるほど、そうかも知れない。だけど、交換殺人ということになると、相手が、殺してほしい相手を殺してくれれば、自分がまた殺す必要はないはずなんじゃないか?」
 と先輩に言われて、
作品名:マイナスの相乗効果 作家名:森本晃次